03


マルコがいざ本気になると全てが早かった。彼の力は兎角絶大で、最早人の域では無かった。
その力を目の当たりにした者達は、ただただ呆然として息を呑むばかりである。それは遠く離れた場所でこの戦いを映像越しで見守っていた人々も同じ様相で、誰もが言葉を失った。

マルコはサッチの攻撃を避けると同時にまずエースを襲った。
エースの胸元に掌底を当てると肩から手先に向けて青い炎と光を伴うエネルギー派をぶち込んだ。

「エース!? 何するんだよてめェ!!」

一連を見ていたルフィが怒ってマルコに襲い掛かろうとしたが、ジンベエが慌ててそれを取り押さえた。

「よく見るんじゃルフィ君!!」

宥めるジンベエの言葉を耳にしたルフィはエースへと目を向けた。するとエースの身体から黒い何かが弾けるようにして出て行くのが見えた。
エースはその場に膝をガクリと落とすとマルコが咄嗟にその身体を支えて何やら声を掛けている。
マルコの表情からしてルフィは先程の攻撃はエースを殺そうとしたものではないことを察した。

エースの身体からはじき出された黒い影は、ゴロゴロと地面を転がりバタリと力無く倒れた。
坊主頭で髭を蓄えた老いた老人のようにも見える。肌は青黒く変色しており、人の形をしているが人では無いことがはっきりとわかる。
その者の姿を見て酷く反応をしたのは白ひげ海賊団だ。彼らはその者が『見知った者』とよく似ていることに驚いたのだ。

「……はァはァ、……すまねェ……マル…コ……」
「毒の汚染が酷ェな。まだ耐えられるかい?」
「……けほっ、……ハハ、あァ、何とかっ、我慢…する……」

エースが軽く咳き込むと地面を赤黒い血で染めた。

―― マヒロと違って再生しねェから長くは持ちそうにねェない。

マルコは視線を周囲に向けてマヒロを探した。
多くの人や妖怪が入り乱れる中、かなりの距離があったにも関わらずピンポイントでマヒロの姿を容易に見つけた。
よく見知った二人を相手に苦戦しているところだ。

「隙だらけだぜマルコ!」
「!」

マヒロを探して見つける隙に、サッチがマルコへと攻撃を繰り出した。
マルコはエースを抱えてその攻撃を何とか躱したのだが、寸分の時間差攻撃で他の妖怪が攻撃して来た。その攻撃も何とかギリギリで躱して彼らから距離を保とうと飛び退いた。するとそこに小さな影が割り込むように現れた。

チシだ。

「お前!」
「私が治してあげるから! エースお兄ちゃん待っててね!」
「チシ! 危ねェから出て来るなって言ったろい!?」
「ごめんなさい。でも”命の回復”は私の役割だもの!」
「だからってお前ッ――」
「マルコ、チシに任せな」
「――ッ! ……イゾウ」
「船に連れて帰って診させるなら文句は無ェだろ?」

近くにいたイゾウが駆け付けてそう声を掛けるとマルコは少し考えたが小さく溜息を吐くとコクリと頷いた。

「……わかった、頼むよい」

マルコはイゾウにエースを託し、チシはエースに駆け寄って班点が色濃く浮き出た腹部に手を当てて具合を診始めた。そして、その場を離れようとしたマルコはハッとして足を止めると両腕を不死鳥化し、自分達に向けられて放たれた攻撃を防いだ。
イゾウはエースを抱えたままチシを抱き込む様にして庇い、その間にジョズ達が駆け寄ってエースを抱えて「急げ」とイゾウとチシに声を掛けた。

―― 頭の固ェ野郎だ! こんな状況でも関係無しに狙ってくるたァ大した正義だよ!

イゾウは舌打ちをしながら苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、攻撃を仕掛けて来た者を一瞥して退却した。

「このまま黙って見逃がすと思ちょるんか!!」
「ったく、こんな状況でもやることは変わらねェかよい!」
「当然じゃ! わけのわからん状況じゃが、ワシの役目は貴様ら海賊を取り押さえることじゃけェ何ら変わらんわ!」

海軍が誇る三大将が一人、赤犬のサカズキは腕をマグマへと変えながら周囲にいる海兵達に怒声を放つ。

「ぼさっとしちょらんと海賊共を殲滅せい!!」

見たことの無い異形の姿をした妖怪等には見向きもせず、サカズキはマルコに攻撃を仕掛けようとした。

―― この5000ベリ―……あ、そうだよい!

ギリッと歯を食い縛って睨み付けたマルコだったがハッとして表情を一変した。

「てめェ! マヒロの賞金に5000ベリーの上乗せって、ありゃあ何なんだよい!?」
「!!」

喧嘩した相手に対する腹いせの5000ベリー。

かなり前に受けた衝撃をマルコは今、この時、この状況下で思い出してついつい叫んでしまった。それに対してサカズキは大いに目を見開くと共に「そういえば!」と何かを思い出して視線をマルコから外した。
眼光を鋭くして睨み付けた先には遠方で戦うマヒロがいる。

「おんどれあの小娘が! 誰が”器の小さい女々しい報復をする男”じゃああ!!」
「……あァ、それ…ねい……」

額に青筋を浮かべて全力で怒りの声を上げるサカズキにマルコはヒクリと頬を引き攣らせた。
器の小さい女々しい報復をする男というのは、白ひげ海賊団の中で広まったサカズキの代名詞だった。だがしかし、何故それを当の本人が知っているのか、眉を顰めたマルコは首を傾げた。
徐にモビー・ディック号へと視線を向けた時、妖怪の登場によって王下七武海との戦いを区切って撤退していたハルタとラクヨウが苦笑を浮かべて笑っている姿を見つけた。

―― お前ェらかよい!?

あまりに面白かったネタだったから、行く先々でついつい色々な人に話してしまった――明らかにそんな顔をしていた。そして彼らの心がそう自白していた。

呆れにも似た表情を浮かべたマルコは額に手を当てて小さくかぶりを振った。だが直ぐにハッとしてそれどころでは無かったと我を取り戻した――その瞬間、ヒュンッと風を切る音が耳を掠め、ズガンッと地面を叩き割るような音を発しながら切り裂く大地を目にした。そして思わずギョッとする。

「不思議な力を使う。短期間の内に非常に強くなったという噂を聞いてはいたが、どうやら強ち嘘では無かったようだ」
「鷹の目!?」

ヒュンッ――!

「!」
「フフフフッ、面白そうな力を持ってやがるなァ不死鳥」
「くっ!」

攻撃を仕掛けて来たのは鷹の目のミホークだった。更に背後からイトイトの実の能力による攻撃が放たれ、咄嗟に躱せば現れたのはドンキホーテ・ドフラミンゴだ。
彼らは確かビスタ、ハルタ、ラクヨウが相手をしていた。だが彼らが撤退すると共に後を追って来た二人はどうやら標的をマルコに変えた模様。

「あちゃー! まずかった?」
「……うむ、どうやら余計な仕事を増やしてしまったようだ」
「雑魚の駆逐が目的だったからなァ、あいつらがあっちに向かうってェのはあんまり考えてなかったぜ」
「「「すまんマルコ!!」」」
「妖怪より性質悪ィだろい!?」

遠くで謝罪する三人にマルコは思わずツッコんだ。

―― クソッ! 仕方が無ェ……。それもこれも”餌”はでけェ方が釣れる魚もでけェって奴だよい。

マルコは大きく息を吐くと器用に個別化して放っていた覇気を一つに集約して一気に周囲へと放った。

「何!?」
「覇王色の覇気だと?」
「バカな!?」

マルコを中心に広範囲に放たれた覇王色の覇気。
ミホーク、ドフラミンゴ、サカズキは三者三様に驚いて少し後退した。
更に海兵達は顔を青褪めながら尻餅を着いて震え上がり、中には中将クラスでさえも耐え切れずに身体の自由を奪われ恐れ慄いた。
また、インペルダウンの囚人達や未だ撤退途中の白ひげ海賊団の隊員達、そして妖怪でさえも同じように恐れを抱いて動けなくなった。

―― 何て強ェ覇気してやがんだ。 ……だがこりゃあどういうことだ?

船上から見ていた白ひげは眉を顰めた。
マルコが初めて見せる本気の覇気は周囲の者達を唖然とさせた。それが覇王色だということだけでも驚きだが、それ以上に、とてつもなく鋭くぶ厚い圧力に押し潰されそうになる程の力を感じた。
王下七武海の彼らや三大将でさえも圧倒される程の力だ。
だがしかし――。
誰一人とて気を失う者はいなかった。
下っ端の海兵でさえも気を失っていないのだ。あれだけ圧倒的な覇気を放っているにも関わらずにだ。

―― ……ただの脅し。力の差を示すだけに留めたってェことか? ……器用なことをしやがる。

「バカな……! 覇王色の覇気だと!? 不死鳥マルコは武装色の覇気使いのはず……!」
「ただの覇王色の覇気とは思えん。この異常な圧力は何じゃ? それに…、何故誰一人とて気を失う者がおらんとは……」

処刑台にいるセンゴクやガープも驚きの眼差しでマルコを見つめていたが、ティーチが盛大に笑い声を上げると彼らは直ぐにハッとしてティーチに向けて警戒を露わにした。
ティーチは楽し気な笑みを浮かべたままマルコをじっと見つめていた――が、小さく舌打ちをした。

―― ほとほと甘い男だ不死鳥 / 本当に甘ェ男だぜマルコ。

「「本気を出してみろ」」

ティーチの声が突如として二重となり、センゴクとガープは耳を疑いつつ目を見張った。
ティーチの眼光が人間のそれから徐々に変わる。
白が黒へ、黒い瞳孔は赤へ、その中央に金色の光が灯される。笑う口元からは黒い煙のようなものが吐き出され、額にはゴツゴツとした角の様なものがいくつも浮かび上がっていった。それは突然現れた異形の者達のように人から掛け離れた姿だった。

変貌を遂げたティーチは両手を空へと突き上げるように翳した。

「「ゼハハハハッ!」」

マルコとマヒロは戦いながら空に目を向けた。

―― チッ! どんだけ呼ぶ気だよい! ティーチ!!
―― 嘘…でしょ? 王牙鬼レベルの強さを持った妖怪がこんなにもいるなんて……。

「ゼハハハハッ! 午聶!! サッチの印を解放しやがれ!!」
「うひゅひゅひゅっ! わかりましたん!」

遥か上空に亀裂が入る。それと同時に多くの異形の者が姿を現し、次から次へと地上へと降り立った。
最早、海軍と海賊の戦争所では無くなった。

「ひぃぃっ!? ば、化物があんなにも!!」

海兵達は恐れ慄くと大砲部隊や銃撃部隊が挙って妖怪達に向けて攻撃をした。だが、一匹の妖怪が軽く手を振ると紫色の閃光が放たれて彼らを襲い、大きな衝撃音と共に海兵達は重傷を負った。
吹き飛ばされた者は痙攣を起こし、多くの者が瀕死状態へと陥り虫の息だ。中には即死の者もいた。
更に妖怪が放った衝撃派によって大砲等の火薬に引火し、辺りは次々と爆発を起こして火の海へと忽ち変わっていった。

「お前ェら、休戦だよい。今は一人でも多く此処から避難させねェともっと酷いことになるよい」
「あれと戦う気か?」
「フフフッ、不死鳥、誰に命令してやがる?」
「またわけのわからん連中がァ、邪魔しよって!」

ミホークはマルコに対する構えを解かず、ドフラミンゴも然してマルコの言葉に従うわけでも無く、サカズキは端から聞く耳持たずだ。

―― どんな状況かわかってねェのか。

不快な表情を浮かべたマルコが口を開こうとした時だ。

「てめェらァァァ! 瀕死の奴らに手を貸してやれ!! 海賊も海軍も関係無ェ!! 今は生き残ることを先決に行動しやがれェェ!!」
「「「了解!!」」」
「…! オヤジ!」

マルコが声を張る前に白ひげが大きな声を張り上げて指示を出した。白ひげ海賊団は呼応して返事をすると、即座に重傷を負った海兵達の元へと隊員達が走り出して助け始めた。
彼らの行動には流石にセンゴクも芯から驚いたようで暫く呆然と立ち尽くして見つめていた。

「センゴク、休戦じゃ! 今は白ひげの言うように生き残ることを先決とすべきじゃ! あのような化物を相手にこのままでは分が悪い!!」
「くっ……!」

ガープが諫めるようにセンゴクにそう言うと、センゴクは顔を顰めて苦々し表情を浮かべた。

「「ゼハハハハッ!! なァに、苦心するこたァねェぜ? 貴様らに良い条件をやろうじゃねェか」」
「な、何だと?」

下卑た笑みを浮かべたティーチの言葉にセンゴクは眉間に皺を寄せ、ガープもまた警戒した表情でティーチを睨み付けた。

「「――――――――」」
「「!!」」

数体の妖怪が周囲に攻撃を放ったことで激しい爆撃音が辺りに響き、ティーチの声は掻き消された――が、センゴクとガープの二人にはその言葉がはっきりと聞き取れた。そして驚きの表情を浮かべて固まった。

「……な、何故なんじゃ……?」
「不死鳥を捕らえろだと?」
「「捕らえて弱らせてくれりゃあ良い。そうすりゃあ総攻撃だけは止めてやる」」
「な、何だと!?」
「まさかあれよりもっと多くいると言うのか!? ……あのような化物が!?」

愕然とするセンゴクとガープにティーチはニヤリと笑むと踵を返して背を向けた。

「「おれァここで一度撤退する。あァ、ここにいる妖怪どもを駆逐しようなんてバカな考えは止めることだ。あいつが一人で何とかするだろうがなァ。ゼハハハハッ!」」

ティーチは顎でマルコを指し示して笑うと足元から黒い靄を巻き起こして全身を覆い、フッとその場から姿を消した。

「せ、センゴクよ、どうするつもりじゃ……?」
「わからん。何故あのような条件を突き付けるのか、見極めねば何ともっ――なっ!?」
「何じゃどうし――ッ!?」

広場中央に視線を向けたセンゴクが驚きの声を上げると釣られるようにガープも中央へと視線を向けると目を見張った。
青い光のエネルギーが空中にいる多くの妖怪達を襲い一掃したのだ。
誰もが唖然とした。
青い光のエネルギーを放った人物は他の誰でも無い、青い炎とエネルギーを纏うマルコだ。

直ぐ側でそれを目の当たりにしたミホーク達も、他の海兵達も驚いた表情を浮かべてマルコを見やった。
あまりにも異質な力。それもとてつもなく巨大で強力で脅威以外の何ものでも無い。

「本気を出さねェとこの場を凌げねェからよい。悪ィが……、気を失った奴らを助け出してやってくれよい」
「「「!!」」」

マルコは微笑を零してそう言うと地を蹴ってその場を後にした。

「フフフ……、ククッ……、奴ら化物以上に奴の方が化物じゃねェか」
「……」
「ぬぅ……不死鳥……」

三者三様にそれぞれ受け止め方も思うことも異なっているが、とりあえず『一時休戦』だけは合致したのか、それぞれその場から何も言わずに散っていった。
海兵達もそれぞれ怪我を負った者達を助け、その場から避難を始めるのだが、全ての事から置いてけぼりを喰らって孤立しているのはインペルダウンの囚人達だ。

「おおお恐ろしいガネー!! 怖いガネー!!」
「ななな何つぅハデな姿をした化物共だ!? あああいつなんて腕が異様に長ェ上に六本もあるじゃねェか!!」
「あれなんて牙が凄いっちゃぶるわよ!?」
「どどどどうすんですかキャプテン・バギー!」
「ハデにバカな声でおれの名を呼ぶんじゃねェ! 目ェ付けられたらどうすんだ!? あんな化物相手に何ができるってんだ!」

バギーやMr.3にイワンコフ等、誰もがパニックを起こしていた。

「お前さん方!! こんな所でオロオロしとる場合か! 逃げんか!!」
「「「どこに!?」」」
「ジンベエ!! 離せって!! おれは早くエースの所に行かねェと!!」

暴れるルフィを抱えたジンベエに悲鳴にも似た声で叫ぶ囚人達。彼らは兎にも角にも酷く焦っていて冷静さを完全に失っていた。
完全な放置っぷりでどうしたら良いのかわからないのだ。
ジンベエに抱えられたルフィは最早エースのことだけしか頭に無く、この状況を全く飲み込めていない――と言うよりは見えていない。
そんな彼らの元に二体の妖怪が目を付けて襲い掛かった。それに一早く気付いたのはバギーとMr.3だ。

「ぎゃあああ!! 何でこっち来てやがんだァァァ!?」
「怖いガネー!! 死にたくないガネー!!!」

バギーとMr.3は恐怖のあまりにヒシッと抱き合って泣き叫んだ。

「アイスブロック、フェザントベック!!」

ズガァァァン!!

「「!!」」
「あんたら、とりあえずここでゴチャゴチャ言ってる場合じゃないでしょ。ここ、戦闘のほぼ中央だ」

襲い来る二体の妖怪を撃破したのは海軍三大将が一人、青雉のクザンだった。
首元に手を置いて溜息混じりに今いる場所を指差して告げるとバギーとMr.3と囚人達は絶句した。

「は、はははハデにど真ん中ァァ!?」
「格好の的だガネー!!!」

パニックを起こす彼らにクザンは呆れた表情を浮かべながらモビー・ディック号へと指を指した。

「とりあえず白ひげの船にでも乗せて貰ったら良いんじゃないの」
「うむ、そうさせてもらうつもりじゃ。……すまん」

クザンにジンベエがそう言うとクザンは軽く肩を竦めた。

「こういう状況下じゃ海軍も海賊も無いでしょ。ねェ黄猿さん」
「!」

ジンベエはハッとしてクザンの視線の先へと顔を向けた。そこには海軍三大将が一人、黄猿のボルサリーノが立っていた。

「ふぃ〜……、何とも不気味な輩ばかりだねェ。あっしの攻撃がてんで効いちゃいない。けど、クザンの氷は効いてるみたいだねェ」
「いや、そうでも無いみたいですよ」

クザンが凍らせた二体の妖怪は暫く固まって動かなかったが、直ぐにガタガタと震えだしてピシピシと音を鳴らし始めた。
氷の中から黒目に白い眼光を持った目でクザン達をギロリと睨み付けている。

「今のうちに撤退した方が良いでしょ」
「やれやれ、まさかこんな化物が世の中にいるなんて想像してもいなかったよ」

クザンとボルサリーノはそう言うと動けない海兵達を助けながらその場からさっさと撤退していった。
ジンベエはインペルダウンの囚人達に声を掛けてモビー・ディック号を目指して走った。

ガブッ!

「痛ッ!?」

腕に激痛が走ったジンベエは咬み付いて来たルフィを咄嗟に離した。

「な、何するんじゃルフィ君!!」
「いつまでおれを抱えるジンベエが悪ィ! ……って、何だアレ?」
「「「えェェェ!? 今!?!?」」」
「今更気付くって遅過ぎっちゃぶるわよ麦わらボーイ!!」
「ある意味、ハデにでかい器っつぅか……」
「感心してる場合カネー!!? 敵が襲って来たガネェェッ!!!」

新たに別の二体の妖怪が彼らに襲い掛かろうとしていた。ジンベエやイワンコフは慌てて身構えるもとんでもない誤算が起きた。

「うひょー!? かっけェェェ!!!」
「「「えェェェ!? どこが!!?」」」

襲い来る妖怪の姿を見た途端にルフィが目を輝かせて叫んだ。それに囚人達は声を揃えてツッコんだ。

「ハデに趣味を疑うぜ麦わらァァァ!!」
「キモいガネー!! 恐ろしいガネー!!」
「麦わらボーイ!! 目をキラキラさせて喜んでる場合じゃないっちゃぶるわよ!!」

ルフィは逃げるどころか今にも飛び付きそうな勢いだ。
ジンベエは慌ててルフィを押さえるものの、彼らの都合等お構い無しに妖怪達は攻撃を仕掛けようとした。
ルフィ以外の者達は全員が青褪めて悲鳴を上げて目を瞑った。

ヒュンッ――!

風を切るような音がした。――かと思うとズガンッと激しい衝撃音が木霊して身体がビクリと跳ねた。
しかし、何時まで経っても身体に痛みも衝撃も来ないことに不思議に思った彼らは恐る恐る目を開けた。
バサッバサッ…――と、両腕を翼に変えたマルコが二体の妖怪を蹴り飛ばして撃退した姿がそこにあった。

「ジンベエ、そいつらをモビーに連れて行け」
「す、すまん、助かっ――」
「お前ェ! 凄ェェな!!」
「――ルフィ君!?」

ジンベエの言葉を遮ってルフィは間に割り込んだ。

「エースの弟かよい?」
「ん? あァ、エースはおれの兄ちゃんだ!! ……って、何で知ってんだ?」

ルフィが首を傾げて不思議そうな表情を浮かべるとマルコはクツリと笑ってルフィの頭に手を置いた。

「おれにとっちゃあエースは大事な弟分でなァ」
「……エースが弟?」
「麦わらのルフィ、お前ェの話はエースから聞いてるよい」
「そうなのか?」

マルコはコクリと頷くとモビー・ディック号へと視線を向けた。

「エースはおれ達の船にいるからよい。早く行ってやれ」
「そっか、わかった!」

ルフィはニシシと笑うと「ありがとな!」と言って走り出した――が、直ぐにピタリと足を止めて振り向いた。

「どうしたんじゃルフィ君?」

ジンベエが声を掛けたがルフィはじっとマルコを見つめ、マルコは片眉を上げた。

「なァお前ェ……」
「何だい?」
「おれの仲間になれ!」
「……は?」
「ニシシ! お前ェかっけェェからな!! 全部終わったら絶対におれの仲間になれ! 約束だぞ!!」
「ちょっ――」
「エースゥゥゥッ!!!」
「――……おれの意思は無視かよい……」

モビー・ディック号へ猛ダッシュして行くルフィの背中を見つめ、マルコはヒクリと頬を引き攣らせた。

一瞬、何故かルフィが赤髪シャンクスと被って見えた。
人の話を聞いちゃあいない。
状況を飲み込むこともしない。
己の心の赴くままに行動する図太さ。
エトセトラ――。

眉間に自然と皺が寄るのも仕方が無い。

「あ、後でお前さんのことをワシからちゃんと話しておく」
「……あァ、わかった。頼むよいジンベエ」

マルコはガクリと項垂れてそれだけ告げると戦場へと戻って行った。

「とてつもなく凄いっちゃるぶるわね。不死鳥マルコのあの力はどういうことっちゃぶる?」
「ハデに逃げる!!」
「急ぐガネ!! 逃げるガネ!!」
「「「イワさん走って!! 頭が邪魔で通れねェェッ!!」」」

狭い通路に頭のデカいイワンコフが立ち止まって首を捻っていた。早くその場から逃げたい者達は目の前で立ち止まったイワンコフが邪魔で通れずに悲鳴を上げた。

「ハデにでかすぎんだよその頭ァァァ!!!」
「邪魔だガネー!!!」
「お、落ち着くんじゃ!!」

―― ……賑やかな連中だよい……。

マルコは戦いながらその様を見て溜息を吐いた。

混沌とした戦場

〆栞
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