忘れたいことだらけ

まだ入学したばかりで学校生活にも馴染めてないだろう時期に、教室で優雅におしるこを…?しかもなんでおしるこチョイス…?

「おじいちゃんみたい…」

心の声が無意識に出てしまっていたようで、征十郎に肘で小突かれた。征十郎はそのままカバンからタオルを取り出し、おしるこ臭漂う横顔に文言を投げかけた。

「良かったら、どうぞ」

おしるこ眼鏡くんは差し出されたタオルに視線だけを遣り、フン、と鼻で息をして自分のポケットから取り出したハンカチで机の上を拭きだした。
態度、悪っ…!!
征十郎の優しさを仇で返すこれみよがしの行動にイラッときた私は無愛想な隣の男に食ってかかる。

「ちょっとおじいちゃん!せっかく征十郎が心配してくれたのにその態度はなんなわけ!?」

「…!?おじいちゃんとは何なのだよ!!」

「…っ!おじいちゃんじゃん、朝からおしるこなんか飲んで!ハンカチ持ってるからいいよぐらい言えないの!?」

「何ィ!!」

予想外にも返ってきた反応に驚きつつも、怯まず追撃する。征十郎はやれやれと頭を抱えてはいるが、止めるつもりはないらしい。少なからず眼鏡くんの態度に彼も引っ掛かりを感じていたようだ。

「大体オレがおしるこをこぼしたのは貴様らがギャーギャーやかましくて腹立たしかったせいなのだよ」

「何それ人のせい?!」

だんだんとヒートアップしていく私と眼鏡くんの攻防に、やっと征十郎は口を挟んできた。椅子から立ち上がりかけていた私を左手で制し、眼鏡くんに目を向ける。

「すまないな、公の場なのに大きな声で騒いでいた俺たちが悪かった。翠…この子にも悪気はないので気を悪くしないでほしい」

「…こちらこそ厳しく当たって悪かったのだよ。おしるこはオレの好物だったものでな」

私と違って征十郎は話が分かると踏んだのか、眼鏡くんも物腰が柔らかくなる。未だ鼻息を荒くしている私には冷たい目を向けてくるが。

「席が近いよしみだ、仲良くしよう。俺は赤司征十郎」

「…緑間真太郎だ」

「緑の髪の毛の人が緑間って!!!」

「翠、さすがに失礼だぞ。それにその言葉は俺の前で言うことじゃない」

眼鏡くんの名前が判明した瞬間ケタケタと指をさして笑う私を、征十郎が咎める。緑間くんと名乗る隣の席の男の子は私の言葉にピキピキと青筋を立てていたが、さっきみたいに突っかかってくることはなかった。私よりよっぽど大人だ。

「それより赤司、先ほどバスケ部がどうのなどと聞こえたが」

「ああ、バスケ部に入部するんだ。…まさか君も?」

「オレもそのつもりだ」

へぇ、身長高いもんねぇ。共通の話題を見つけて盛り上がる二人を机に肘をつきながら見つめる。楽しそうに会話している征十郎を見て私も嬉しくなり、ふふふと笑いをこぼしながら窓から見える青い空に目を向けた。
中学に入って不安もあったけど、征十郎と同じクラスで隣には悪い人じゃなさそうな男の子もいて。楽しい中学生活が送れそうだ。

チャイムが鳴った途端会話を中断させる真面目な二人に多少おののきつつも、再び後ろを振り返り征十郎に話し掛ける。

「征十郎、征十郎!」

「何だい、翠。チャイム鳴ったんだから前向きなよ」

「忘れられない中学生活にしようね!!」

私の、バカっぽいとよくお母さんに称される笑顔を見て、征十郎も柔らかく笑って頷いた。



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