矢部は不安になる。心とは裏腹に身体だけが発情している事も、今までに体験した事がないくらい精液が出ることも。背中を冷汗が伝う。
 息が少し苦しい。しかし、飲まされた媚薬のせいで身体がいう事を聞かない。それは抑えようのない性欲。先ほど飲まされた蜜のような液体と同じような甘い香りがする。
 目の前にいる蠱惑的なメスに種付けしたい……そんな衝動で頭がいっぱいになる。ただ、心だけが戸惑っている。

「くっそ、マジで責任取れよ……これがおさまるまでパコるから穴貸せや!」
「うーん、なかなかのクズ発言だな! ちょっと個体値を見せてもらおう!」

 変態の口角が少しだけ吊り上がる。仰向けに寝転がりながら手で影絵のきつねを作る。そしてその目の部分を通して変態は矢部を見た。マスクをかぶっているのでどんな顔なのかは分からない。しかし、目の部分に空いている小さな穴がきらりと光った。

「ふむ、なかなかいいステータスだ。でもダブってるんだよな……もううちも手狭だし……うん、うん、そうだな……」
「何ぶつぶつ言ってるんだ……?」
「気にしてはいけない! さあ、ズッポズッポほじりまくりなさい!」

 変態は大きく両足を開いて、両手でピースサインを作った。絶えず流れる精液、それから汗、そのすべてが艶めかしく、矢部は性欲に逆らえなかった。
 そこからはもう、何度も何度も……気が付けば交尾可能なメスに群がるオスの獣のように浅ましく身体を求めてしまう。
 もうとっぷりと日が暮れて、夕方。薄暗い教室の中で荒い息を交わし合いながら、肉欲のままに行われる性行為。

 しばらくして。矢部は頭がくらくらしてきた。めまいがする。やがて性欲を上回るほどの激しい頭痛がしてきて、身体を支えることが難しくなってきた。
 仰向けに寝転がる変態の上に思わず倒れ込んでしまう。矢部の背を、冷たい手が優しく撫でる。

「もう疲れちゃったかな? よしよし、よしよし……」
「…………」
「寝る前にお話をしてあげよう。何で私がこんなことをしていると思う?」

 鈴のような声が聞こえてくる。矢部は今にも眠ってしまいそうな意識の中で、頭に疑問符を浮かべる。

「脅されて好き勝手される人への被害を未然に防ぐというのは正しい行いだ。それを非難する人はいないだろう。正しければ何をやってもいいんだよ……悪い奴には、何をしてもいいんだ……」

 ふう、と息が耳に吹きかけられた。甘く生臭い匂いがする。それは遠い昔、まだ生まれる前の事。水に満たされた暗い所で嗅いだもの。
 意識はどんどん遠のいていくのに、性器は衰えを知らない。仰向けに寝転がった矢部。力が入らない手足。それなのに、そそり立つようにして天を仰ぐ性器。
 くちゅ、と変態がお尻に手を伸ばして拡げた。そして、しゃがんで性器を飲み込んだ。ぬぷぬぷぬぷっ、と性器が柔らかで温かい襞にねぶられていく。
 何してるんだよ。もう言葉も出なかった。心臓の音がやけに大きく聞こえる。耳元で囁かれる甘い声。


「私は人間の生気を主食としている生き物だ。主に精液から摂取しているんだが、精液は量が少ないからすぐにお腹が減ってしまう……もっとお腹いっぱいになるためにはどうしたらいいと思う?」



- ナノ -