13


強過ぎる力は相変わらず敵を倒す度に自分自身を傷付ける。
襲って来る敵は流石に強い。
更に数も多い。
その為、自傷しないように力を抑えて戦う程の余裕は無かった。

「くそっ! どんだけいやがるんだよい!」

襲って来る妖怪の殆どは、屍鬼に傀儡化された者達で、彼らの意志はそこには無い。
戦う為だけの道具とされたか、死した後に身体を盗られたか、強大な力を振り翳す割には目は虚ろで生気が無い。

―― よくこんなにも数を集めたない!

そんな敵ばかりを相手に戦っている内に嫌気が差したマルコは思わず不満を爆発させる。

「屍鬼は余程、暇を持て余したクソッたれ野郎かよい!」
「し、屍鬼様を愚弄するか貴様ァァ!!」
「あ”ァ”?」
「暇人みたいな物の言い草をするでないわ!!」

屍鬼に対する暴言を吐いたマルコにキーキーと甲高い声で反論する小さな妖怪がいる。
鬱陶し気に顔を歪めたマルコが声の主へと振り向くと、途端にキョトンとした様相へと変えた。

「……お前ェ、屍鬼の使い魔かい?」
「……ぬぅぅ、見た目だけで判断するとは、不死鳥もその程度かァァッ!!」

この妖怪は自らの意思で屍鬼の下に仕えているようだが、。怒り狂いながら襲って来るこの妖怪は見た目が明らかに子供のようにとても幼い。しかし口調は割と年配風。
目を丸くして首を捻りながら攻撃しようかどうか迷っているような素振りを見せるマルコに、妖怪は顔を真っ赤にして更に怒った。
しかし、その様は本当にただの駄々っ子のようにしか見えない。

「……おい、ガキは帰って大人しく寝てろよい」
「貴様ァ! これでもわしは二百を越えた年配者だぞ!?」
「二ひゃっ……マジかよい!?」

見た目はサコと然して変わらない。
黒く短い髪に多少緑がかった肌をしていて額には一本の角を生やしている。人間とは掛け離れた姿をしているが、黙ってさえいれば幼く可愛らしげのある小柄な子供にしか見えないのだ。
驚くマルコに対して妖怪は怒り心頭で、紫色の妖気を両手に溜め込むと容赦無くエネルギー派をぶっ放した。

「いッ!?」

怒りパワー全開といったところか、高圧縮されたエネルギー派は、想像を超えた凄まじいスピードでマルコを襲った。
慌てたマルコは何とかギリギリで躱して難を逃れた――が、別の妖怪が隙を突くように「死ねェ!」と叫びながら土色の妖気を纏った手を振り翳して殴り掛かって来た。
青い肌に彪髭を生やした筋骨隆々の妖怪の放つその攻撃を、マルコは咄嗟に両腕を交差させて防いだ。
ミシッ……――と、腕の骨が軋む音に苦悶の表情を浮かべたマルコだったが、その間に頭上から足が振り下ろされるのを察して身を翻せば、先の幼い顔をした少年(にしか見えない)が、間髪入れずに攻撃を仕掛けて来た。それを視界に捉えたマルコは咄嗟に身を引いてその攻撃を躱し、二人から距離を取ろうと飛び退いた――のだが、背後から黄緑色のエネルギー派が飛んで来てハッとする。

「連携攻撃かよい!!」

息の合った妖怪達の連携攻撃に驚きながらも何とかギリギリで躱し、黄緑色のエネルギー派は遥か先の海上に着弾した。

ドォォォン!

大きな音と共に爆発を起こし、海水が激しく高く昇って落ちて行く。
マルコは攻撃を放った者に視線を向けた。
黄色い肌をした妖怪が自身の顔に掛かる銀色の長い髪を優雅に手で払い除けて笑みを浮かべている。見た目は女が好きそうな二枚目な優男だ。

彪髭と優男もまた他の妖怪達とは異なってはっきりとした意志がある。そして明らかにレベルが高く強い。

マルコは広けた場所へと飛び退いて彼らから距離を取った。

三人は横一列に並び立つとマルコへと視線を向けて余裕を持った笑みを浮かべ、マルコは非常に不愉快だと言わんばかりに眉間に皺を寄せて睨み付けた。

一方――。
防衛に意識を集中させていた海兵達は、目の前で繰り広げられる戦いを見つめて立ち尽くしていた。
最早人間がどうこうできるようなものでは無い。

時折ガラガラと崩れ落ちる岩石や弾かれて着弾するエネルギー派に「ひぃ!!」と悲鳴を上げ、顔を青くして逃げ惑う。

こんな状態でとても近くで待機なんかしていられない。

『戦いが終結すると同時に不死鳥マルコを捕らえよ』――等と指示を受けてはいるが、その前に自分達の命が危ない。

「む、無理だ!」
「命がいくつあっても足りん! ここは撤退だ!!」

大将サカズキの命令であったと言えども死んでしまっては元も子もないのだ。
正義の名の元に戦う覚悟はあるが、これはそういう体のある話では無い。

海兵達は漸くその広場から撤退する動きを見せる。

マルコは襲って来る三人と彼らに追随して傀儡化した妖怪達の攻撃を往なして反撃しつつ、視界の端で彼らの動きを捉えていた。

―― 漸くか。……遅過ぎるぐれェだよい!

敵から視線を一瞬だけ外した時、黄色い肌をした銀髪の優男風の妖怪が間合いを詰めた。

「どこを見ている?」
「ッ!?」

マルコの左脇に添えるように手を翳すと黄緑色のエネルギー派が放たれた。

「しまっ――!」

流石にこの至近距離で躱すことはできなかった。

ドォォォン!!

大きな音と共に辺りには忽ち煙が舞い上がる。そこから勢い良く弾き飛ばされた黒い影が岩壁へと突っ込むのを目撃した海兵達はゴクリと固唾を飲んだ。

―― 流石に死んだんじゃないのか?

誰もがそう思わざるを得ない程に凄まじい攻撃が、海兵達に『絶望』の二文字を突き付けた。

妖怪の三人は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべた。しかし――。
ガラガラと崩れ落ちる岩石と舞い上がる砂埃の中から青い炎が激しく猛るように迸る様を見た途端に表情を変えた。

「まだ生きてるのか!?」
「ならば!」
「これで最後だ!」

追い打ちを掛けるように同時に妖気を高めてエネルギー派を放つ。
紫、土、そして黄緑の三色の高圧縮エネルギーが、青い炎が猛るその場所一点に目掛けて絡み合う様にして襲った。
だが、青い炎と共に放たれた青い霊気による厚い壁が突如として現れ、三色のエネルギー派はそれにぶつかった――と同時に、まるで力が増幅するように大きく膨れ上がっていく。

バァァンッ!

大きな音を発すると三人へと弾き返した。

「なっ!?」
「バカな!?」
「くっ!?」

紫、土、黄緑の三色のエネルギー派はより強大な力となって襲い掛かり、三人は懸命に躱した。するとエネルギー派は彼らの後ろにいた妖怪達を飲み込んで吹き飛ばし、更に遥か遠方まで飛んだそれらは海面にぶつかると、より大きな音と共に海水が激しく高く昇って高波が派生した。
三人はキッと睨み付ける。
多少自傷した腕に青い炎を灯して再生させるマルコが片眉を上げて軽く肩を竦めた。

―― 流石に霊気を強く高める分、自傷する傷は比例して酷くなる……か。

傷の修復能力が向上されているおかげで何とか耐えてはいるが、それでも痛みが激しく襲う。
顔には出さないよう努めて余裕を見せるが、俄かに嫌な汗がタラリと流れ落ちる。
空を見上げればまだまだ敵は増える一方だ。
「任せたぞい」と最後に言葉を残して消えた空幻の声を思い出したマルコは思わず「チッ!」と舌打ちをして溜息を吐いた。

―― マヒロ達が来るまで時間を稼ぐしかねェんだが……少し厳しいな。

そう思っていると、空に渦巻く中心から一際強大で異様な妖気を持つ者が現れたことにマルコは気付いた。眉間に更に深い皺を刻んで鋭く睨み付ける。

―― ティーチの姿を残しちゃあいるが……最早人じゃねェない。

額に大きな一角があり、それを中心に小さな角が周りに生えている。牙は鋭く、目は黒色に赤い眼光。その中心に金色の光。
笑みを浮かべ、口からは黒い煙を吐き出している。
その様は到底人では無い。
明らかに前回よりも姿はより化物らしく醜い姿へと変貌していた。

「「ゼハハハハッ! たった一人で全てを背負う覚悟か! 不死鳥!!」」

ティーチの声と屍鬼の声が二重に、島一帯に響き渡る程に大きな声で発された。
嫌味を含めた威圧的なその声にマルコが自ずと不快感を示す表情を浮かべると、屍鬼はニヤリと笑みを浮かべた。
その目は好奇の眼差しに欲を絡めた獲物を見るようなもので、舌舐め擦りをする口からタラリと涎が零れ落ちる。

―― 本当に不快極まり無ェ。これまで色々な奴がいたが、ティーチの面をしたこいつが一番最悪だよい……。

おっさんがおっさんを欲しがるとか、本当に勘弁してくれ――と、マルコは大きく溜息を吐いてガクリと項垂れた。
海兵達とは明らかに異なる『絶望』の二文字がマルコを襲う。

「絶対……、てめェだけには捕まらねェ! まだ、まだあの彪髭の妖怪の方がっ――……いや、無ェか……」

屍鬼から三人へと視線を移しながらマルコは独り言ちた。
ずっと『餌』として狙われて来た身だ。今更もう慣れたようなもんだ――否。

―― 慣れとかそういう問題じゃねェよい!?

変な葛藤が胸の内で沸き起こってイライラが募る。そしてまた更に何度も何度も接して、よく知った妖怪の気配が近くに現れたのを感じ取った。

―― カーナの気配……、姿は見えねェが……。

周囲に意識を巡らせるが姿は無い。気配を近くに感じているがどこかに身を隠しているのか――。だが不思議とあれだけ不快感を感じていたのに今ではそれが無い。それどころか、何故か彼女から発せられるそれがとても不安定で儚く哀れに思えてならなかった。

屍鬼は両手を広げながら高みの見物と言わんばかりに高らかに笑う。

「「ゼハハハハッ!!」」
「……」
「「これだけいりゃあ十分、自傷して弱るだろう? なァマルコ? ゼハハハハ!」」
「はァ、わざわざティーチらしく言ってんじゃねェよい」

マルコは自傷覚悟でより強い霊気を足元から全身を包む程に強く派生させた。
ジリジリと皮膚を焼き、切り裂き、それを修復に掛かる青い再生の炎が同時に舞う。
その様は異様ではあるが圧巻だ。
屍鬼は目を細めてそれを見つめ、背筋からゾクゾクと走る感覚に俄かに疑念を抱いた。
これは興奮によるものか、それとも――。

―― ……まさか、……たかが人間に扱えるような力ではあるまい。

気に病む必要は無い。そんな人間がいる等あり得ないのだからと、屍鬼は笑みを絶やしはしなかったが僅かにゴクリと固唾を飲んだ。
これは興奮だ。
この者の血肉を食らい、力を奪えば、勝るとも劣らぬ力が得られることの喜びだ。そして再び奪いに行くのだ、あの力を、『世界を制し圧する時空の力』を!

屍鬼は地の底から唸るような低い声で笑い、目が血走り、唇を舌で舐め、言い表し難い程の興奮にブルブルと身体を震わせた。

―― あァ欲しい。……その力を、……魂を……。

欲しい、欲しい! 欲しい!! 欲しい!!! 欲しい!!!!

腹の底から湧き上がる興奮と欲望に気付けば、身体は勝手に動いて黒く穢れた大きな玉の妖気をマルコに放っていた。

「屍鬼様!?」
「いきなりそのような攻撃をしては!!」
「殺す気ですか!?」

屍鬼に仕える妖怪達が驚きの声を上げて叫んだが、屍鬼の耳には届いていなかった。放つと同時に驚きに似た目をしていたが、ある気配に気付いた屍鬼はニヤリと笑みを浮かべた。

―― あァ、もう抱き飽きた。最早用済みとなった穢れきった女だ。貴様が壁になれば不死鳥は死にはせん。

『不死鳥を捕らえろ』――と、度々チャンスを与えたが結局何もできず、使えない女だと打ち捨てるつもりでいた。代わりにマヒロが手に入れば、この女は不要だと端から思っていたことだ。

―― 同情を誘って隙を伺い攻撃しろと指示を出したが、やはり抵抗するかカーナ。

放たれた黒玉は凄まじい威力とスピードでマルコを襲った。
マルコは避けようと思ったが、背後にいる海兵達の存在にハッとしたてその場に立ち止まった。そして咄嗟に両手に霊気を纏い、足にグッと力を入れて受け止めようと身構えた。
しかし、目前に迫るとその黒玉はただの妖気の塊によるエネルギー派と違うことに気付いた。

「ッ!?」

『死』の塊そのもの――咄嗟にそう頭に過った。
中途半端な力で受け止めてはいけない。下手をすれば受け止めた”手から先に死んでいく”と察した。
力無い者であれば、触れただけで恐らく命を絶って『死』を与える塊といったところだ。

―― なら、尚更避けることなんてできねェだろうがよい!

自らの身体を、命を削る覚悟で、全身全霊に力を溜めてそれを受け止める。
青い光と青い炎が黒玉を受け止める様に、屍鬼は目を見張って「ゼハハハハッ!」と盛大に笑った。
マルコが黒玉を受け止めたほんの一瞬だけ視線が合った。
苦悶に表情を歪めながらも鋭い視線は健在で、活きの良いその眼差しに屍鬼は芯からゾクゾクと更に興奮して狂喜してみせるのだった。
巨大な力と力がぶつかり合い、大きな轟音と共に爆発が起き、衝撃波が三人の妖怪達を襲った。
三人は両手で顔を防ぐ中、屍鬼は両手を広げながら大口を開けて高らかに笑った。

一方マルコは、その衝撃に弾かれるように後方へと勢い良く吹き飛ばされ、岩盤に背中から激しくぶつけてズルズルと地に座り込んだ。
両腕はダラリと力無く落ちて皮膚が焼け、切り刻まれたような切り傷がそこかしこに万遍無く広がり、血がダラダラと流れ落ちていた。
青い再生の炎は変わらず身体を包むが、傷を修復して痛みが消えるまでには多少時間が掛かりそうだ。
ただ、自身の腕を見つめながら悠長に事を構える気構えでいる自分に思わず自嘲して口角が上がる。
顔を上げて前方を見やれば、舞い上がる砂埃が風に吹かれて視界が開け、やけに喜々として喜ぶ屍鬼の姿を見止めると、反吐が出る程に嫌な気分になった。笑みは消えて大きく顰める。

―― ……興奮し過ぎだろい。……マジで絶対におれはてめェにだけは!!

ギリッと睨むと同時に屍鬼の側にいた三人が同時に再び妖気を高めてエネルギー派を放つ。それに気付いたマルコはギョッとした。

「くっ! 間髪入れずに追い討ちかよい!」
「「「大人しく屍鬼様の手に落ちろ不死鳥!!」」」
「ッ!? ほ、他に言葉があるだろうがよい!?」

思わず心の底から抵抗する言葉を放った。
一際張った声が自傷した傷に障る。
痛みが襲い苦痛に顔を歪めて視界が軽く飛ぶ。

―― 色々な意味で泣けるよい!

痛みでジワリと浮かんだ涙と言うよりは――あまり言葉にしたくないといったところ、気分は奈落の底に真っ逆さまに落ちて最悪な状態だ。

三色の強いエネルギー派が目前に迫る。
態勢を整えようとグッと力を込めるが痛みにより力は入らず、ただ最低限の抵抗としてできたのはダメージを受ける覚悟だけだった。
痛みに堪える為に自ずと目を瞑り掛けたその時、白い光と共に人影が現れるとマルコに覆い被さるように抱き付いて来た人物に目を見張り、心臓が大きくドクンッと跳ね上がった。

―― お前!!

ドォォォン!!

轟音が鳴り響き、衝撃で舞い上がった小石がパラパラと落ちて行く。
首に回された細腕と力無く凭れ掛かる細い身体を抱き留めながら、耳元で聞き慣れた声が弱々しく自分の名を呼んだ。
視界は砂埃で最悪だが、その人物の顔は直ぐ目の前にあってよく見える。
眉をハの字に笑みを浮かべているが、瞳から涙がポロポロと零れ落ち、口端から流れ落ちる血が顎へと伝い落ちる。
涙と血がマルコの頬に数的落ちるが、マルコはただ唖然として見つめるのみだ。

「……マル…コ……」
「ッ……カーナ……」

首に回す腕に力を入れて胸元へと引き寄せ抱き締める。
大事に大切に、そして愛おし気に――。

「……最初から、最初からこうして抗って身を呈していたら、少しは認めてくれたのかな……」
「ッ……!」

カーナはニコリと笑みを浮かべるとガクリと力無く倒れた。
マルコは痛みも忘れて咄嗟に腕を回して受け止め抱き寄せた。
カーナの背中は焼け爛れ、片翼が折れ、もう片方の翼は跡形も無くなっていた。そしてそこからは血がダラダラと流れ落ちて地面を赤く染めていった。

「カーナ、おい、しっかりしろい!」
「……好…き……」
「!」
「……あなたが…好き。……マル…コ……許して……」
「カーナ!!」

カーナの頬に手を添えて顔を覗き見れば血の気が引いた顔がそこにあって名を呼んだ。
カーナは涙を流しながら力無い笑みを浮かべると瞼をゆっくりと落とした。そして全身からガクリと力が抜け落ちた。

―― 待て! 死ぬな!!

カーナの背中に回した手に霊気と青い炎を纏う。だが助けるにしても傷は深く、どうすることもできない。
マヒロと同じ時、同じ場所、同じ力、同じ生き方をしたカーナは、マヒロと同じ――なのに。
ただ、纏う色が違うだけ。魂の色が違うだけ。
同じ『あお」なのに、違う『あお』。
たったそれだけのほんの小さな差が、とてつもなく大きく分厚い壁に感じた。
マヒロを助けるのとは勝手があまりにも違い過ぎた。

「くそっ!」

生気が失せ、みるみるうちに妖気は小さくなっていく。

「カーナ! カーナ!! 死ぬなよい!!」

懸命に声を掛けるが反応が無い。

―― おれはお前に酷い態度ばかりで何もしてやってねェってのによい!!

マヒロを思えば思う程、カーナもまた同じ境遇だっただけに、何とかしてやりたい気持ちを抱き、助ける気でいたというのに、こんな彼女の結末は望んでいない。

再生を!

強くそう願い、抱き締める腕に力を籠めると全身から再生の炎が激しく猛って彼女の身体を包んだ。

―― 死ぬな! 生きろ! もう、死なせたくねェんだ! もう、誰も、死んでくれるなよい!!

青い炎が周辺に舞う砂埃を払うと、三人の妖怪達はマルコの腕の中で力無く倒れるカーナに気付いて目を丸くした。

「案の定……か。けど、あれだけ穢れた身でよく抵抗できたものだ」
「惚れた男の為に身を犠牲にして守ろうと思う意志が屍鬼様の命令に勝ったというのか。……何をしても叶うことの無い想いの果てに起こした行動の末とは言え、ただの無駄骨だな」
「あれは元々人間だ。同情する気にはならんよ」

三人はバカにするようにクツリと笑った。
だが、その三人とは違い、少し離れて滞空する屍鬼は、カーナの回復を試みるマルコを観察するような眼差しを向けていた。

どれだけ身を落しても最後の牙城は崩さなかった女なのだ。
端から信用はしていない。
カーナの裏切りなどどうでも良い。
それよりも――。

三人の言葉にマルコは僅かにピクリと反応を示した。その瞬間、ほんの小さな程度に空気が変わったことに誰も気付いていない。
屍鬼だけが俄かに眉間に皺を寄せて表情を真顔に変え、警戒の色を模した眼差しで睨み付けた。
屍鬼もまた先程と違って纏う空気を変えたのだ。それに気付いたのは相対するマルコだけだったのだが、マルコは意にも介さないとばかりに無視を決め込んだ。

―― ……悪ィな……カーナ……。

自傷を気にもせず、懸命に回復を図るも一向に戻る気配が無い。
一度だけ屍鬼達の方へ向けた視線を再び腕の中で眠るカーナへ戻すと、頬に手を添え、濡れた目元を親指で拭った。

「折角弱り切ったところを回復されては困る」
「確かにそうだ」
「醜い戦いは好きでは無いのだが……仕方が無い」

再び三人はここぞとばかりに妖気を溜めて集中し始めた。
紫、土、黄緑のエネルギーが全身から放たれ柱となって空を貫いた。

本気で行く――。

彼らはギンッと鋭い眼差しをマルコに向け、力を放つべく腕に高圧縮のエネルギー派を作り始めた。
そんな彼らに一切目もくれず、マルコはカーナを抱え直して抱き締めた。その時、マルコは僅かに目を丸くした。

―― 何だ、そういうことかよい。

抱き締める力を緩めたマルコはクツリと笑みを零した。

「ちょっと損した気分だよい」

小さく独り言ちるようにマルコは呟いた。

最終決戦 T

〆栞
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