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花宮真に胸ぐらを掴まれたまま、不穏な沈黙が流れる。

「そろそろ離してくれない?長いことアンタの眉毛見続けるのもキツイものがあるんだけど」

「その前に質問に答えろよ。てめぇ何考えてウチの部に入ってきた」

「…」


「今までマネージャーになった奴らは俺たちのプレイ見たらこぞって顔真っ青にして会場飛び出して二度と部活に顔出さなかったんだよ。だがてめーは違う。初見でも眉一つ動かさねえどころかそのまま居座ってやがる」

そう言って花宮真はさらに顔を近付けてきた。こいつわざとか?不愉快極まりなさすぎるので目を限界まで花宮真から逸らす。

「今みてぇに置き物マネージャーやってるだけだったら何も言わねえ…が、ちょっとでも変な動きしたらすぐ追い出すからな」

おおかたさっきの2軍と私の会話を聞いて怪しんだんだろう。バカが、お前らのプレイに口出しなんて面倒なことしない。お前らを利用するためだけに私はこの場所にいるんだから。

牽制の言葉を吐き捨てるやいなや、胸ぐらから手を勢いよく離す花宮真。反動で少しよろけてしまう。レディーの扱いも知らないなんて、ホント名前とは正反対のクソヤローだな。
言うだけ言った後は、こちらの方を一瞬たりとも見ずにこの場を去ろうとする花宮真の背中に、私は声を掛けた。

「ウィンターカップ予選の決勝の場に居たいからマネージャーになった」

「…あ?」

「質問に答えろって言ったのに答え聞かないでどっか行っちゃいそうだったから答えてあげた」

恩着せがましい私の口ぶりに苛立ったのだろう、花宮真は眉をピクリと動かせる。だが、「ウィンターカップ」という言葉に反応したのか、再びこちらに身体を向けた。

「バスケの初心者かと思ったらウィンターカップなんて単語知ってたのか。そもそも決勝にまで勝ち上がるかまだ決まってねーじゃねえか」

「勝ち上がる。私は試合結果も知ってる。」

「ふはっ、何言ってんだお前。頭ん中ババロアでも詰まってんのか」

あ、このセリフ花宮真が使ってたやつなんだ。トリビアだな。
それにしてもいい加減こいつの上から目線の言い回しにもうんざりしてきた。まるでこちらの発言を信じていない口ぶりもムカつく(まあ、普通は信じないだろうが)。もう試合結果言ってやろうか。別にルール違反とかじゃないよね?やすやすと受け入れたりはしないだろうが、ビビらせることくらいはできるはずだ。
私は何度も読み返した決着のシーンを思い出し、一気に言い切るため息を吸う。

「霧崎第一高校対誠凛高校。スコアは70対ーーー」

「おーい、花宮まだこんなとこいたのかよ」

私の渾身のネタバレは、ものぐさそうな声にかき消された。

「…原」

漫画みたいなタイミングで現れたガムに、何事もなかったかのように反応した花宮真だが、その拳は強く握り締められていた。
拳は語っていた。「てめぇ、なぜその高校の名前を知ってる。」

ふはっ。だから知ってるって言ったじゃん、ざまぁ見やがれ。

「まだ着替えてねぇの?もうみんな着替え終わっ…て、あり?マネージャーじゃん。何、そういう仲ですか?オレ邪魔しちゃったかな?」

「ないから。もう帰るからガムあんたこいつ見ててあげなよ。相当ショック受けてるみたいだから」

「ガムってオレのこと!?てか、花宮何かあったん?」

「何もねぇよ。行くぞ」

「…花宮真」

更衣室へ向かおうとする花宮真を再び引き止める。花宮真は今度は立ち止まらなかった。そして、私の言葉を遮るように更衣室のドアは大きな音を立てて閉まる。



「ウィンターカップ予選の決勝まで、ちゃんと連れてってよね」


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