シーソーゲームに勝ったのは
「帝光中はバスケ部の強豪校らしい」という征十郎の言葉と、「後ろの男の子めちゃくちゃかっこよくない?」という女生徒の言葉を頭の中で並べる。それに加えて、頭もよくて優しくてなんでもできる征十郎、という私の中の征十郎基礎知識も横に連ねた。
なんでもできる征十郎が実は顔もかっこよくて、その上バスケ部なんて花形スポーツ部に入っちゃったら、ただの完璧人間じゃないか。今までこんなどうしようもない私の相手をしてくれていただけでも奇跡なのに、そんな、スーパーヒーローよりも素敵な存在になっちゃったら…私、今度こそ置いてかれてしまう。
「わ、私もバスケ部に入る!」
そんなの嫌だ。私がお荷物に思われて離れて行ってしまうのなんて辛すぎる。
「…は?」
「バスケ部のマネージャーになる!!」
ならば、私が征十郎を助けてあげられるようにならなければ。
「…駄目だ」
「えぇっ!?」
校舎の階段を上がって、教室の扉を開ける。小学校とは違う校舎の造りに、まだ違和感を覚える。
征十郎と一緒に教室に入ると、入口近くの席でお喋りをしていた女の子の一人が挨拶をしてくれた。入学式の時に隣の席だった子だ。
「おはよう、蒼井さん」
「おはよう!」
ほら征十郎も、とそのまま教室の奥に進もうとしている暗い男を引き止めると、素直に従って女の子におはよう、と言った。さっき私に元気よく挨拶してくれていた女の子は頬を染めてしどろもどろに赤司くんおはよう…と返していた。
その反応に一人ぎょっとするが、周りを見渡すと女生徒の大半が征十郎を見て目を輝かせるなりヒソヒソと近くの女生徒と話をしたりしている。
マジか。友達できないどころか早くも人気者になりかけている…!
征十郎は凄い男の子なんだよー、と、人気者予備軍の彼と旧知の仲だという優越感。それとそんな男の子の隣にまとわりついている私は何にもできない凡人なんだ、という劣等感が私の中でひしめき合っていた。
うう、やっぱり私征十郎の隣に立つのに相応しい女の子になりたい。さっきはなぜか即答で却下されたけど、バスケ部のマネージャーとして征十郎をサポートしたいよ。
入学した日に自由に着いた席に皆座っているようだ。私は征十郎の前の席に着くなり身体を後ろに向けて、征十郎の机に前のめりになった。
「ねえ、やっぱりバスケ部のマネージャーやりたいよ」
「駄目だね」
「なんでよ!!」
二度目の却下の言葉に、悲鳴を上げる私。そもそもマネージャーになるのに征十郎の許可がいるのかという話だが、やはり彼に許しを得て、頼りにされているという確信を得てから任務に臨みたいのだ。
「君はドジな上に頭の出来も良くないから周りを支える仕事は向いてないよ。自分のことで精一杯な翠にマネージャーは無理だ」
征十郎まで私のことポンコツ扱いかよ!!ひどい、やくたたずって言われてるみたい。征十郎の歯に衣着せぬ物言いにうるると涙目になる。そんな私を見て、征十郎は焦ったように付け加えた。
「落ち着いて。入部して欲しくないって言ってるわけじゃない。翠が入部してくれると俺ももっと頑張ろうと思えると思う。」
「じゃあいいじゃん!!頑張って欲しいから入部する!!」
「でも、そのために翠が骨を折る必要はないってことなんだ。俺は翠がいてくれるだけでいい。分かるかい?」
「征十郎…」
いつものように優しく言うことを聞かせる征十郎。言いくるめられた感がないわけでもないが、納得することはできた。私は征十郎の傍に居れるだけで役に立てているんだ。じゃあ、これから先もずっと征十郎の傍にいよう。
「分かったよ。陰ながら応援する」
その言葉に征十郎が笑って私の頭を撫でた時、隣でメキッという教室に響くには不相応な音がした。私と征十郎二人して音がした方に顔を向けると、無残にも変形した缶ジュースを手にわなわなと震えている男子生徒が居た。
「え、だ、大丈夫…?」
背が高いから力も強いんだろう、加減が効かなくて潰しちゃったのかな。心配になり未だ固まったままの眼鏡くんに声を掛ける。
ふと机の上に飛び散っている缶ジュースの中身に目を向ける。どす黒い液体の中に、黒いつぶつぶが浮いていた。
お、おしるこだ…!!
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