01


翌日――。
マルコとマヒロはロダの村の麓でシバ(水獅羽(スイシバ))とその兄と合流した。

「ど、どうも、弟のシバがお世話になったそうで、ありがとうございました」
「いや、大したことはしてねェよい」
「オレは水獅羽の兄の火獅ノ羽(カシノバ)と言います。人名(ひとな)はノバです」

ノバは照れくさそうに、それでいてどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら頭を下げて挨拶をした。そんなノバに釣られるようにシバも共に頭を下げた。心底から喜びに満ちた二人の笑みにマルコとマヒロは少し目を丸くし、お互いに顔を見合わせてからシバやノバへと視線を戻した。

「……じゃあ、とりあえず行くかよい」
「ですね、行きましょう」
「「はい!!」」

ロダの村に入ると村人達は相変わらず警戒心を剥き出しにしてマルコ達を見たのだが、マルコやマヒロの後ろに付いて歩くシバとノバの姿を見るなり目を丸くした。
彼ら村人達からすればシバとノバは人の姿をした妖怪で同族だ。なのに、人間であるマルコとマヒロに同行し、その上で嬉しそうに笑いながら歩いているのだから、彼らの目には不思議な光景に映ったのだろう。
マルコとマヒロが初めて訪れた時とは違い、家の中に逃げる素振りも無く、寧ろ興味深そうに外に顔を出し、ガヤガヤと賑やかに集まって来た。そしてそんな村人達の中を掻き分けて走って来る子供の姿があった。

「マルコ!!」

喜び勇んでマルコの元に駆け寄って来たのはチシだ。
マルコは膝を折って腰を落とすと胸元に勢い良く飛び込んで来たチシを抱き留めた。
余程嬉しかったのかチシは泣きじゃくりながらマルコのシャツをギュッと握り締め、声を上げて泣いた。そして、そんなチシの姿を見た村人達は愈々持って驚きに満ちた表情を浮かべた。

「あの子があんなに泣いている姿は初めて見る」
「……親を亡くしてからというもの、弟を守る為と気丈に振舞う姿に感心してはおったのだが……」
「よく見ればあの人間はチシの父親に雰囲気がどこか似ているような気がするわ」

村人達が騒めく中、村長と村長の後ろに隠れるように、それでいて羨望の眼差しをチシに向けるサコの姿がそこにあった。
村人達は彼らに道を開けた。

「マルコ殿、どうぞこちらへ」

村長が軽く頭を下げながらそう言うとマルコはチシを抱き上げてコクリと頷いた。すると村人達が道を開けた。
マヒロは少し小走りに進んで村長の後ろにいるサコの元へと駆け寄った。

「サコ、本当はマルコさんが良いのだろうけど」

少し申し訳無さそうな笑みを浮かべながらマヒロがそっと手を差し伸べた。サコはオドオドしながらもかぶりを振り、頬を赤くしながら笑みを浮かべてマヒロの手を握った。するとマヒロはニコリと笑みを浮かべるとサコを抱き上げた。
眉をハの字にして恥ずかしそうな笑みを浮かべるサコはマヒロの衣服をギュッと握り締めながら口を動かした。

「あ、あり、がと」
「ふふ」

小さな声で礼を述べたサコにマヒロは軽く頭を撫でた。するとサコは子供らしく愛らしい笑みを浮かべ、それに村人達はまたも驚いて騒めいた。

「あんなに怖がりだった子が、チシや村長以外の者には決して心を開かなかった子が……」
「いつも泣いてばかりだったというのに……」

唖然とする村人達を残し、マルコ達は村長の家の中へと入って行った。

村長宅へ入るとマルコはチシを下ろそうとした。だがチシは首を振って必死にしがみ付き、どうにも離れそうに無かった。

「チシ」
「ッ…、やだ」
「……」

マルコは小さく溜息を吐くとチシを抱いたまま椅子に腰を下ろし、チシはマルコの膝の上に乗ったままマルコの胸元に顔を埋めた。そして、小さな肩が僅かに震えていることに気付いたマルコは片眉を上げた。

―― ……泣いてんのか……。

マルコはチシの頭を軽く撫でると背中をゆっくりと摩りながら村長に王牙鬼のことを報告し始めた。
村長は眉間に皺を寄せながら真剣な面持ちで話を聞いていた。途中、少し悲し気に目を伏せたが、話を全て聞き終えるとゆっくりと瞳を開けて「うむ……」と納得したように一つ頷いた。

「仔細全て承知した。本当にすまなかった。何と御礼を申し上げて良いやら……」
「いや、礼は良いよい。それより、まだ話は終わってねェんだ」
「……何?」
「王牙鬼からの伝言があるんだよい」
「っ! な、何じゃと……?」

マルコは王牙鬼が死ぬ間際に話した言葉をそのまま村長に伝えた。

「『チシとサコを決してオレのようにさせるな。祖父に、王翔鬼(オウショウキ)爺に、すまなかったと伝えて欲しい』――だとよい」

王牙鬼が残した言葉を聞いた村長、更にマルコに抱き付いていたチシも目を丸くして驚いた。
マルコの胸元に顔を埋めていたチシは顔を上げると顔を歪ませた。

「嘘!」

チシはそう声を上げたがマルコはチシへと視線を落とし、目を真っ直ぐ見つめた。

「嘘じゃねェ。本当のことだよい」

涙をボロボロと零しながら納得できない様にかぶりを振り、両手で顔を覆うチシにマルコはクツリと笑いながら宥めるようにチシの頭を優しく撫でた。そうして視線を村長へと向ける。
村長は少しだけ呆然としており、小さくかぶりを振って溜息を吐くと背凭れに身体を預けた。

「王牙鬼……」

ポツリと孫の名を口にした村長は、王牙鬼の秘めた思いと最後に残した言葉の全てを、マルコから聞かされた。
村長は愈々我慢が出来なくなると「すまん……」と一言だけ述べて席を立ち、奥の部屋へと引っ込んだ。
サコは何が何だかわかっていないのだろう。
マヒロの膝の上でキョトンとした面持ちでいる。とても不思議そうな表情を浮かべ、泣いている姉のチシへと視線を向けた。
それから少しすると何やらソワソワし始めるサコにマヒロは苦笑を浮かべた。
姉ばかりがマルコに甘えてズルい――そんなところだろうか。自分も心置きなく甘えて抱っこしてもらいたい。幼いなりに相当我慢しているようだ。

「少しだけ待ってね? 終わったらお姉ちゃんと交代できるから。そうしたらマルコさんに一杯抱っこしてもらえるから」
「う、うん」
「あの〜……」
「ん?」

サコに微笑みながら頭を撫でているマヒロに遠慮がちに声が掛けられた。マヒロは瞬きを繰り返して声がした方へと顔を向けた。

―― あ、忘れてた……。

”彼ら”の存在が頭の中から完全に消えていたことに気付いたマヒロは一瞬だけ視線を泳がせた。少し気まずい気持ちになりながら微笑を浮かべるものの、悪い気がしてかどこかぎこちない。

「な、何、どうしたのシバさん?」
「オレ達の件は本当に認めてもらえるのでしょうか……?」

小声でマヒロにそう問い掛けるシバにマヒロは口を開こうとした――が、シバの後ろで「ふっ…エグッ……グスンッ……」と、何故か一人で号泣しているノバが視界に入って目が点になった。

「え? ど、どうしてノバさんがそんなに泣いているの?」
「だ、だっでよ〜! 孫が反逆じで殺じでぐれっで依頼じでよ……最後の最後で孫の思いを伝えられだらよ、村長の爺ざんの身になっでみだらよ、ひっく……くぅぅっ! 可哀想で堪んねェよォォ! オレ……オレはよォ……あんまり悲劇ずぎで、オレには無理だ! 耐えられねェよォォォ!!」

ノバの両目から豪快に放水される涙にマヒロは唖然とした。

「す、すみません。兄はその……直情型なのか直ぐに影響を受けてしまう人なので……」

机に突っ伏してオイオイと泣くノバ。

「あ、兄貴! 落ち着けって!」

弟のシバが兄を窘めつつマルコとマヒロに申し訳無いと頭を下げて謝った。

「……変な妖怪……」

他者の悲劇をまるで自分のことのように涙する妖怪がいるなんて――と、泣いていたチシも流石に唖然としてポツリと呟いた。するとマルコ達は皆してどっと笑うのだった。
その後、村長が部屋から戻って来て席に着くと、未だにオイオイと泣いているノバの姿を見た村長は何事かとキョトンとした。

「して…、何故そこの者は号泣しておるのじゃ?」
「実は――」

首を傾げる村長にマヒロが苦笑を浮かべて理由を話した。すると村長はカッと目を見開き、咄嗟にバッと口元を手で押さえた。目に涙を溜め始め、嗚咽さえも漏らし始める。
それにマルコとマヒロ、チシとサコ、そしてシバは思わずギョッとした。そして村長はガタンと席を立つとヨロヨロとした足取りで大泣きするノバの元に歩み寄ると彼の肩に手を置いて叫んだ。

「お、おぬじ! わ、わじの悲しみを、わがっでぐれ”る”の”だな”ァ”ァ”ァ”!」
「ぞんぢょおおおおっ!!」
「「うおおおおん!!」」

大の大人がお互いにヒシッと抱き合って大号泣する図が出来上がった。

「……あの〜……大丈夫でしょうか?」
「……何がだよい」
「この村の……行く末」
「……お前ェらが支えてやれよい」

不安げな表情を浮かべるシバにマルコは溜息混じりにそう答え、マヒロは苦笑を浮かべることしかできなかった。

―― まァ、泣きたきゃ泣けば良いけどよい。頼むから少し落ち着いてくれねェかよい。話が先に進まねェだろい……。

部屋の奥に控えている女中も、エプロンを噛み締めて涙を流している姿が視界に飛び込む。マルコは眉を顰めると眉間に手を当てて小さく溜息を吐いたのだった。

数分後――。

漸く落ち着きを取り戻した村長にノバとシバの兄弟を改めて紹介した。そして彼らをロダの村の一員として迎え入れてやって欲しいと話した。

「ううっ、ひっく…、マルコ殿の頼みじゃわしに任せんしゃい! その代わりにわしの愛孫であるチシとサコを頼んだじょ!!」

村長は涙を流しながら劇画調の表情で快く引き受けてくれた。ズピッと鼻を鳴らしながら机に頭突きを噛ます勢いで頭を下げる村長にマルコは頬をヒクリと引き攣らせた。
村長の顔が怖かったのか、サコはマヒロにヒシッと捕まり涙を浮かべて「怖いよ〜!」と泣き出した。
チシもサコと同様でマルコにヒシッと捕まってマルコの胸元に顔を隠した。
マヒロは乾いた笑いを零し、マルコは眉間に手を当てて溜息を吐いた。そしてシバに励ます気持ちで声を掛けた。

「シバ、大変だろうけどよい、お前ェが支えになってやれよい」
「オレ、超不安っす。何ならオレもマルコさん達に付いて行きたいぐらいです」

喜んで良いのか嘆いて良いのかよくわからない。不安だけが胸中を埋め尽くす一方であるシバは縋る目をマルコに向けたが、マルコとマヒロは「頑張れ」と言うしか無かった。
そうして二人は村長の家を後にするのだった。

「あァもう! いい加減に泣き止んでくださいよ!!」

村長宅からシバの怒鳴り声が木霊した。

「「「ごめんなざい!!」」」

村長、ノバ、そして女中までもが加わり、声を揃えて謝罪する言葉が聞こえて来た。

「何だ何だ? どうした?」

村人達はザワザワと村長宅を覗きに行く。その姿を村の入口付近まで来たマルコとマヒロが振り返って見やると苦笑を浮かべた。

「本当にこのまま出て行って良いんだねい?」
「うん、良いの! お別れはね、しないの!」
「……どうして?」

チシの言葉にマヒロが尋ねた。するとチシは「エヘヘ」と笑って嬉しそうにマヒロへと顔を向けた。

「故郷を捨てるわけじゃないもん。立派な大人になって驚かしに帰って来るからって、お爺ちゃんと約束したの」
「ぼ、ボクも」

チシの言葉にサコも同調して声を上げた。

「……そっか、それなら確かに別れなんていらないわね」
「でしょ?」

マルコの肩から顔を覗かせるチシはとても幸せそうだった。

「ねェ、お姉ちゃん」
「ん?」
「ボクも抱っこして欲しい!」

チシの笑顔にとうとう我慢の限界だとばかりにサコは言った。するとチシは一瞬だけマルコの衣服をギュッと握ったが直ぐに手を離した。

「ごめんねサコ!」

チシはそう言うとマルコの腕から飛び降りた。

「マルコ、サコを」
「わかってるよい」

本当はこのままマルコにくっ付いていたかったチシではあったが、弟の気持ちを優先して譲ることにした。そんなチシの気持ちをマルコもマヒロもよく理解している。

「良かったねサコ」

マヒロは抱いているサコをマルコへと託した。するとサコは頬を赤くしながらも嬉しそうにマルコの胸元に頬を擦り寄せた。

「ねェ手を繋いで行こうよマヒロお姉ちゃん!」
「ッ!」

チシはそう言うとマヒロへと手を差し伸べた。

―― やだ、もう、か、可愛い……。

純粋な少女の願い事にマヒロは思わず胸キュンした。

「良いよ!」

マヒロは快諾してチシの手を握り、二人並んで歩き始めた。
マルコはサコを抱っこしながら二人の後を歩くのだが、マヒロの背中を見つめて思わず苦笑する。

―― 意外に子供好きみてェだな。マヒロは良い母親になるよい。

「パパ」
「ッ……!」

腕に抱くサコに声を掛けられたマルコは思わず決まりの悪い表情を浮かべた。

「いや、サコ、訂正してくれねェか? マルコってェ名前で呼んでくれよい……頼む」

年齢的に「パパ」と呼ばれてもおかしくは無い。これぐらいの子供が居ても良い歳だ。だが何だろうこの抵抗感と微妙な敗北感は――。
サコに視線を落せばサコはじっとマルコを見つめている。
マルコはサコの頭を少しだけ乱暴にガシガシと撫でつけてやった。するとサコは「エヘヘッ」と嬉しそうに笑った。

―― !

マルコは少しだけ目を丸くした。そして「あァ……」と納得した声を漏らした。

サコは親の愛情を満足に受けられなかった子だ。父親が死んでから姉に付きっ切りで守られ大事にされて来たのだ。乱暴に撫でられることは今まで一度たりとも無かったことだろう。
こんな風に多少扱いを雑にされても、それが嬉しいと思えるのは、サコが男の子だからと言えるかもしれない。

「船に着いたら大勢の”パパ達”に遊んでもらえよい」
「いっぱいいるの?」
「あァ、全員お前ェのパパだよい。おれを除いてだけどなァ」

マルコはさりげなく自分をそこから除外してそう教えた。

「うん、マルコ以外がボクのパパになる!」

サコは満面の笑顔を浮かべて理解を示した。

―― ッ……。

何だろうこの罪悪感は――と、マルコは遠くを見つめながら眉間に皺を寄せた。『パパ』から『マルコ』と名を呼ばせることに成功はしたのは良いが、何だか凄く申し訳無い気持ちになった。

マルコはサコから視線を外して軽く項垂れた。

「……いや」
「どうしたの?」
「やっぱり良い。おれの事はサコが好きに呼べよい」
「うん、わかった。じゃあ……パパ!」
「……ょぃ……」

サコはマルコの首筋に頬を擦り寄せて嬉しそうにそう言った。

―― やっぱりおれが『パパ』かよい……。

受け入れ難い心境のまま船まで辿り着き、先に到着していたチシが燥ぎながらマヒロに抱き付いていた。

「大きくて白いクジラさんだ! 凄い!!」
「ふふ、モビー・ディック号っていうの。大事にしてあげてね?」
「うん! モビー・ディック号さん、今日からお世話になりますチシです!」

モビー・ディック号に向けてチシが深々と頭を下げて挨拶をした。

ドサッ! 
ガラガラガシャーン!!

途端に周囲で物が落とされる音が鳴り響き、マヒロは驚いて目を向けた。
そこには白ひげ海賊団の隊員達が大勢いた。
荷物を落としたまま固まってチシを凝視していることに気付いたマヒロは目を丸くした。

―― え? な、何?

「「「……か、可愛い…じゃねェか……」」」
「へ?」
「「「な、何すか!? お世話になるって……マジっすか!? どういうことか教えてくれよ姐さん!!」」」
「えェ!?」
「わわっ!」
「ん? 待って、その前に……姐さんって?」

筋肉隆々で厳つい顔をした男達が凄い勢いで迫って来た。驚いたチシは慌ててマヒロの後ろに隠れた。
マヒロも唖然としたが最後の言葉に引っ掛かりを覚え、眉間に皺を寄せて首を傾げた。すると一人の隊員が笑って言った。

「だって、マルコ隊長の女なんすからおれ達からすれば姐御っすよ」
「え、うん、ちょっと待って。間違っては無いでしょうけど、その『姐御』っていうの止めてもらえませんか?」

何とも複雑な心境に追いやられたマヒロは引き攣らせた笑みを浮かべながら訂正を願い出た。

―― 私より遥かに年上のあなた方に姐御と呼ばれるのは流石にちょっと……。

マヒロと隊員達がそんなやり取りをしているのを少し距離を置いて見ていたマルコは小さい小石をチシに向けて投げた。
ピシッと足に何かがぶつかる感覚に気付いたチシが振り向くと、物陰から顔を覗かせて手招きをしているマルコの姿を見つけた。
チシはパッと笑顔になるとマヒロから離れてマルコの元へと駆け寄った。するとマルコはサコと抱っこしたまま片方の手を伸ばしてチシの手を握り、そこから遠回りをして船へと乗り込んだ。

―― 悪ィなマヒロ。良い撒き餌になってくれて助かったよい。

恐らく後で怒られることを覚悟しつつマルコはクツリと笑って二人を船内へと引き連れて自室に案内した。

「マルコのお部屋?」
「そうだよい」
「パパの部屋!」
「ハハ…、悪ィがここで待っててくれよい」
「はーい」
「うん」

マルコはチシとサコを置いて部屋を出ると再び甲板に向かい、手摺り越しに港を見下ろした。
大勢の隊員達に詰め寄られているマヒロの姿を見てクツリと笑ったマルコは「マヒロ!」と声を掛けた。

「え、ま、マルコさん? いつの間に……って、あれ? チシは?」

マヒロはキョロキョロと辺りを見回した。

「もう乗ってるよい」
「えぇ!?」

手摺りに頬杖を突いて笑うマルコにマヒロはハッと何かを察した。

―― 隊員達の目が私に向いてる間に二人を連れて乗り込んだのね!?

心内でそう叫ぶと#マルコ#は頬杖を止めてコクリと頷いた。

「正解だよい。悪ィなマヒロ」

マルコの言葉にマヒロは眉間に皺を寄せると額に軽く青筋を張ってマルコをギロリと睨んだ。だがマルコは何事も無いかのように手摺りを越えて港へと降りるとマヒロの側に歩み寄った。
隊員達は固唾のを飲んで見守っていたが、マルコがマヒロの手を取ると自分の方へと引っ張って抱き締めた。

「な!?」
「「「ま、マルコ隊長?」

急な事で思わず顔を赤らめたマヒロを他所に戸惑う隊員達にマルコは視線を向けた。

「おれの女に間違いはねェけどよい、姐御ってェのは行き過ぎだろい」
「た、隊長……」
「大体、お前ェらの方が年が上だろうがよい。マヒロに対して失礼だろい?」

少しだけニヤリと笑みを浮かべてそう言うと、隊員達は黙ってコクンコクンと頷いた。
正々堂々と人前で女を抱き締めながら「自分の女だ」と公言する等、今までのマルコには絶対に無かった対応で、誰しもが驚いていた。
マヒロはマヒロでまさか人前で抱き締められるとは思ってもいなかった為に完全に停止している。

―― う、嬉しいけど…、流石に恥ずかしい……。

フシューッ……と、蒸気音を上げそうな勢いで顔を真っ赤になるのは当然だった。

「出港まで時間はそう無ェんだい、さっさと荷物を運び入れねェか。それから、さっきお前ェらが見た子供については出港した後にちゃんと説明してやるからよい。まずは仕事に集中しろい」
「「「わ、わかりやした!!」」」

マルコは途端に笑みを消してギロリと睨んでそう言った。すると隊員達は即座に背筋を伸ばして返事をし、蜘蛛の子を散らす様にして仕事場へと戻って行った。
マルコは軽く溜息を吐くと抱き締める手を解いてマヒロの手を取ると引っ張り歩いて船へと乗り込み船内へと入って行った。

「な、何でまた抱き締めたりなんか……」
「撒き餌にしたお詫びってェやつだよい」
「お、お詫びじゃなくて、あれじゃあただの恥ずかしの刑よ!」

顔を真っ赤にしたままマヒロは抗議の声を上げた。だが足を止めて振り向いたマルコはキョトンとし面持ちで片眉を上げた。

「そうでも無いみてェだよい」
「な、何……?」

思わず後退るマヒロにマルコは少し呆れた表情を浮かべて言った。

「気付いて無ェのか? 言ってることと顔に出てるものが違うよい」
「へ?」

口調こそ怒ってるような物言いだったが、その顔はどこかニヤついていた。だがマヒロは気付いていない。両手で頬を触るがわからずに首を傾げた。
マルコはスッと手を伸ばしてマヒロの頭をクシャリと撫でると軽くポンポンっと叩いて微笑を零し、何も言わずにさっさと自室へと足を向けた。

「え、ちょっと、ま、マルコさん、待って!」
「二人を連れて親父の所に行くよい」

マヒロは小走りに後を追ってマルコの部屋へと入って行った。そんな二人のやり取りを偶々通り掛かって目撃したビスタとジョズは顔を見合わせて呆れた表情を浮かべていた。

「まったく……二人揃って惚気とはな」
「マヒロはマルコに惚れている分わからんでもないが、あのマルコがな……わからんもんだ」

ビスタとジョズはマルコの部屋を通り過ぎて船長室へと向かった。
マルコは部屋でチシとサコにこの船のこと並びに白ひげ海賊団について、簡易的に説明しながら通り過ぎて行くビスタとジョズの会話に反応して軽く頬を引き攣らせた。

―― ……はァ、また読んじまった。他人の思念をいちいち気にしていたら切りが無ェよい。力を制御する方法を覚えねェとなァ。

キャッキャッと楽し気に談笑するチシやサコとマヒロを見つめながらマルコは溜息を吐いた。

報告とお迎え

〆栞
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