18


何だか凄く寂し気なシャンクスの後ろ姿に、流石に空幻も少しだけ同情した。

「誰じゃ、こんな可哀想なことをしたのは」
「原因はお前ェだろい」

マルコが冷え切った声で釘を刺すと空幻は顎鬚を撫でながら「そうじゃったかの?」とお道化て笑った。
目の前で繰り広げられる戦いを見つめるシャンクスは、居ても立ってもいられないような雰囲気を醸しつつ、だからと言って途中参戦も何だか違う気がして動けずにいた。
とりあえずこの状況の何もかもを理解しなくては何も出来ないと判断したシャンクスは、隣に立つマルコに視線を向けた。

「……マルコ」
「何だい赤髪?」
「さっき言ったことは何だ? ティーチがあの化物達の親玉とはどういうことだ? それに奴の狙いがマルコだとどうして言い切れるんだ」
「パパが天敵だからだよ」
「パパが強いからだよ」
「へェ、そうか〜! 君達のパパはそんなに凄いんだなァ!」

シャンクスは腰を屈めて女の子に笑顔を向けて優しく頭を撫で、そしてマルコが抱いているサコにも同じように笑顔を向けて優しく頭を撫でた。そしてゆっくりとマルコに顔を向けると笑顔を瞬時に消して真顔になった。

「……って、わからん。マルコ、ちゃんと説明してくれ」

多少イラついているのかその表情はとても険しい。

「グララララッ! とりあえずあいつらを撃退してからにしやがれ! 詳しい話は後だ赤髪!」
「ッ…、話してくれんだろうな?」

シャンクスが白ひげにそう言うと白ひげはニヤリと笑みを浮かべた。

「ついでに良いことを教えてやろう。例え相手が化物であったとしても覇気は有効だ。それに、お前ェんとこの連中も好戦的な奴らが多いんだ。そうそう襲われようが大した傷は負わねェだろうぜ」
「気負いは無いさ。それに……、あいつらは見た目程に大して強くは無さそうだ」
「捨て駒だからだよい」
「捨て駒?」
「腕のある奴はおれに当てるつもりでいるだろうからねい。下っ端の妖怪を大量に送り込んでんだ。人間相手にはそれで十分だと思ってやがんだろうなァ。屍鬼……、あー、ティーチが人間の強さを舐めてる証拠だよい」

マルコはそう言うと徐に右手をレッドフォース号の上空へと向けて翳し、人差し指を指した。

「何だ?」

シャンクスは不思議そうにマルコが指を指す方向に視線を向けたが、突如として青い光がマルコの人差し指に集まる様相に気付いて目を丸くした。

「な、何だそりゃ?」
「霊気だよい」
「レイキ?」
「グララララッ! あいつら妖怪共に対抗できる唯一の力だ!」
「!」
「あァ、こいつはマヒロから貰った力だよい」
「なっ、マヒロから貰っただァ!?」

上空に押し寄せる妖怪の群れの中で数体の妖怪達が、モビー・ディック号の甲板にいるマルコと白ひげの存在を確認した。そして数体の妖怪達は方向を変えてモビー・ディック号へと攻撃を仕掛けようと突っ込んで来た。

「死ねェェ白ひげェェェ!!」
「霊気を溜めて構えてる奴が横にいるってェのに、バカみてェに突っ込む時点でお前ェらの程度は高が知れるよい」

ドォン!

「「「!?」」」

溜息混じりにそう零すとマルコは特大の霊丸を彼らに向けてぶっ放した。
当然その青いエネルギー弾は彼らの身体を見事に吹き飛ばした。
放たれたスピードはとても速く、威力はバカでかい。
レッドフォース号の甲板にいた妖怪達はそれを見るなり肝を冷やして恐れ慄き始めた。

「あああんな化物相手に戦えるわけがねェ!!」
「に、人間じゃねェ! 何だってあんな強ェ霊気弾を放てんだよ!?」
「っつぅか、こいつら人間も強ェ奴らばかりで、おれ達にゃあどうにもならねェ!!」
「に、逃げるぞ!!」

妖怪達は口々にそう言うと尻尾を巻いて凄い勢いで撤退を始めた。

「グララララ! おれの覇気以上の効果があるじゃねェかマルコ!」
「……脅すつもりは無かったんだけどよい……」
「何じゃ、もう終わりか。……面白くないのう」
「パパ〜、ボク、お腹空いた」
「ねェパパ、あの船の人達も、この赤い髪のおじちゃんも、パパと同じ海賊さんなの?」
「……」

シャンクスは自分が呆然と立ち尽くしている横で、白ひげやマルコ等、彼らにとっては至極当然の出来事なのか平然として日常の会話をしていることに違和感を半端無く感じて、心の底から戸惑い困惑した。

―― 住んでる世界があまりにも違い過ぎやしねェか……?

そう思った時、ふとマヒロのことを思い出した。

―― 確かにあの子も普通という感じではなかったな……。

そう思うと、この現状に不思議と納得してしまった。

「あ、」
「どうしたよい?」
「確かマヒロは毒に侵されていたはずだが……」
「あァ、おれが治したよい」
「……成程…な……」

―― マルコが強ェって噂は本当だったんだな。……化物染みた強さだが……。

シャンクスは人伝の噂でしかない情報は然して信じるタイプでは無い。だが、実際に顔を突き合わせ、実力の片鱗を見せつけられた今となってはその噂は本当だったのだと納得した。

「ベンが言っていた通りだな。マヒロが好いた男がマルコってェのは流石に驚いたが、悪くないな」

シャンクスが眉間に手を当てて笑ってそう言うとマルコは片眉を上げて直ぐにニヤリと笑った。

「化物染みた強さねい。まァ褒め言葉として受け取っておくよい」
「は!? な、何でわかる!?」
「パパ、あんまり人の心を読んでると、またママに怒られちゃうよ?」
「パパー! お腹空いたー!!」
「ッ、あァ、わかってるよいチシ。サコ、ちょっとだけ我慢だよい。おい! 4番隊!!」
「心を読むだァ? ……いや、それより何と言うか、ちゃんとパパしてんだなマルコ……」
「ッ……」

シャンクス疑問を抱きつつも女の子の忠告に素直に返事をしながら空腹でベソをかき始める男の子の涙を手で拭いながら軽くあやすマルコの姿にシャンクスはほとほと感心した。
それに対しマルコはカァァッと顔を赤くして苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらシャンクスから顔を背けた。

「だっはっはっ! 耳まで赤くなってるぞ? 見事なパパっぷりにおれは感動したぜ! なァマルコパパ!」
「ッ〜〜!? て、てめェにパパ呼ばわりされたくねェよい!!」

腹を抱えてゲラゲラと笑うシャンクスに顔を赤くしながら怒鳴るマルコ。そんな二人を見つめながら白ひげはニヤリと笑みを浮かべて空幻に目を向けた。

「良い人選だ」
「……ひょ?」
「悪戯と言いながら結局はマルコの理解者を増やす為だったんじゃねェのか空幻?」
「流石はマルコ殿の親をしているだけあってお前さんも聡い男じゃのう」
「グララララ!」

赤髪のシャンクスは相手が異質な力を持つ化物であったとしても、それに恐れを抱くことも、まして拒絶するような度量の狭い男では無い。相手の性格や精神面を重視し、気に入った相手には自ら率先して積極的に話し掛け、心の壁を取っ払ってしまう、そういう男だ。

白ひげはそう分析した。そしてそれはやはり正しかった。

シャンクスは笑いながらマルコの肩に腕を回して声を大にして言う。

「マルコ! おれは更にお前が気に入った!! やっぱりおれの船に来いよ!!」

再びいつも通りの勧誘を始めた。
マルコは嫌そうな顔を浮かべて「行かねェ」と断るのだが、シャンクスは一切その声を無視した。

「そうか! 乗るか!!」
「ノーだって言ってんだろい!?」
「だっはっは! そうか! 白ひげの船に乗るのがノーだとよ!」

シャンクスは悉く自分に都合の良いように捉えて笑った。
マルコは額に手を当てながらガクリと項垂れた。

「はァ…、マヒロが呆れていたよい。人の話を聞かねェスルースキルが異様に高過ぎてほとほと困ったってよい」
「だっはっはっ!! 何だそのスルースキルってェなァ、初めて聞いたな」

バシバシバシッと、マルコの肩を叩いて笑うシャンクスにマルコは呆れた溜息を吐いた。

「お腹空いたァァァ!!」
「っと、あーわかった! わかったよい!」

我慢の限界に達したサコが泣き喚き始めた。

「っつぅか、誰も戻って来ねェな…って、何してんだあいつら……?」

マルコがレッドフォース号に視線を向けると、白ひげ海賊団と赤髪海賊団はお互いに褒めて称え合い認め合った末に酒を酌み交わし、やんややんやとどんちゃん騒ぎを始めていた。

「あ! お前ェら狡いぞ! おれも入れろ!!」

シャンクスもそれに気付くと声を荒げて颯爽とレッドフォース号へと乗り込み、あっという間にその中心に入って酒を呷り出した。

「グララララッ! 勝鬨祝いってやつだな!」
「わしらも飲もうぞよ白ひげ殿!!」

空幻は無駄に妖気を駆使して空間を移動して料理と酒を運び入れた。そして白ひげと共に二人だけで宴会を始めた。そこにチシもちゃっかり参加して料理を摘んで口に放り込んだ。

「ん…、美味しい! サコ! これ美味しいよ!」

チシはサコに呼び掛けた。だがサコはマルコにヒシッと抱き付いたままで首を横に振った。

「腹が減ったんだろい?」
「……パパのが良いもん……」
「……マジかよい……」

マルコは頬をヒクリと引き攣らせた。

以前、マヒロに頼まれたマルコは嫌々ながらに手料理を食べさせたことがあった。

「うおお! マヒロちゃんの話はマジだったんだな!」

サッチが悲鳴にも似た声を発して騒ぎ、エースが「おれもマルコの手料理を食ってみてェから作ってくれよ」とウキウキしてリクエストされる中で(勿論、断固として断った)作った料理をサコが一番喜んだ。
それ以来、サコはマルコの手料理を気に入ったが為にちょくちょく作らされる破目になったわけなのだが、まさかこの場においても所望されるとは思っていなかった。

―― おれも参加してェんだが……。

「勘弁してくれよい」

マルコがそう言うとサコはマルコの首筋に顔を埋めて左右に首を振って抵抗した。

「……パパの」
「……はァ……」

こうなっては梃子でも動かない。
マルコは「仕方が無ェ……」と小さく漏らすと船内へと足を向けた。すると腰元のサッシュをクイッと引っ張られる感覚に足を止めて振り向くと、チシがマルコのサッシュを掴んでいて視線が合った。

「作るの?」
「仕方無くだよい」
「……」

チシはじっとマルコを見つめた。チシの目は明らかに「自分も欲しい」と言っているとマルコには直ぐにわかった。

「はァ……わかった。二人分だねい」
「ほんとに? 良いの?」
「欲しいんだろい?」
「うん! ありがとうパパ!」

マルコはチシとサコと共に船内へと入って行った。その姿を酒を飲みながら見ていた白ひげはクツリと笑った。

「本当に親として板について来たのう」
「グララララッ!」
「思いの外、子煩悩じゃしな。いやはやマヒロは良い男と縁付いたもんじゃて」
「良い男と縁付いた……か。空幻、それは語弊じゃあねェか?」
「ひょっ! 何じゃ? ここに来て探りとは、いやはやお前さんも抜け目が無いのう」

空幻は相変わらずとぼけるように笑って酒を呷った。白ひげも共に酒を飲んでいたがその眼光はどこか鋭さがあった。

―― 流石に何か勘付いたかのう? それとも……。

空幻は白ひげの眼光に意図するものに気付きながらも酒を呷り料理をひょいと摘まんで舌包みをうつ。

「美味いの」
「……あァ、……サッチの料理には劣るがなァ……」
「……」

白ひげはそう言って酒を呷った。

―― あァ、成程のう。その探りはサッチ殿のことを含めたものでもあったか。

空幻は片眉を上げると微笑を浮かべた。

「大丈夫じゃよ。死ぬ寸前ではあったじゃろうが、使える時点でサッチ殿はきっと生かされるじゃろうて」
「……そりゃあどういうことだ?」
「サッチ殿はマルコ殿にとって最も近しい人間じゃ。即ち、これを使わない手は無いということじゃよ」
「おい、空幻」
「どのようになろうと生きておることがまず第一じゃ。生きてさえいれば、後は如何様にもできるじゃろ。のう?」
「……」

空幻は真面目な表情へと変えて諭す様に言った。
白ひげは押し黙ると酒を呷った。眉間に皺を寄せ、どこを見るでもなく物思いに耽るかのように暫く沈黙した。

「マルコ殿が取り乱すこともせず、ああしていられるのが何よりの証拠じゃよ」

空幻はクツリと笑うとゆっくりと立ち上がった。

「さて、腹も膨れたし、わしはちょいと眠るとしようかの」

そう言って笑いながら船内へと姿を消した。
白ひげは空幻を見送ると酒を一気に飲み干してレッドフォース号へと視線を移した。
事の仔細を聞いたのか、赤髪海賊団は酒に酔いつつ笑いながらもどこか真剣な面持ちで、宴と称しておきながら何やら空気が重いように見受けた。
するとシャンクスがふと白ひげへと視線を向けた。そうしてお互いに目が合うと、シャンクスは顔を赤らめて笑いながらもコクリと頷き、白ひげはニヤリと笑みを浮かべた。

―― 理解力が高くて助かるぜ赤髪。

白ひげは程々にして立ち上がるとレッドフォース号に向けて言った。

「じゃあなァ赤髪。おれは部屋に戻らァ。お前らも宴は程々になァ」

それだけ告げるとその場を後にした。
シャンクスは軽く手を上げて了解の意を向けて再び酒を呷った。

「で、ティーチはティーチであってティーチじゃねェってことで、正体は屍鬼っつったか?」
「あァそう聞いている。最も厄介な化物らしい。集団で襲って来る連中はそう強くは無いようだから、おれ達のような人間でも十分戦える相手なのだが、屍鬼という化物に直に仕えているような奴は、並の人間では到底敵わん程に強いらしい」

ビスタが代表してそう説明した。彼の言葉に他の隊長達も頷きを見せると赤髪海賊団の幹部達は真剣な面持ちで沈黙した。

「そいつを倒せる奴っていうのが……マルコだってェのか?」
「信じられないかもしれないだろうけど、でも、実際に見たでしょ?」
「ん?」
「マルコが放った青い光だよ」
「あァ」
「霊気って言うらしいけどね。マヒロも同じ力を持っていて、マルコはマヒロの世界に行った時にその能力を身に付けたんだって」

ビスタの話に補足するかのようにハルタがクツリと笑ってそう話した。すると他の隊長達は何やら遠くを見つめて物思いに耽た。
「マヒロか……。今頃どうしてんのかな……」とか、「赤髪、マヒロにゃあ手ェ出すなよ? マルコが本気でキレちまうからな」とか――、それぞれ思い思いにマヒロのことを思い出しては言葉を紡いだ。
ベックマンは葉巻を銜えながらシャンクスに視線を向けるとクツリと笑みを浮かべた。それに気付いたシャンクスは少しだけ不服な表情を浮かべた。

「玉砕どころか消されるんだと」
「五月蠅ェ……」

そっぽを向くシャンクスにベックマン、ヤソップ、ルウ達が挙ってニヤニヤと見つめる。その後方で赤髪海賊団達は一斉に声を上げて嘆き叫んだ。

「「「マヒロが不死鳥の女だなんてェェェッ!!」」」
「「「相手が悪過ぎておれ達には勝てねェェェッ!!」」」

そうして厳つい男達は次々に甲板に涙ながらに突っ伏して行く。その光景を白ひげ海賊団達は唖然として見つめた。

「こりゃあまた……、マヒロは赤髪海賊団に人気があったんだねェ」

イゾウが目を丸くしながらそう言うとヤソップが鼻を穿りながら遠くを見つめて頷いた。

「そうなんだよな〜。頭が頭だからなァ〜」
「「「ああ! おれ達のマヒロに会いたかったよォォォッ!!」」」
「「「あ”ァ”!? てめェらのじゃねェ! おれ達のマヒロだ!!」」」

嘆く赤髪海賊団に白ひげ海賊団は聞き捨てならない言葉を耳にして一斉に声を上げた。

「ギャッハッハッハッ!」
「やれやれ……」

ヤソップはお腹を抱えて笑い出し、イゾウは呆れてかぶりを振った。
ラクヨウは酒に酔ってぶっ倒れ、ルウは相変わらず肉を頬張り、ビスタ、ジョズ、フォッサらはベックマンと意気投合したのか大人の飲み会を始めた。
他の隊長達もそれぞれに気の合う者達と酒を酌み交わしていて、誰も彼らを止めようとはしなかった。
肝心のシャンクスはというと、ラクヨウと共に酒に酔い潰れてその辺で「ぐが〜ぐご〜」とイビキを掻いて眠りに落ちていた。

「……で、結局のところ、お前達は何しに来たんだ?」

ジョズの言葉にベックマンは「いや、わからん」と眉間に手を当てて項垂れた。

―― 本当に、何しに来たのやら……。

予想だにしていなかった出来事に本来の目的は形を潜めて無かったことになっている。

「……苦労しているようだな」
「色々な」

―― あんた達の不死鳥とは違った苦労だがな……。

ベックマンはシャンクスをチラッと見ては溜息を吐き、マルコの話やマヒロのことを思い出しながら酒を一気に呷って飲み干した。
暫くして後、白ひげ海賊団と赤髪海賊団の接近に危機感を抱いた海軍が、軍艦数隻を率いてこちらに向かっていることを知った彼らは、宴を打ち切って別れることとなった。

「「「てめェらァ〜! 妖怪にやられんじゃねェぞ〜!!」」」
「「「おォ、わかってるって! てめェらも気を付けろよ〜!!」」」
「「「またな〜!!」」」
「「「おおー!」」」
「「「おれ達のマヒロにも宜しく伝えてくれよな〜!!」」」
「「「てめェらのじゃねェ! マヒロはおれ達のだっつってんだろ!!」」」

意気投合して仲が良くなった白ひげ海賊団と赤髪海賊団はお互いに健闘を祈って別れを惜しんだ。だが最後の台詞によって彼らは敵意を剥き出しにし、結局のところは今まで通りにお互いを『敵』と認識して別れた。

「マヒロは人気者だねェ」
「マルコがここにいなくて良かったね」
「いたら地獄だろうぜ」
「で、そのマルコはどこに?」
「「「子守りだろう」」」

イゾウ、ハルタ、ラクヨウに続いてビスタが疑問を口にすると隊長達は声を揃えて言った。

「あァ、そうだな」

ビスタは苦笑を浮かべて納得した。

「育児の苦労か……。だがそのおかげで『サッチの件』で重くならないで済んでいるのも事実だろう」
「……そうだねェ。長男殿は責任感が人一倍強いからねェ」
「チシがマルコに言ったみたいだね。まず生きてることが一番大事だって。生きてさえいれば後は何とでもなるって」
「マヒロとサッチがいない間にマルコを支えているのはチシとサコかもしれないな」
「「「確かに」」」

ビスタ、イゾウ、ハルタ、ジョズの言葉に隊長達は賛同した。
もし仮にチシとサコがいなかったとしたら――。
マルコは恐らくたった一人ででもサッチを探しにこの船から離れたかもしれない。責任を感じてより一層寡黙に殻に閉じ籠ってしまったかもしれない。
そう思うと彼らは小さな二人の家族に感謝する気持ちが溢れ、それぞれが心内で礼を言った。

一方――。

満足の行く食事を終えた小さな二人は、マルコと共に部屋に戻った。
マルコを間に挟んでベッドに入ってお昼寝タイムだ。
マルコに寄り添うようにしてぐっすりと深い眠りに入った頃合いを見てベッドからそっと抜け出したマルコは、気持ち良さそうに眠る二人の寝顔を見つめてクツリと笑みを零すと仕事机へと向かい椅子に座って仕事の続きを始めた。

「結局、酒すらも飲めなかったない。……後で一人酒でもするかねい」

頬杖を付いてそう零して溜息を吐くと、サラサラと羽ペンを走らせていった。

理解者

〆栞
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