08
チシとサコにこの船で起こったことを分かり易く説明すると、チシは理解したのか瞳に涙を溜めてマルコのシャツをぎゅっと握った。サコはあまりよく分かっていないのか、それとも関心が無いのか、きょとんとした面持ちだ。
「……さ、サッチ…兄ちゃんは……大丈夫なの……?」
「あァサッチは――」
チシの言葉に答えようとした時だった。マルコはピクリと何かに反応すると突然二人を抱き抱えて部屋の端へと飛び退いた。
チシとサコは驚いて目を丸くして戸惑い、見上げればマルコの目はとても鋭い。その視線は先程まで自分達がそこに居た場所だ。
ピシッ――!
何かが弾けるような音がした。それと同時に空間に忽然と亀裂が生じた。そしてマルコはその亀裂をキッと睨み付ける。
縦にピシピシと亀裂を走らせると、その割れ目を押し広げるようにして白い光が発しった。するとそこから人らしき者が姿を現した。
マルコはチシとサコを庇うかのように自分の背後へと追いやって身構えると、その者はマルコの姿を見止めるなりクツリと微笑を零した。
「ふふ、お久しぶりね、マルコ」
「ッ……カーナ」
「……カーナ……?」
「だァれ?」
マルコの背後から覗く二人の存在に目を向けたカーナは「はじめまして」と優し気な笑みを浮かべながらそう言葉を掛けた。
二人はキョトンとしてカーナを見つめている。
―― ……お前ェ何だよいその表情。……それじゃあまるでッ……。
予想に反して柔和な表情を見せるカーナにマルコは少しだけ驚いた。カーナの視線が二人からマルコへと移される。
「てめェ……何しに来た?」
「そう警戒しないでくれるかしら?」
「そりゃあ無理な話だろうがよい」
厳しい声音でマルコがそう言うとカーナは笑みを消して真剣な表情へと変えた。マルコは警戒こそすれカーナの雰囲気がこれまでと何かが異なるように感じた。それにカーナから感じるこの雰囲気はとても――。
「マルコ、私はあなたを――」
彼女がマルコに何かを伝えようとした時、バンッ――! と、大きな音を上げて部屋のドアが勢い良く開けられた。すると一番隊の隊員が慌てた様子で入って来た。
「マルコ隊長! た、大変です!! サッチ隊長が!!」
「!」
隊員が息を切らしながらマルコにそう叫ぶ。マルコは目を見張った。そしてチシはマルコのシャツをぎゅっと握り、涙を浮かべて「や、やだ……」と目を瞑った。
―― サッチ……。
幾つかの道があった。
分岐点からどの道に進むのか、予め想定していたつもりではいたが、まさか最悪の道を辿ることになるのか――。
胸が締め付けられ、苦しい表情が自然と浮かぶ。背後でヒックヒックとしゃくりをあげながらボロボロと涙を零し始めるチシの声が更に悲しみの底へと引っ張って行く。
「……お姉ちゃん?」
サコだけはまだ意味がわかっていないのか、チシがどうして泣き出したのかと首を傾げるのみ。
重い空気がその部屋を包んで行った。
どくん、どくん――と、大きく心臓が跳ねる。
僅かにワナワナと震える身体にぐっと力を入れてそれを抑えようと努める。
「まさか……サッチが……」
自然とそう口を突いて漏らすとカーナは静かにマルコに声を掛け、マルコは床に落とした視線をカーナに向けた。
「彼は死んではいないわ」
「……?」
カーナは少しだけ悲し気な表情を浮かべた。カーナの表情に多少の不審を抱きながらマルコは隊員へ視線を移した。すると隊員は見えていないカーナの横を通り過ぎ、とても平静ではいられない様子でマルコの元へと来た。
「サッチがどうした?」
「い、いなくなったんです!」
「な、何だって?」
「ナースが付きっきりで診ていたんですが、少し目を離した隙にサッチ隊長の姿が忽然と消えてしまったんです!」
隊員の報告に驚きと安堵が混ざる複雑な心境を抱いたマルコは隊員からカーナへと視線を向けてキッと睨み付けた。
「カーナ!!」
「えっ!? た、隊長?」
隊員は目を丸くした。自分とは別の方向にマルコの視線が向けられ睨み付けている。釣られるように振り向いてみるもののそこには誰もいない。しかし、マルコからピリついた空気を肌で感じた隊員はそこに”見えない何かがいる”のだと瞬時に察し「ひっ!!」と、隊員は小さな悲鳴を漏らして顔を褪めた。
カーナはゆっくりと瞳を伏せると小さな溜息を吐いた。そして全身を白い光で包むと隊員の直ぐ後ろにフワリと舞い降りた。妖気を抑えて人化へと姿を変えたカーナの姿を見た隊員は目を引ん剥いた。
「う、うわっ!?」
「ふふ、驚いた?」
隊員は驚きに余って尻餅を着いた。忽然と姿を現した謎の女に隊員は口をパクパクと開閉を繰り返しながらコクンコクンと頷く事しかできない。
「あなたの報告については私からマルコに詳しく話してあげる。だからあなたは少し出て行ってもらえるかしら?」
「へ?」
カーナの言葉に隊員の口から気の抜けた声が零れた。
「た、隊長……」
隊員は視線をマルコに向けるとマルコは小さく頷いた。隊員はアワアワとしながらも「し、失礼します!」と叫ぶと急いで部屋から出て行った。
「カーナ、どういうことだよい」
「屍鬼様の使い魔が連れていったのよ」
「な、何!?」
「マルコ、屍鬼様……いえ屍鬼は本気よ? 使えるものは何でも使う。あなたを追い詰める為にね」
「てめェはその使い魔がサッチを連れ去る為におれの気を逸らしに来たってェことかよい!」
マルコはギリッと食い縛った。
―― くそっ! カーナ以外の妖気なんざ感じなかったのは何でだよい!?
「ふふ、妖気を感じないのは当然よマルコ」
「……何故だよい……?」
「使い魔が人間だからよ」
「!」
「だから気付かなかったの。あなたのせいじゃないわマルコ」
屍鬼の使い魔が人間であれば確かにこの船内の人間の気に上手く紛れ込むことこも可能だろう。
不審な気を探るにも妖気の類を特定していたこともあり、その小さな隙を突かれたのだとマルコは察し、悔しさを噛み殺すように両手をグッと拳を作った。
「使い魔が誰か知りたい?」
「……何?」
「あなたもよく知っている人よ」
「ッ!!」
カーナがそう告げるとマルコは絶句した。
―― まさか……。
「……幻…海……?」
脳裏に浮かんだ人物の名を口するとカーナはクツリと笑った。
マルコは手の汗がじわりと滲み出るのを感じ、視線をカーナから外して床へと落とし、ゆっくりと目を瞑った。
ティーチの裏切りから始まった全ての出来事を整理する必要がある。
冷静に状況を把握して次の判断を下す為に気持ちを落ち着かせようと、マルコがそう努めているようにカーナには見えた。
―― ……マルコ……。
カーナは少しだけ眉尻を下げて苦し気な表情を浮かべた。
「後を追いたいかもしれない。……でも、ここを離れることはあなたにとっては良く無いわ」
静かにそう告げるカーナにマルコはゆっくりと目を開けた。
「……そりゃあ何故だ?」
「この船に向けて多くの刺客が放たれるからよ」
「なっ……!」
「彼らはこう命令されているわ。白ひげ海賊団の隊長達も含めて一人でも多く殺せ。もし可能なら――白ひげを殺せ」
「!」
「マヒロがこの船を離れたのは正解と言えるわね」
カーナは微笑を零してそう告げるとマルコはキッとカーナを睨み付けた。
「大方『マヒロは生きて攫え』ってェ命令だろい」
「えェ、そうよ」
マルコは「チッ」と舌打ちをした。
―― ふざけやがって屍鬼(ティーチ)の野郎!!
「カーナ、てめェは――」
「私はただ助言をしに来ただけよ」
「……何……だって?」
カーナはそう告げると妖気を纏い元の妖怪の姿へと戻った。
「私は屍鬼の使い魔。……だけど、これだけは覚えておいて欲しいの」
「何を」
「私もあなたが愛しいの」
「それはお前ェが――」
「人として、一人の女としてよ」
妖怪の身であるからこそ強い霊気を持つ自分に惹かれているのだと、そう告げようとしたマルコの言葉を遮ってカーナは強い口調で言った。
「今はこんな姿になってしまったけど、元々は人間だったのよ? 人間で……女よ」
「!」
「あなたは屍鬼と対照的。それでいて同等。この意味を考えてみて? 私が言えるのはそれだけよ」
カーナは悲し気な笑みを浮かべた。とても寂し気で憂いを持ったその表情にマルコは目を丸くして息を呑んだ。
―― お前……何……で……。
マルコが二の句を告げずにいるとマルコの背後にいたチシとサコが徐に口を開いた。
「お、姉ちゃ……ん?」
「……ママ……?」
「!」
幼い二人がそうカーナに声を掛けた。どうにも重なって感じてしまう”それ”はやはり錯覚でも何でも無いのだとはっきりと思い知らされた瞬間でもあった。
―― チシ、サコ、お前ェらもそう感じたのかよい。
カーナは二人に対してニコリと優しく微笑むとそのまま白い光に身を包んでその場からフッと消えた。そして妖気が完全に消えたことからカーナがこの船から去ったことがわかる。
「ね、ねェ、どういうこと?」
「……パパ……」
チシとサコは戸惑いながらマルコに声を掛けた。だがマルコの返事は無く、眉間に皺を寄せたままカーナがいた場所をじっと見つめたまま暫く考え込んでいた。それから少ししてふぅ……と大きく溜息を吐いたマルコは気を取り直して二人に顔を向けた。
「とりあえず、オヤジ……大爺の所に行くよい」
「う、うん」
「あ……う……」
「サコ、抱っこだろい?」
「うん……」
マルコはチシの頭を撫でるとサコを片手で抱き上げ、部屋の戸を開けた。そして空いた手をチシに差し出して手を握る。
―― ……後で聞いてみるかねい。
何故かカーナがマヒロと重なる。姿形、声、性格は違うのに何故か同一人物に思えて仕方が無かった。
マルコは自分だけがそう見えるのかと思った。だがチシやサコも同じように感じて反応したことからそれが思い違いでないことを確信した。
どういう意味なのか、何故そう感じるのか、これらを説明してくれる人物と言えば一人しかいない。
しかし、問題は山積みだ。
今はとにかく目の前の山を一つ一つ崩して対処していくしかない。
カーナが残した助言も気にはなっている。そしてその後に告げた屍鬼と対象的で同等、その意味とは――?
船長室の前に立ったマルコは大きく息を吐くと気持ちを切り替え、ドアノブへと手を伸ばした。
「……さ、サッチ…兄ちゃんは……大丈夫なの……?」
「あァサッチは――」
チシの言葉に答えようとした時だった。マルコはピクリと何かに反応すると突然二人を抱き抱えて部屋の端へと飛び退いた。
チシとサコは驚いて目を丸くして戸惑い、見上げればマルコの目はとても鋭い。その視線は先程まで自分達がそこに居た場所だ。
ピシッ――!
何かが弾けるような音がした。それと同時に空間に忽然と亀裂が生じた。そしてマルコはその亀裂をキッと睨み付ける。
縦にピシピシと亀裂を走らせると、その割れ目を押し広げるようにして白い光が発しった。するとそこから人らしき者が姿を現した。
マルコはチシとサコを庇うかのように自分の背後へと追いやって身構えると、その者はマルコの姿を見止めるなりクツリと微笑を零した。
「ふふ、お久しぶりね、マルコ」
「ッ……カーナ」
「……カーナ……?」
「だァれ?」
マルコの背後から覗く二人の存在に目を向けたカーナは「はじめまして」と優し気な笑みを浮かべながらそう言葉を掛けた。
二人はキョトンとしてカーナを見つめている。
―― ……お前ェ何だよいその表情。……それじゃあまるでッ……。
予想に反して柔和な表情を見せるカーナにマルコは少しだけ驚いた。カーナの視線が二人からマルコへと移される。
「てめェ……何しに来た?」
「そう警戒しないでくれるかしら?」
「そりゃあ無理な話だろうがよい」
厳しい声音でマルコがそう言うとカーナは笑みを消して真剣な表情へと変えた。マルコは警戒こそすれカーナの雰囲気がこれまでと何かが異なるように感じた。それにカーナから感じるこの雰囲気はとても――。
「マルコ、私はあなたを――」
彼女がマルコに何かを伝えようとした時、バンッ――! と、大きな音を上げて部屋のドアが勢い良く開けられた。すると一番隊の隊員が慌てた様子で入って来た。
「マルコ隊長! た、大変です!! サッチ隊長が!!」
「!」
隊員が息を切らしながらマルコにそう叫ぶ。マルコは目を見張った。そしてチシはマルコのシャツをぎゅっと握り、涙を浮かべて「や、やだ……」と目を瞑った。
―― サッチ……。
幾つかの道があった。
分岐点からどの道に進むのか、予め想定していたつもりではいたが、まさか最悪の道を辿ることになるのか――。
胸が締め付けられ、苦しい表情が自然と浮かぶ。背後でヒックヒックとしゃくりをあげながらボロボロと涙を零し始めるチシの声が更に悲しみの底へと引っ張って行く。
「……お姉ちゃん?」
サコだけはまだ意味がわかっていないのか、チシがどうして泣き出したのかと首を傾げるのみ。
重い空気がその部屋を包んで行った。
どくん、どくん――と、大きく心臓が跳ねる。
僅かにワナワナと震える身体にぐっと力を入れてそれを抑えようと努める。
「まさか……サッチが……」
自然とそう口を突いて漏らすとカーナは静かにマルコに声を掛け、マルコは床に落とした視線をカーナに向けた。
「彼は死んではいないわ」
「……?」
カーナは少しだけ悲し気な表情を浮かべた。カーナの表情に多少の不審を抱きながらマルコは隊員へ視線を移した。すると隊員は見えていないカーナの横を通り過ぎ、とても平静ではいられない様子でマルコの元へと来た。
「サッチがどうした?」
「い、いなくなったんです!」
「な、何だって?」
「ナースが付きっきりで診ていたんですが、少し目を離した隙にサッチ隊長の姿が忽然と消えてしまったんです!」
隊員の報告に驚きと安堵が混ざる複雑な心境を抱いたマルコは隊員からカーナへと視線を向けてキッと睨み付けた。
「カーナ!!」
「えっ!? た、隊長?」
隊員は目を丸くした。自分とは別の方向にマルコの視線が向けられ睨み付けている。釣られるように振り向いてみるもののそこには誰もいない。しかし、マルコからピリついた空気を肌で感じた隊員はそこに”見えない何かがいる”のだと瞬時に察し「ひっ!!」と、隊員は小さな悲鳴を漏らして顔を褪めた。
カーナはゆっくりと瞳を伏せると小さな溜息を吐いた。そして全身を白い光で包むと隊員の直ぐ後ろにフワリと舞い降りた。妖気を抑えて人化へと姿を変えたカーナの姿を見た隊員は目を引ん剥いた。
「う、うわっ!?」
「ふふ、驚いた?」
隊員は驚きに余って尻餅を着いた。忽然と姿を現した謎の女に隊員は口をパクパクと開閉を繰り返しながらコクンコクンと頷く事しかできない。
「あなたの報告については私からマルコに詳しく話してあげる。だからあなたは少し出て行ってもらえるかしら?」
「へ?」
カーナの言葉に隊員の口から気の抜けた声が零れた。
「た、隊長……」
隊員は視線をマルコに向けるとマルコは小さく頷いた。隊員はアワアワとしながらも「し、失礼します!」と叫ぶと急いで部屋から出て行った。
「カーナ、どういうことだよい」
「屍鬼様の使い魔が連れていったのよ」
「な、何!?」
「マルコ、屍鬼様……いえ屍鬼は本気よ? 使えるものは何でも使う。あなたを追い詰める為にね」
「てめェはその使い魔がサッチを連れ去る為におれの気を逸らしに来たってェことかよい!」
マルコはギリッと食い縛った。
―― くそっ! カーナ以外の妖気なんざ感じなかったのは何でだよい!?
「ふふ、妖気を感じないのは当然よマルコ」
「……何故だよい……?」
「使い魔が人間だからよ」
「!」
「だから気付かなかったの。あなたのせいじゃないわマルコ」
屍鬼の使い魔が人間であれば確かにこの船内の人間の気に上手く紛れ込むことこも可能だろう。
不審な気を探るにも妖気の類を特定していたこともあり、その小さな隙を突かれたのだとマルコは察し、悔しさを噛み殺すように両手をグッと拳を作った。
「使い魔が誰か知りたい?」
「……何?」
「あなたもよく知っている人よ」
「ッ!!」
カーナがそう告げるとマルコは絶句した。
―― まさか……。
「……幻…海……?」
脳裏に浮かんだ人物の名を口するとカーナはクツリと笑った。
マルコは手の汗がじわりと滲み出るのを感じ、視線をカーナから外して床へと落とし、ゆっくりと目を瞑った。
ティーチの裏切りから始まった全ての出来事を整理する必要がある。
冷静に状況を把握して次の判断を下す為に気持ちを落ち着かせようと、マルコがそう努めているようにカーナには見えた。
―― ……マルコ……。
カーナは少しだけ眉尻を下げて苦し気な表情を浮かべた。
「後を追いたいかもしれない。……でも、ここを離れることはあなたにとっては良く無いわ」
静かにそう告げるカーナにマルコはゆっくりと目を開けた。
「……そりゃあ何故だ?」
「この船に向けて多くの刺客が放たれるからよ」
「なっ……!」
「彼らはこう命令されているわ。白ひげ海賊団の隊長達も含めて一人でも多く殺せ。もし可能なら――白ひげを殺せ」
「!」
「マヒロがこの船を離れたのは正解と言えるわね」
カーナは微笑を零してそう告げるとマルコはキッとカーナを睨み付けた。
「大方『マヒロは生きて攫え』ってェ命令だろい」
「えェ、そうよ」
マルコは「チッ」と舌打ちをした。
―― ふざけやがって屍鬼(ティーチ)の野郎!!
「カーナ、てめェは――」
「私はただ助言をしに来ただけよ」
「……何……だって?」
カーナはそう告げると妖気を纏い元の妖怪の姿へと戻った。
「私は屍鬼の使い魔。……だけど、これだけは覚えておいて欲しいの」
「何を」
「私もあなたが愛しいの」
「それはお前ェが――」
「人として、一人の女としてよ」
妖怪の身であるからこそ強い霊気を持つ自分に惹かれているのだと、そう告げようとしたマルコの言葉を遮ってカーナは強い口調で言った。
「今はこんな姿になってしまったけど、元々は人間だったのよ? 人間で……女よ」
「!」
「あなたは屍鬼と対照的。それでいて同等。この意味を考えてみて? 私が言えるのはそれだけよ」
カーナは悲し気な笑みを浮かべた。とても寂し気で憂いを持ったその表情にマルコは目を丸くして息を呑んだ。
―― お前……何……で……。
マルコが二の句を告げずにいるとマルコの背後にいたチシとサコが徐に口を開いた。
「お、姉ちゃ……ん?」
「……ママ……?」
「!」
幼い二人がそうカーナに声を掛けた。どうにも重なって感じてしまう”それ”はやはり錯覚でも何でも無いのだとはっきりと思い知らされた瞬間でもあった。
―― チシ、サコ、お前ェらもそう感じたのかよい。
カーナは二人に対してニコリと優しく微笑むとそのまま白い光に身を包んでその場からフッと消えた。そして妖気が完全に消えたことからカーナがこの船から去ったことがわかる。
「ね、ねェ、どういうこと?」
「……パパ……」
チシとサコは戸惑いながらマルコに声を掛けた。だがマルコの返事は無く、眉間に皺を寄せたままカーナがいた場所をじっと見つめたまま暫く考え込んでいた。それから少ししてふぅ……と大きく溜息を吐いたマルコは気を取り直して二人に顔を向けた。
「とりあえず、オヤジ……大爺の所に行くよい」
「う、うん」
「あ……う……」
「サコ、抱っこだろい?」
「うん……」
マルコはチシの頭を撫でるとサコを片手で抱き上げ、部屋の戸を開けた。そして空いた手をチシに差し出して手を握る。
―― ……後で聞いてみるかねい。
何故かカーナがマヒロと重なる。姿形、声、性格は違うのに何故か同一人物に思えて仕方が無かった。
マルコは自分だけがそう見えるのかと思った。だがチシやサコも同じように感じて反応したことからそれが思い違いでないことを確信した。
どういう意味なのか、何故そう感じるのか、これらを説明してくれる人物と言えば一人しかいない。
しかし、問題は山積みだ。
今はとにかく目の前の山を一つ一つ崩して対処していくしかない。
カーナが残した助言も気にはなっている。そしてその後に告げた屍鬼と対象的で同等、その意味とは――?
船長室の前に立ったマルコは大きく息を吐くと気持ちを切り替え、ドアノブへと手を伸ばした。
カーナ
【〆栞】