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バッシュのスキール音が鳴り響く体育館で、練習をしている野郎共を腕を組んで眺める。
霧崎バスケ部は、つい最近までマネージャーが存在しなかったため(理由はお察しください)、自分の身の回りのことはある程度自分でするという風潮が出来上がっていた。
そのため部活中はドリンクを配ったりなどの雑務をせずに済むので、暇を持て余すことが多い。奴らのためにせこせこと働かなくて済むことだけは感謝してやらなくもない。
というか部活後も、部員が後片付けをしているのを適当に手伝うだけなので、正直私は必要ないと思う。
それでも私がマネージャーという役回りをさせてもらえているのは、どの部員も私のことを要らないとすら思っていないということだろう。
私も予選が終わって黒バスのキャラを目にすることができればすぐにマネージャーなど辞めるつもりなので大して気にもしていない。むしろ必要以上に馴れ合ってこないのでありがたいぐらいだ。

汗を流してメニューをこなす部員をボーッと見つめていたら、なんだか面白くなってきてしまった。
こんなに頑張っていてもこいつらはウインターカップにも行けず、予選で無様に散っていく運命なのだから。自業自得だから情など湧くわけがない。

そうこうしているうちに部活も終わったらしく、雑用を担当させられている2軍の部員たちが後片付けを始めていた。形だけでも手伝っているふりをしようと、手近にあるボールを1つだけ拾ってボール入れがある倉庫に向かう。
ーと、目の前でモップがけをしている部員二人の会話が聞こえてきた。

「あーあ、こんな部活じゃ上がるモチベーションも上がんねーよなあ」

「マジマジ。仲間意識ねーし、試合じゃラフプレー連発するし。レギュラーになったって選手潰し強要させられるんだろ?そんなんだったら2軍で適当にバスケやっている方がマシだわ」

ここまで話したところで、背後の気配に気づいたのか一人が振り返った。

「わ、蒼井!!」

「…お疲れ様」

「蒼井、今の話聞いてた!?」

「聞いてた。でも誰にも言ったりしないから」

私の興味のなさそうな口ぶりにホッとしたのか、部員も緊張の面持ちを緩ませる。

「でもさー、蒼井も思うだろ?花宮とかマジ外道じゃね?キャプテンだかで調子こいてるけど本当に実力あんのかよ」

「疑わしいよなー。ラフプレーとったらゴミだったりして。蒼井、どう思う?」

「まあ…概ね同意だけど」

1軍は、2軍の育成にもっと力を入れるべきだと思う。
チームメイトの実力も推し量ることのできない部員がいるんじゃ話にならない。
私は、ボールを倉庫のカゴに投げ入れた。ガシャン、と金具とボールがぶつかり合う音が体育館に響く。

「花宮真のやり方が気に入らないならあなたの言う実力で捩じ伏せればいいのに、なぜそれをしないの?」

まさか私の口から花宮真を擁護するような発言が飛び出すとは思ってもいなかったのか、二人の部員はいきなり狼狽え出す。
たとえ花宮真がいなくともこいつらは万年補欠だろう。実力の無い奴ほど大言壮語を吐きたがる。
原作に出てきもしないモブキャラに構うのもいい加減面倒なので、体育館の鍵だけそいつらに渡してその場を後にした。


体育館を出ると、今一番見たくない、いや、いついかなる時も目にするのは御免被りたい人物が壁にもたれかかっていた。
腕を組んでうつむいていたそいつは、扉の開閉音を聞いてゆっくりと頭をもたげた。
そのウンコみたいな眉毛を一蔑すると、「お疲れ様」とも言わずそいつの目の前を通り過ぎようとする私。我ながらめちゃくちゃ感じ悪いと思う。

「オイ」

だが、花宮真の不快な声が私の足を止めた。明らかな私に対する呼び掛けを完全にスルーできるほど肝が据わっている訳ではないので、顔だけ花宮真の方へ向ける。しかし素直に話を聞いてあげるほど人間出来てもいない。
精一杯の不快感を顕にするよう表情筋に命令した。

「ふはっ、嫌悪感丸出しじゃねぇか」

「…仮面はいいの」

「本性バレてる奴に見せる笑顔なんざ持ち合わせてねぇよ。…それより」

気色の悪い笑い声を発した直後、花宮真は不意に私と距離を詰め、あろうことか胸ぐらを掴み、私を睨みつけた。

「蒼井、テメェどういうつもりだ」

お前こそどういうつもりだ。そのブサイクなツラを至近距離で見せられている身にもなれ。
吐き気を紛らわせようと、花宮真の眉毛をじっくり観察する。
あ、これ自眉だったのか。



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