第二十三幕
カノエの部屋の前に立ったマルコは、ふーっと一呼吸置いてからドアをノックした。
返事は無い。しかし、気配はある。
「入るよい」
ドアを開けて中を見れば、ベッドの縁に腰を掛けたまま手に持つ刀をじっと見つめているカノエがいた。表面上は平然としているように見える。だが、その目はどこか虚ろで憂いを帯びているのがわかる。
「カノエ……」
ドアを静かに閉めてマルコが声を掛けると、カノエは刀を見つめたまま口を開いた。
「この世界でも、橘迅は人斬りとして知られてしまいました」
「……」
「人斬りは所詮…人斬り……ですかね」
少し自嘲気味に漏らしたカノエに、マルコは右手を首筋に当てて小さく溜息を吐いた。
「何言ってンだ。そんなもん誰が決めたよい」
マルコが側に歩み寄ると、カノエは漸く刀から視線を外してマルコに顔を向けた。
「すみません。結局は迷惑を掛け――」
カノエの言葉を遮るように、マルコはカノエの腕を掴んで胸元へと引き寄せ抱き締めた。
「んなもん何とでもねェ」
「ッ……」
「迷惑すら思ってねェよい」
泣いてはいない。けれども僅かに身体が震えていた。
不安を抱いた幼子をあやす様に、そして、宥める様に、ゆっくりとした手付きで、マルコはカノエの背中を優しく撫でてトントンと叩く。
「人斬りなんてこの船にはいねェ。カノエはカノエだ」
「!」
「手配書一つ出たぐれェで揺らぎはしねェ。それにおれも札付きだ。カノエ以上のな」
抱き締める手を解いてやると眉尻を下げた顔で見上げるカノエに、口角を上げた笑みを湛えたマルコがくしゃくしゃと頭を撫でた。
「心配すんな。白ひげ海賊団は家族だ。カノエを一人になんかさせねェ。それに――」
” カノエの側には必ずおれがいる ”
マルコは真っ直ぐに目を見て告げた。それに呼応するかのように、ポロッ……――とカノエの目尻から涙が零れ落ちた。
「え……? あ……」
頬に触れた手が濡れている。そうして初めて泣いていることに気付いた。泣くつもりなんて無かった。泣いてるとも思わなかった。どうしてか涙は止め処なく溢れて、自分の手で何度も拭うが止まりそうも無くて。そうしていると自分の手よりも大きな手がふわりと頬に触れて、その手が、指が、代わりに涙を拭ってくれた。
―― ッ……。
手先から伝わる優しい温もりに思わずギュッと胸が苦しくなってハッと短く息を吐いた。
追い詰められる時はいつも一人だ。誰に頼ることも無く、誰かに吐露するでも無く、一人で解決の道筋を探して、苦しみながらも何とか自己完結させて処理をして来た。だから、今回も一人で考えた。
迷惑は掛けられない。
このままこの船に留まって良いのだろうか。
迷惑は掛けたくない。
ならば、やはり降りるべきなのでは――?
離すのか?
――!
救い、差し伸べてくれた手を
温もりを再び与えてくれた人を
自らの手で――また捨てるのか?
頭に過る声。そうして蘇る記憶。自らの手で斬り殺した兄《迅》の姿。それが別の人へと姿を変える。途端にカノエは大きく目を見開いた。
「う…あ……」
「カノエ……?」
胸を貫く刀。その柄を握っているのは紛れも無く自分。咳き込んだ口から血を吐きながら力無く倒れたその人は――。
「 嫌…だ…嫌だ……嫌だ!」
「!」
急に酷く動揺したカノエがマルコの衣服を掴んで縋り付いた。カノエの身体を咄嗟に抱き留めたマルコは目を丸くした。
「おい…!」
「うあァァッ! 嫌だッ…、嫌だ! 嫌だ……!!」
カノエは頭を振りながら泣きじゃくった。
「死なないで、死なないで……! 死んじゃ嫌だ!」
譫言のように漏らされる言葉。
誰を、何を見て、そんなことを口走るのか。
感情が乱れて錯乱状態に陥るカノエは、
「兄様を斬ったこの手でッ……!」
悔やむように声を絞り出して、
「あなたまで……斬りたくない……」
怯えるように声を震わせた。
「!」
マルコの衣服を掴む手に力が入る。
自ずと顔を俯かせた。
落ちて行く涙が床を濡らしていく。
離すのか?
迅の手が消える。
救い、差し伸べてくれた手を
温もりを再び与えてくれた人を
自らの手で――また捨てるのか?
松陰の手が消える。
捨てるのか?
三度差し伸べられた。そして、最後の手。
頭を、背中を撫で、涙を拭ってくれたその手を――。
〜〜〜〜〜
「笑ってはいたが恐らく強がりだ。内心は決して穏やかじゃねェだろう」
〜〜〜〜〜
白ひげが言った通りにやはり冷静ではいられなかった。肩を震わせて子供のように泣いたのはこれで二度目だ。
両肩にそっと手を置いてポンポンと軽く叩いたマルコは、嗚咽を漏らして涙するカノエの耳元にそっと口を寄せて優しく語り掛ける。
「なァ、カノエ」
「ふっ…う……」
「おれは死なねェよい」
「ッ…、し、死なない…人なんて…いない……」
首を振るカノエの両頬を包むように手を添えて顔を上げさせた。感情が堰を切って泣き腫らした顔で見上げるカノエに、マルコは苦笑を浮かべた。
「おれは斬られたぐらいで死んだりはしねェんだよい」
「ど…して……そんな、こと、言える…の…?」
泣きながら困惑の色を隠せないカノエを見つめながらマルコは未だに零れ落ちる涙を親指で拭ってやる。そして――
「見せてやるよい」
「え?」
自分の持つ異質な力を。
化物とまで称され蔑まれ忌み嫌われたことさえある希少な力を。
ベッドの縁に転がっていたカノエの脇差に手を伸ばしたマルコは、鞘から引き抜くと躊躇いも無く自らの腕に向けて斬りつけようとした。
「な、何を……!」
驚いたカノエが咄嗟にそれを止めようとしたが、脇差の刃の方が速く、マルコの腕を切り裂いて血が溢れ出した。顔を青くしたカノエは傷口を塞ごうと手を伸ばしたがマルコに遮られた。
「早く止血しないと!」
「見せてやるって言ったろい?」
「何を言って」
ボボボボッ!
「――!?」
炎が爆ぜる音にハッとしたカノエは目を見張った。
―― これはッ!
嘗てシャボンティ諸島で見たあの青い炎がマルコの腕を包んでいく。
「き、傷が……!」
青い炎に包まれた傷がスッと消えていくのを目の当たりにしたカノエは呆然とした。
震える手を徐に伸ばして傷を負ったはずのマルコの腕に触れようとする――が、チリチリと燃える青い炎が健在で触れるのを躊躇した。
「触っても大丈夫だよい」
マルコは青い炎を灯した手を自ら差し出してカノエの手を取った。
「熱く…ない……」
「こいつは再生の炎だ」
「再生の……炎?」
微笑を浮かべたマルコはカノエから数歩程下がると足元から炎を滾らせ始めた。
「おれはどんな攻撃を受けても再生の炎で復活する――」
ボボボボッ!
「不死鳥だ」
爆ぜる音が大きくなって青い炎が全身を包んだ。
「あ…!」
突然のことに驚いてマルコを掴もうと手を伸ばしたカノエだったが、爆ぜる炎の勢いに圧倒されて顔を庇う様に腕を交差させて目をギュッと瞑った。
「カノエ」
目を開けて見てみろとマルコが告げる。カノエはゆっくりと目を開けた。
「なっ……!?」
爆ぜる青い炎を身に纏う大きな鳥の姿がそこにあった。思わず目を見開いて唖然とするカノエに、「これがおれの能力だよい」と話す青い鳥が軽く首を動かしてカノエの腕に嘴で突いた。
「ま、マル…コ……さん?」
「そうだよい」
「ッ……!」
青い鳥がマルコの声音で答える様に尚更驚き固まってしまうカノエに目を細めたマルコは、胸にチクリとした痛みが僅かに走るのを感じた。
―― やっぱり怖いか……。
能力を見せることで距離を取られてしまうのではと考えなくも無かったが、いつかは知られる能力だ。そういうことに慣れてはいるが、この胸の痛みは何度味わっても慣れない――と、マルコは自嘲した。
しかし、マルコの思いとは裏腹にカノエは胸の内に温かいものを感じていた。不死鳥となったその姿に、そして、揺らめく青い炎に、ただただ見惚れて――。
ポタッ……――。
兄様の着ていた衣と同じ色だなんてとんでもない。
こんな……、こんな綺麗な青は、見たことが無い。
ポタッ……――。
カノエの瞳から再び涙が零れて頬を濡らして落ちて行く。
目を丸くしたマルコは怖がらせたかと思ったが、カノエの表情は畏怖とは全く違ったもので、どちらかと言えば”感極まる”といったものに思えた。
何を言うでもなくカノエは再びマルコへと手を伸ばした。その手がマルコの首筋を、胸元を、ゆっくりとした手付きで撫でて行く。
「凄く綺麗……」
「!」
「本当に……」
綺麗だ――。カノエは徐にマルコの首筋に手を回して抱き締めた。
「ッ……」
首筋に頬を寄せてモフモフとした羽毛の感触に自然と笑みが零れるカノエ。その一方、思ってもみなかったカノエの行動に驚いたマルコは、ただただ戸惑い狼狽えるしかなかった。
「本当に不死鳥なんですね」
「あ、あァ、そうだよい」
「鳥になれるなんて思いもしなかった」
「そ、そうかい?」
カノエは顔を上げると、まさか空を飛べるなんてことは――と恐る恐る口にした。
「あァ、飛べるよい」
「えェ!? 凄い!」
「ッ……」
驚きの声を上げて頬を紅潮させた笑みを見せるカノエに、胸の内に芽生えた『不安』が意図も簡単に消え失せてしまったことにマルコは思わず拍子抜けした。
―― は……、ただの取り越し苦労だよい。
怖がられるかもしれない。距離を置かれるかもしれない。そんな不安と恐怖を抱くこと自体無駄だった。怖がるどころか感動の涙を流してすんなりと受け入れてくれるとは。その上、綺麗だなんて褒め言葉までくれたのだ。
こんなに嬉しい気持ちに満たされたのは何時ぶりだろうか。
くつくつと喉を鳴らして笑ったマルコは、不死鳥化を解いて人の姿に戻るとガバッとカノエを強く抱き締めた。
「わっ!?」
「カノエ!」
「ま、マルコさん!?」
突然のことにカノエは驚いた。――が、何だか凄く嬉しそうなマルコに瞬きを繰り返して、ドキドキと鼓動が速く脈打つのを感じながらマルコの背中にそっと手を回して優しく抱き返した。
―― 温かい。この人は凄く温かくて……優しい人だ。
離したくない。
「ちょっとやそっとじゃあおれは死なねェ」
離れたくない。
「だから、安心しろよいカノエ」
もしこの人を手放したら
「おれの手を離すなよい」
きっと――
「側にいて欲しけりゃいつでもおれを呼べ」
今度こそ壊れてしまうだろう。
カノエの手がマルコの衣服をギュッと握った。一つずつ投げ掛ける言葉を受ける度に力を篭めて、カノエは何度も頷いた。
―― カノエ………。
マルコはそんなカノエを「愛しい」と思った。素直にそう思って、抱きしめる腕に力が入る。
「ありがとな」
「え……?」
「綺麗だって言ってくれてよい」
ポツリと落とされた御礼に、カノエは少しだけ身を引いて顔を上げた。見下ろしていたマルコが苦笑を浮かべる。
「おれの能力を見た奴は、殆ど畏怖を抱いて敬遠するからよい」
「……」
「怖くないか? 気持ち悪いとは思わねェか?」
「ッ……」
マルコは右手をカノエの後頭部に回して再び抱き締めた。
トクン……――。
苦笑して、何とでも無いような笑みを浮かべていたが、どこか泣きそうな顔にも見えて、胸が締め付けられるような、切ないような気持ちになったカノエは、マルコの背中をトントンと軽く叩いた。
「!」
自分にしてくれたように、不安を抱いた幼子をあやす様に、宥める様に、ゆっくりとした手付きで、優しく撫でてトントンと――。
「怖いだなんて思いません。気持ち悪いなんてことすら思いもしない」
「!」
「暗闇で泣く私に光をくれた。寒くて凍えそうな私に温もりをくれた。誰も拾ってくれなかった私の、カノエの心を、あなはた拾って包み込んでくれた」
「カノエ……」
「怖がる理由なんて無い。気持ち悪いなんて思うはずが無い」
私にとってあなたはとても大切な人だから――。
真剣な面持ちでそう言い切ったカノエは、真剣な眼差しの中にいたわりを込めた愛情を灯してマルコを見上げた。
「此方こそ、御礼を言わせてください」
「!」
「マルコさん、ありがとう。そして、あなたの秘めた力も教えてくれて……ありがとう」
マルコの胸元にトンッと額を当て、そして、頬を寄せた。
トクン……――、トクン……――。
聞こえてくるマルコの心音に耳を傾けながらカノエは笑みを零した。そんなカノエにマルコは全身から力が抜け落ちる程の溜息を漏らし、左手で目元を覆いながら天を仰いだ。
―― はァァァァ……。
胸の内で情けねェと深い溜息を吐いた。――が、自ずと口角が上がってしまうのは仕方が無いことで。
「これじゃあどっちかわかんねェなァ」
「ん?」
「救う側が救われちまった気分だよい」
そんなこと無いですよとカノエが笑うと、それに応えるようにマルコも笑った。
「手配書のことは気にするな。あれはタチバナジンの手配書であって、タチバナカノエの手配書じゃねェからよい」
「そう…ですね……」
「写真すらねェんだ。それに、この船に乗ってりゃ海軍だって下手に手は出せねェしよい」
「…………え?」
マルコの言葉に引っ掛かりを覚えたカノエは軽く停止した。そんなカノエの反応に片眉を上げたマルコは不思議そうな表情を浮かべた――が、「あァ、そうか」と呟くと途端にニヤリと不敵な笑みへと変えた。
「言ってなかったことがある」
「な、何を……?」
「世界最強の白ひげ海賊団に喧嘩を売るってェんなら、海軍もそれ相応のリスクを覚悟する必要があるってことだ」
「!! せ、世界最強!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてカノエは愕然とした。自分を庇護してくれる白ひげ海賊団が、この世界においてどれだけ有名で、どれだけ地位のある海賊団であるのか――そう言えば全く微塵も考えたことはなかった。
―― ま、ま、まさか……。
今正に事実を知らされたカノエは、恐る恐る手を挙げて質問する。
「あ、あの……」
「何だい?」
「オヤジ様だけで無く、その、マルコさんも名を馳せてたりなんて……?」
「ククッ……、今更かよい」
「!」
肩を揺らして笑うマルコに、カノエはヒクリと頬を引き攣らせた。
「そ、そのような話は一度もしなかったではないか!」
眉間に皺を寄せて不満気に声を荒げたカノエに、耐え切れずに噴き出して笑ったマルコは、カノエの頭をワシャワシャと撫で回した。
「オヤジは世界最強の男だ。それにおれも『不死鳥マルコ』で手配書が出回ってるよい」
「な!?」
「つまり、カノエは世界最強の男の娘になるっつぅわけだ」
「へ……?」
「あー、そう言うとカノエはどのみち唯一の存在に変わりねェってことになるか……」
「!!?」
今気付いたよい――と、ガシガシと頭を掻いて笑うマルコに対してカノエは開いた口が塞がらなかった。
この世界は私を知らない。――どころの話じゃあ無い。寧ろ余計に名を馳せてしまうのではなかろうか。幕末の世に天剣の人斬りで有名だったどころのレベルじゃない気がしてきたカノエは、顔を青褪めてヨロヨロと後退ってベッドに力無く腰を下ろした。
「刀……」
ポツリと呟いたカノエは、まるで機械仕掛けの人形のようにカクカクとした動きで愛刀を手にした。何をするのかと一瞬だけ警戒したマルコだったが――。
「そ、そう、そう、刀を手入れしなくては。あァ、あと、服の仕立ても早くせねば。あ、わ、わ、脇差も忘れないように」
「お、おい、カノエ……?」
「あァ、傷を負ってからというもの、近頃はめっきり鍛錬ができておらぬ。そろそろ再開せねば……。えーと、それから、それから、」
「いや、まァ、その、なんだ……。カノエが気負いする必要はねェから……」
ブツブツと呟きながらカクカクとぎこちない動きで刀の手入れを始めるカノエに対して呆れた表情を浮かべたマルコは小さく首を振りながら溜息を吐いた。
何だか暗く重たい空気を背中に乗せ始めた気さえする。
カノエの頭にマルコが手を伸ばしてポンポンと軽く弾ませると、カノエは必要以上にビクンと身体を強張らせた。それに呼応するように思わずマルコも若干ビクついた。
―― いや、天下の人斬りはどうしたよい……。
形無しだなと思いながらマルコはカノエの隣に腰を下ろした。
「必要以上にビビることも怖がることもねェだろい」
「い、いや、名に恥じぬ様にせねば申し訳が無い!」
「クソ真面目かよい」
両腕を組んで肩を揺らしてくつくつと笑うマルコをギロリと睨んだカノエに、マルコは片眉を上げて手の甲でカノエの頭をコツンと叩いた。
「おれが守ってやるから安心しろって言ってんだよい」
「う……」
不満気に唇を尖らせるカノエに、またくつくつと笑ったマルコは腰を上げた。
「少し離れるが、もう大丈夫かい?」
「は、はい……」
頷いたカノエに柔らかい笑みを浮かべたマルコはそのまま部屋を後にした。
ドアがパタンと静かに閉まる。
部屋から離れて行くマルコの気配を感じながら、カノエは徐に手を動かしてコツンと叩かれた頭を軽く撫でた。
トクンッ……――。
また心臓が跳ねた。
また跳ねて、心がザワザワしている。
でも――
凄く温かい。
時々チクリと胸が痛んで息苦しくなったり切なくなったりする。でも、決して嫌ではないし、辛くも無い。寧ろ嬉しい気持ちになる。そう、とても不思議な感覚だ。
色恋沙汰に縁遠かったカノエには、それを言葉で表現することは容易では無かった。しかし――
カノエは好きなのか?
―― え?
愛しい?
―― 何?
トクン……――。
トクン……――。
鼓動が柔らかく脈打ち両手で頬を包んで目を瞑る。頬を赤く染めながらどこか切なげで苦し気な表情。しかし、それは『愛しさ』を滲ませた艶のある女の顔だった。
だが、自分がそんな顔をしている意識は無く、何とも言えない清々しく温かい気持ちに心が満たされていくのを、ただ、ただ、幸せに、感じていた。
返事は無い。しかし、気配はある。
「入るよい」
ドアを開けて中を見れば、ベッドの縁に腰を掛けたまま手に持つ刀をじっと見つめているカノエがいた。表面上は平然としているように見える。だが、その目はどこか虚ろで憂いを帯びているのがわかる。
「カノエ……」
ドアを静かに閉めてマルコが声を掛けると、カノエは刀を見つめたまま口を開いた。
「この世界でも、橘迅は人斬りとして知られてしまいました」
「……」
「人斬りは所詮…人斬り……ですかね」
少し自嘲気味に漏らしたカノエに、マルコは右手を首筋に当てて小さく溜息を吐いた。
「何言ってンだ。そんなもん誰が決めたよい」
マルコが側に歩み寄ると、カノエは漸く刀から視線を外してマルコに顔を向けた。
「すみません。結局は迷惑を掛け――」
カノエの言葉を遮るように、マルコはカノエの腕を掴んで胸元へと引き寄せ抱き締めた。
「んなもん何とでもねェ」
「ッ……」
「迷惑すら思ってねェよい」
泣いてはいない。けれども僅かに身体が震えていた。
不安を抱いた幼子をあやす様に、そして、宥める様に、ゆっくりとした手付きで、マルコはカノエの背中を優しく撫でてトントンと叩く。
「人斬りなんてこの船にはいねェ。カノエはカノエだ」
「!」
「手配書一つ出たぐれェで揺らぎはしねェ。それにおれも札付きだ。カノエ以上のな」
抱き締める手を解いてやると眉尻を下げた顔で見上げるカノエに、口角を上げた笑みを湛えたマルコがくしゃくしゃと頭を撫でた。
「心配すんな。白ひげ海賊団は家族だ。カノエを一人になんかさせねェ。それに――」
” カノエの側には必ずおれがいる ”
マルコは真っ直ぐに目を見て告げた。それに呼応するかのように、ポロッ……――とカノエの目尻から涙が零れ落ちた。
「え……? あ……」
頬に触れた手が濡れている。そうして初めて泣いていることに気付いた。泣くつもりなんて無かった。泣いてるとも思わなかった。どうしてか涙は止め処なく溢れて、自分の手で何度も拭うが止まりそうも無くて。そうしていると自分の手よりも大きな手がふわりと頬に触れて、その手が、指が、代わりに涙を拭ってくれた。
―― ッ……。
手先から伝わる優しい温もりに思わずギュッと胸が苦しくなってハッと短く息を吐いた。
追い詰められる時はいつも一人だ。誰に頼ることも無く、誰かに吐露するでも無く、一人で解決の道筋を探して、苦しみながらも何とか自己完結させて処理をして来た。だから、今回も一人で考えた。
迷惑は掛けられない。
このままこの船に留まって良いのだろうか。
迷惑は掛けたくない。
ならば、やはり降りるべきなのでは――?
離すのか?
――!
救い、差し伸べてくれた手を
温もりを再び与えてくれた人を
自らの手で――また捨てるのか?
頭に過る声。そうして蘇る記憶。自らの手で斬り殺した兄《迅》の姿。それが別の人へと姿を変える。途端にカノエは大きく目を見開いた。
「う…あ……」
「カノエ……?」
胸を貫く刀。その柄を握っているのは紛れも無く自分。咳き込んだ口から血を吐きながら力無く倒れたその人は――。
「 嫌…だ…嫌だ……嫌だ!」
「!」
急に酷く動揺したカノエがマルコの衣服を掴んで縋り付いた。カノエの身体を咄嗟に抱き留めたマルコは目を丸くした。
「おい…!」
「うあァァッ! 嫌だッ…、嫌だ! 嫌だ……!!」
カノエは頭を振りながら泣きじゃくった。
「死なないで、死なないで……! 死んじゃ嫌だ!」
譫言のように漏らされる言葉。
誰を、何を見て、そんなことを口走るのか。
感情が乱れて錯乱状態に陥るカノエは、
「兄様を斬ったこの手でッ……!」
悔やむように声を絞り出して、
「あなたまで……斬りたくない……」
怯えるように声を震わせた。
「!」
マルコの衣服を掴む手に力が入る。
自ずと顔を俯かせた。
落ちて行く涙が床を濡らしていく。
離すのか?
迅の手が消える。
救い、差し伸べてくれた手を
温もりを再び与えてくれた人を
自らの手で――また捨てるのか?
松陰の手が消える。
捨てるのか?
三度差し伸べられた。そして、最後の手。
頭を、背中を撫で、涙を拭ってくれたその手を――。
〜〜〜〜〜
「笑ってはいたが恐らく強がりだ。内心は決して穏やかじゃねェだろう」
〜〜〜〜〜
白ひげが言った通りにやはり冷静ではいられなかった。肩を震わせて子供のように泣いたのはこれで二度目だ。
両肩にそっと手を置いてポンポンと軽く叩いたマルコは、嗚咽を漏らして涙するカノエの耳元にそっと口を寄せて優しく語り掛ける。
「なァ、カノエ」
「ふっ…う……」
「おれは死なねェよい」
「ッ…、し、死なない…人なんて…いない……」
首を振るカノエの両頬を包むように手を添えて顔を上げさせた。感情が堰を切って泣き腫らした顔で見上げるカノエに、マルコは苦笑を浮かべた。
「おれは斬られたぐらいで死んだりはしねェんだよい」
「ど…して……そんな、こと、言える…の…?」
泣きながら困惑の色を隠せないカノエを見つめながらマルコは未だに零れ落ちる涙を親指で拭ってやる。そして――
「見せてやるよい」
「え?」
自分の持つ異質な力を。
化物とまで称され蔑まれ忌み嫌われたことさえある希少な力を。
ベッドの縁に転がっていたカノエの脇差に手を伸ばしたマルコは、鞘から引き抜くと躊躇いも無く自らの腕に向けて斬りつけようとした。
「な、何を……!」
驚いたカノエが咄嗟にそれを止めようとしたが、脇差の刃の方が速く、マルコの腕を切り裂いて血が溢れ出した。顔を青くしたカノエは傷口を塞ごうと手を伸ばしたがマルコに遮られた。
「早く止血しないと!」
「見せてやるって言ったろい?」
「何を言って」
ボボボボッ!
「――!?」
炎が爆ぜる音にハッとしたカノエは目を見張った。
―― これはッ!
嘗てシャボンティ諸島で見たあの青い炎がマルコの腕を包んでいく。
「き、傷が……!」
青い炎に包まれた傷がスッと消えていくのを目の当たりにしたカノエは呆然とした。
震える手を徐に伸ばして傷を負ったはずのマルコの腕に触れようとする――が、チリチリと燃える青い炎が健在で触れるのを躊躇した。
「触っても大丈夫だよい」
マルコは青い炎を灯した手を自ら差し出してカノエの手を取った。
「熱く…ない……」
「こいつは再生の炎だ」
「再生の……炎?」
微笑を浮かべたマルコはカノエから数歩程下がると足元から炎を滾らせ始めた。
「おれはどんな攻撃を受けても再生の炎で復活する――」
ボボボボッ!
「不死鳥だ」
爆ぜる音が大きくなって青い炎が全身を包んだ。
「あ…!」
突然のことに驚いてマルコを掴もうと手を伸ばしたカノエだったが、爆ぜる炎の勢いに圧倒されて顔を庇う様に腕を交差させて目をギュッと瞑った。
「カノエ」
目を開けて見てみろとマルコが告げる。カノエはゆっくりと目を開けた。
「なっ……!?」
爆ぜる青い炎を身に纏う大きな鳥の姿がそこにあった。思わず目を見開いて唖然とするカノエに、「これがおれの能力だよい」と話す青い鳥が軽く首を動かしてカノエの腕に嘴で突いた。
「ま、マル…コ……さん?」
「そうだよい」
「ッ……!」
青い鳥がマルコの声音で答える様に尚更驚き固まってしまうカノエに目を細めたマルコは、胸にチクリとした痛みが僅かに走るのを感じた。
―― やっぱり怖いか……。
能力を見せることで距離を取られてしまうのではと考えなくも無かったが、いつかは知られる能力だ。そういうことに慣れてはいるが、この胸の痛みは何度味わっても慣れない――と、マルコは自嘲した。
しかし、マルコの思いとは裏腹にカノエは胸の内に温かいものを感じていた。不死鳥となったその姿に、そして、揺らめく青い炎に、ただただ見惚れて――。
ポタッ……――。
兄様の着ていた衣と同じ色だなんてとんでもない。
こんな……、こんな綺麗な青は、見たことが無い。
ポタッ……――。
カノエの瞳から再び涙が零れて頬を濡らして落ちて行く。
目を丸くしたマルコは怖がらせたかと思ったが、カノエの表情は畏怖とは全く違ったもので、どちらかと言えば”感極まる”といったものに思えた。
何を言うでもなくカノエは再びマルコへと手を伸ばした。その手がマルコの首筋を、胸元を、ゆっくりとした手付きで撫でて行く。
「凄く綺麗……」
「!」
「本当に……」
綺麗だ――。カノエは徐にマルコの首筋に手を回して抱き締めた。
「ッ……」
首筋に頬を寄せてモフモフとした羽毛の感触に自然と笑みが零れるカノエ。その一方、思ってもみなかったカノエの行動に驚いたマルコは、ただただ戸惑い狼狽えるしかなかった。
「本当に不死鳥なんですね」
「あ、あァ、そうだよい」
「鳥になれるなんて思いもしなかった」
「そ、そうかい?」
カノエは顔を上げると、まさか空を飛べるなんてことは――と恐る恐る口にした。
「あァ、飛べるよい」
「えェ!? 凄い!」
「ッ……」
驚きの声を上げて頬を紅潮させた笑みを見せるカノエに、胸の内に芽生えた『不安』が意図も簡単に消え失せてしまったことにマルコは思わず拍子抜けした。
―― は……、ただの取り越し苦労だよい。
怖がられるかもしれない。距離を置かれるかもしれない。そんな不安と恐怖を抱くこと自体無駄だった。怖がるどころか感動の涙を流してすんなりと受け入れてくれるとは。その上、綺麗だなんて褒め言葉までくれたのだ。
こんなに嬉しい気持ちに満たされたのは何時ぶりだろうか。
くつくつと喉を鳴らして笑ったマルコは、不死鳥化を解いて人の姿に戻るとガバッとカノエを強く抱き締めた。
「わっ!?」
「カノエ!」
「ま、マルコさん!?」
突然のことにカノエは驚いた。――が、何だか凄く嬉しそうなマルコに瞬きを繰り返して、ドキドキと鼓動が速く脈打つのを感じながらマルコの背中にそっと手を回して優しく抱き返した。
―― 温かい。この人は凄く温かくて……優しい人だ。
離したくない。
「ちょっとやそっとじゃあおれは死なねェ」
離れたくない。
「だから、安心しろよいカノエ」
もしこの人を手放したら
「おれの手を離すなよい」
きっと――
「側にいて欲しけりゃいつでもおれを呼べ」
今度こそ壊れてしまうだろう。
カノエの手がマルコの衣服をギュッと握った。一つずつ投げ掛ける言葉を受ける度に力を篭めて、カノエは何度も頷いた。
―― カノエ………。
マルコはそんなカノエを「愛しい」と思った。素直にそう思って、抱きしめる腕に力が入る。
「ありがとな」
「え……?」
「綺麗だって言ってくれてよい」
ポツリと落とされた御礼に、カノエは少しだけ身を引いて顔を上げた。見下ろしていたマルコが苦笑を浮かべる。
「おれの能力を見た奴は、殆ど畏怖を抱いて敬遠するからよい」
「……」
「怖くないか? 気持ち悪いとは思わねェか?」
「ッ……」
マルコは右手をカノエの後頭部に回して再び抱き締めた。
トクン……――。
苦笑して、何とでも無いような笑みを浮かべていたが、どこか泣きそうな顔にも見えて、胸が締め付けられるような、切ないような気持ちになったカノエは、マルコの背中をトントンと軽く叩いた。
「!」
自分にしてくれたように、不安を抱いた幼子をあやす様に、宥める様に、ゆっくりとした手付きで、優しく撫でてトントンと――。
「怖いだなんて思いません。気持ち悪いなんてことすら思いもしない」
「!」
「暗闇で泣く私に光をくれた。寒くて凍えそうな私に温もりをくれた。誰も拾ってくれなかった私の、カノエの心を、あなはた拾って包み込んでくれた」
「カノエ……」
「怖がる理由なんて無い。気持ち悪いなんて思うはずが無い」
私にとってあなたはとても大切な人だから――。
真剣な面持ちでそう言い切ったカノエは、真剣な眼差しの中にいたわりを込めた愛情を灯してマルコを見上げた。
「此方こそ、御礼を言わせてください」
「!」
「マルコさん、ありがとう。そして、あなたの秘めた力も教えてくれて……ありがとう」
マルコの胸元にトンッと額を当て、そして、頬を寄せた。
トクン……――、トクン……――。
聞こえてくるマルコの心音に耳を傾けながらカノエは笑みを零した。そんなカノエにマルコは全身から力が抜け落ちる程の溜息を漏らし、左手で目元を覆いながら天を仰いだ。
―― はァァァァ……。
胸の内で情けねェと深い溜息を吐いた。――が、自ずと口角が上がってしまうのは仕方が無いことで。
「これじゃあどっちかわかんねェなァ」
「ん?」
「救う側が救われちまった気分だよい」
そんなこと無いですよとカノエが笑うと、それに応えるようにマルコも笑った。
「手配書のことは気にするな。あれはタチバナジンの手配書であって、タチバナカノエの手配書じゃねェからよい」
「そう…ですね……」
「写真すらねェんだ。それに、この船に乗ってりゃ海軍だって下手に手は出せねェしよい」
「…………え?」
マルコの言葉に引っ掛かりを覚えたカノエは軽く停止した。そんなカノエの反応に片眉を上げたマルコは不思議そうな表情を浮かべた――が、「あァ、そうか」と呟くと途端にニヤリと不敵な笑みへと変えた。
「言ってなかったことがある」
「な、何を……?」
「世界最強の白ひげ海賊団に喧嘩を売るってェんなら、海軍もそれ相応のリスクを覚悟する必要があるってことだ」
「!! せ、世界最強!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてカノエは愕然とした。自分を庇護してくれる白ひげ海賊団が、この世界においてどれだけ有名で、どれだけ地位のある海賊団であるのか――そう言えば全く微塵も考えたことはなかった。
―― ま、ま、まさか……。
今正に事実を知らされたカノエは、恐る恐る手を挙げて質問する。
「あ、あの……」
「何だい?」
「オヤジ様だけで無く、その、マルコさんも名を馳せてたりなんて……?」
「ククッ……、今更かよい」
「!」
肩を揺らして笑うマルコに、カノエはヒクリと頬を引き攣らせた。
「そ、そのような話は一度もしなかったではないか!」
眉間に皺を寄せて不満気に声を荒げたカノエに、耐え切れずに噴き出して笑ったマルコは、カノエの頭をワシャワシャと撫で回した。
「オヤジは世界最強の男だ。それにおれも『不死鳥マルコ』で手配書が出回ってるよい」
「な!?」
「つまり、カノエは世界最強の男の娘になるっつぅわけだ」
「へ……?」
「あー、そう言うとカノエはどのみち唯一の存在に変わりねェってことになるか……」
「!!?」
今気付いたよい――と、ガシガシと頭を掻いて笑うマルコに対してカノエは開いた口が塞がらなかった。
この世界は私を知らない。――どころの話じゃあ無い。寧ろ余計に名を馳せてしまうのではなかろうか。幕末の世に天剣の人斬りで有名だったどころのレベルじゃない気がしてきたカノエは、顔を青褪めてヨロヨロと後退ってベッドに力無く腰を下ろした。
「刀……」
ポツリと呟いたカノエは、まるで機械仕掛けの人形のようにカクカクとした動きで愛刀を手にした。何をするのかと一瞬だけ警戒したマルコだったが――。
「そ、そう、そう、刀を手入れしなくては。あァ、あと、服の仕立ても早くせねば。あ、わ、わ、脇差も忘れないように」
「お、おい、カノエ……?」
「あァ、傷を負ってからというもの、近頃はめっきり鍛錬ができておらぬ。そろそろ再開せねば……。えーと、それから、それから、」
「いや、まァ、その、なんだ……。カノエが気負いする必要はねェから……」
ブツブツと呟きながらカクカクとぎこちない動きで刀の手入れを始めるカノエに対して呆れた表情を浮かべたマルコは小さく首を振りながら溜息を吐いた。
何だか暗く重たい空気を背中に乗せ始めた気さえする。
カノエの頭にマルコが手を伸ばしてポンポンと軽く弾ませると、カノエは必要以上にビクンと身体を強張らせた。それに呼応するように思わずマルコも若干ビクついた。
―― いや、天下の人斬りはどうしたよい……。
形無しだなと思いながらマルコはカノエの隣に腰を下ろした。
「必要以上にビビることも怖がることもねェだろい」
「い、いや、名に恥じぬ様にせねば申し訳が無い!」
「クソ真面目かよい」
両腕を組んで肩を揺らしてくつくつと笑うマルコをギロリと睨んだカノエに、マルコは片眉を上げて手の甲でカノエの頭をコツンと叩いた。
「おれが守ってやるから安心しろって言ってんだよい」
「う……」
不満気に唇を尖らせるカノエに、またくつくつと笑ったマルコは腰を上げた。
「少し離れるが、もう大丈夫かい?」
「は、はい……」
頷いたカノエに柔らかい笑みを浮かべたマルコはそのまま部屋を後にした。
ドアがパタンと静かに閉まる。
部屋から離れて行くマルコの気配を感じながら、カノエは徐に手を動かしてコツンと叩かれた頭を軽く撫でた。
トクンッ……――。
また心臓が跳ねた。
また跳ねて、心がザワザワしている。
でも――
凄く温かい。
時々チクリと胸が痛んで息苦しくなったり切なくなったりする。でも、決して嫌ではないし、辛くも無い。寧ろ嬉しい気持ちになる。そう、とても不思議な感覚だ。
色恋沙汰に縁遠かったカノエには、それを言葉で表現することは容易では無かった。しかし――
カノエは好きなのか?
―― え?
愛しい?
―― 何?
トクン……――。
トクン……――。
鼓動が柔らかく脈打ち両手で頬を包んで目を瞑る。頬を赤く染めながらどこか切なげで苦し気な表情。しかし、それは『愛しさ』を滲ませた艶のある女の顔だった。
だが、自分がそんな顔をしている意識は無く、何とも言えない清々しく温かい気持ちに心が満たされていくのを、ただ、ただ、幸せに、感じていた。
【〆栞】