第2章 D〜Truffatori〜

 


「困ったな……」
 歌音がそっと呟いた。別にそこまで深刻になるほど大した問題ではないといえばないのだが……。
 どうやらこの先“全員同じ部屋で寝泊りしなければならない”ようなのである。
 この世界の宿は一人部屋や二人部屋などの個室というものは滅多になく、大部屋(一番小さい部屋でも5人用から)が主らしい。
 この世界には人間を脅かすツィーネという存在のせいで、旅に出る者は滅多におらず、宿を使う一般市民がいないからだそうだ。宿を主に利用するのは、国から派遣された軍隊や防衛隊、それ以外となると商人や旅芸人など団体で個人利用はほぼないとのこと。その為、この世界の宿はそのような造りになっているらしい。一般市民が何処かへ泊まる時は、知り合いの家に泊まるのだそう。
 つまり男子8人の中に女子1人が一緒の部屋。学校の頭の固い年寄りの教師にでも知られたら“不純異性交遊”だのなんだのと言われ、大目玉を喰らいそうな話だ。幸いここは異世界なので知られようもないし、事情が事情だし、別に不純な事は何もない……ハズなので、それは何も問題はないだろう。
 だが、一応歌音も年頃の女の子であるので、恥じらいもある。
「……ま、仕方がないか」
 悩んでいても何も変わらないし、モンスターや虫が出るこの世界で1人きりになるのも怖いため歌音は諦めた。……諦めたことを歌音は翌日ちょっと後悔するのだが、それはまた別の機会で話すとしよう。

 そして、夜──
 宿屋の外では月の光が辺り一面を青白く照らしていた。
 そんな幻想的な風景の中を1組の男女が向かい合って立っている。
「歌音さん……」
「小春ちゃん…」
(ってなんでこの組み合わせやねんっ!)
(うっさいわ、お前。見付かったらどないすんねん!)
 そして、そんな男女2人を影からそっと覗き見……いや、見守る男が2人。
(うわっ?!ユウジ、なんでお前ここにおんねん?!)
(小春を追ってきたに決まっとるやろ)
(……さよか)
(そーゆーお前は、歌音のあとをコッソリつけてきたんやろ?)
(人をストーカーみたく言うなっ!……夜に女の子が一人で外へ出てったりしたら危ないやん。何かあったら困るし……)
 心配性の謙也は思わず後を追ってきてしまったのだ。そして“ヘタレ”故に声をかけられないまま今に至る。
(……ヘタレヘタレうっさいっちゅーねん)
(え?何か言うたか?)
(いや、何も。……なぁ、あの2人は一体何話しとるんや?)
 2人は、小春と歌音の話に耳を傾けた。
「小春ちゃん、話って何?」
「イヤン、歌音さんったらトボけちゃってぇ。普通合宿とか修学旅行とかでの、女の子の夜の定番っていったら“アレ”しかやん〜」
「……枕投げ?」
「ちゃいまーすぅっ!!」
 確かに枕投げも定番ではあるが、小春が言いたいのは
「枕投げは男の子の定番!!女の子といえば“恋・バ・ナ”やろ?」
 恋バナ……恋の話というより、恋の暴露大会といった方が近いかもしれない。
「……恋バナか」
 あまり興味なさそうな歌音。
「小春ちゃん好きな人いるの?」
 それでも一応聞いてみると
「アタシ?そうねぇ……ケンヤ君も千歳君も蔵リンも財前ちゃんもみんなステキだから困っちゃう〜。みんな素敵よね?」
ハートを飛ばし、体をくねくねさせながら答える小春。ユウジの名前が出てこないのが酷い。影でユウジがしょげている。
「……そ、そうだね」
 歌音はちょっと反応に困りながらも同意した。
「で、歌音さんは?」
「私?」
「好きな人、おるん?」
 話が本題になり、影で盗聴している2人は思わずごくりと唾を飲み込んだ。
「相手が誰であろうとこのアタシ、“恋のキューピット小春ちゃん”が協力するわよ!」
任せときっ!と小春は自分の胸を叩いた。
「誰だったとしても協力してくれるの?」
 歌音が問うと小春は「勿論でっせ〜!」と親指を立てる。
「……ユウジでも?」
 恐ろしいほどの沈黙が続いた後、小春が口を開いた。
「……歌音さん、本気なん?」
「本気だと言ったら?」
 歌音はそう言って小春の目を真直ぐ見据えた。
 影にいる2人は突然の歌音の台詞に思考が完全に停止し、凍りついたように微動だにしない。
 すると……
「こ、小春ちゃん?!」
 小春がニマニマと顔中に笑みを浮かべ出した。とっても嬉しそうに。
「歌音さんホンマにユウくんが好きなん?!」
 そして勢い込んで歌音に迫った。
「え、なんでそんなに嬉しそうなの?!」
 予想外の小春の反応に、逆に歌音の方が驚いてあたふたしている。そんな歌音を小春は優しい眼差しで見ていたが、ふいに真顔に戻ると言った。
「でも……歌音さんの好きな人、ホンマはユウくんとちゃいますよね?」
「うん、ごめん。小春ちゃんがどんな反応するか見たかっただけ」
 やっぱりなぁと苦笑いする小春を見て歌音は、少々悪ふざけが過ぎてしまったと反省した。
「ごめんなさい……」
 素直に謝る歌音に小春は「謝らんといて〜」と笑顔で返し、
「……歌音さんの好きな人が本当にユウくんだったら良かったんだけど…」
 と小声で付け足した。
「え?なんて言ったの?」
「いいえ、なんでも。……で、歌音さんがホンマに好きな人は誰なんです?レギュラー陣の中におるん?」
 改めて小春が訊くと歌音は「いない」と答えた。
「みんなのことは好きだよ。でも……恋愛感情ってよくわからないんだよね」
 かといって、テニス部以外の男性とはそもそも関わる機会が少ない。一番歌音に近い男性陣となると、やはりテニス部……更にいうとレギュラー陣なのだろう。
「でも丁度今こないな状況やし、もしかしたらこの先ふとしたきっかけで、恋に落ちるなんて事もあるんやない?」
「そう……だね。もしかしたらあるかもしれない」
 歌音が戸惑いながらも頷くと「その時は協力するからアタシに絶対教えること」と小春に約束させられてしまった。

 歌音が先に部屋へと戻った後、
「……もう出てきてもええで、お2人さん?」
 小春が声をかけると、茂みから謙也とユウジが出てきた。
 先程、歌音がユウジを好きということが嘘だとわかった瞬間、2人共それぞれ別の意味で気が抜けてしばらく放心していたらしい。
「小春、いつから気付いとったん?」
「始めからやで。歌音さんは気付いとらんみたいやったけど、盗み聞きはアカンで〜」
 2人は罰の悪そうな顔をして俯いた。
「聞いとったと思うけど、歌音さん今好きな人おらんみたいやから、今がチャンスよ2人共!」
 ああいう子にはとにかく押して押して押しまくりなさい!!とアドバイスする小春に謙也は
「それが出来るなら苦労せんわ!」
 と溜め息をつき、ユウジは「俺は小春一筋や!!」と返し小春にスルーされたのだった……。


 ◇ ◇ ◇

 翌朝、色々ハプニングが続き一騒動あったが、突然の訪問者によりそれは中断された。
「朝早く申し訳ありません」
 部屋の外からドアをノックする音と人の声が聞こえてきた。
「……一体誰や?」
ドアの一番近くにいた白石が覗き窓から相手を確認すると
「あれは柳生クン……いや、ローシやったっけ?」
 なんだかややこしいが、昨日のジェントルマン、ローシがやってきたようだ。
「昨日の紳士さんが何の用ね?」
「まさか、また王宮に来いとかは言わへんよな?」
 心なしか顔が青褪める謙也。
「もしそうなら今度は謙也さん一人で行って下さいね」
「絶対嫌や!旅は道連れ世は情けや!」
 財前に冷たくされ噛みつくように答える謙也。イチイチ本気で相手にしなくてもいいだろうに。
「どうでもいいけど、とりあえず彼を中に入れてあげよう?」
「せやな」
 歌音がごもっともな事を言い白石もそれに頷くと、ドアを開けた。
「ど、どうでもいいって……」
 謙也1人、歌音の悪気なく放った一言にショックを受け沈んでいたのだった。

「では、ローシさんはセーイ王子に頼まれてこちらにいらっしゃったのですか?」
 歌音が聞いた。ローシにつられて歌音まで丁寧な口調になっている。
「えぇ。これを貴女にお渡しするようにと頼まれましてね」
 そう言ってローシは細長い箱を歌音に手渡そうとしたが
「……私に?」
 歌音は受け取るのを躊躇った。
「どうかされましたか?」
「……これ、本当に受け取っても大丈夫ですか?」
「セーイ王子から直々に渡された物ですから、御心配なさらなくても大丈夫ですよ」
 ローシは微笑んで言ったが、次の瞬間
「いや、それが一番不安なんやけど!」
 全員のツッコミが綺麗にハモったので、目をパチクリさせた。
「……はぁ」
 ローシも何と言ったらいいのかわからないらしく困っている。
「この中身は昨日の夜に急遽専属の職人に作らせた、歌音さん専用の武器です。危険なものは何もありません」
 とローシは言うが
「専属の職人?信用出来るんか?」
「あのセーイとかっちゅー王子の専属なんやろ?武器に発信機でも付いてんとちゃいます?」
「あの王子ならやりそうばいね」
 どうやら皆、昨日の一件のせいでセーイの事を相当警戒しているようだ。歌音も不気味そうに箱を見つめている。
「武器職人の彼……ジャックはそのような方ではありませんので御安心下さい。彼はとても真面目な方ですよ」
 ローシがそう言ってもまだ躊躇している歌音達。するとローシは
「……歌音さん、私の事が信じられませんか?」
「えっ?」
 そう、歌音の目を見つめながら言った。
「あ……その、えっと……」
 歌音が言葉に詰まっていると
「……それも当たり前ですよね。昨日出会ったばかりの者を信じろって言っても無理な話ですし……」
 ローシは淋しげな笑顔を浮かべると、歌音から目線を外した。
「えっごめんなさい、信じます!セーイは信じられないけどローシさんの仰る事なら信じます!ですからそんな顔しないで下さい」
 そんなローシに、歌音は大慌てで言った。
「ちょ……先輩、正気っスか?」
「せや、爆発でもしたらどないするん?なぁ、銀」
「ケンヤ……さすがに爆発はせんと思うで」
 当然ながら他の者達は反対したが
「正直セーイのことは信用出来ないけど、ローシさんの事なら信用してもいいかなって。流石に変なものを贈ってはこないと思うし……」
 と歌音が言うと、渋々引き下がった。
「歌音さん……ありがとうございます」
 ローシは微笑んだ。
「…………じぃ」
「どないしたん?ユウくん」
 先程から黙り込んでローシをじぃっと観察するように見ているユウジ。小春がそんなユウジの様子に気付きそっと声をかけた。
「……まさかあいつ」
 ぼそりと呟くユウジ。
「え?」
「どんな武器なんだろ、私に扱えるかな?」
歌音が箱を開けようと装飾のリボンに手を伸ばそうとした時、
「待ちや、歌音!!」
 ユウジがその手を咄嗟に掴んで止めた。皆、突然のユウジの行動に驚き、彼の方を見る。
「……ユウジ?」
「あっスマン、痛かったか?」
 ユウジは自分が歌音の手を掴んだままだった事に気付くと、慌ててその手を離した。
「ううん、平気だけど……一体どうしたの?」
 ユウジは歌音の問いかけには答えず、鋭い目でローシを睨みつけた。歌音達は訳が分からず、顔を見合わせた。
「ど、どうされたのですか?」
 睨みつけられているローシも、困惑した表情をしている。ユウジは、歌音をかばうように自分の後ろへ移動させると、ローシを見据えて言った。      
「……なぁ、お前誰や?」
「おいユウジ、昨日会うたばかりやん!?」
「せや、ワイだって覚えとるで?」
「一体どーゆー意味ね?」
ユウジの放った言葉に戸惑う一同。
「……昨日お会いした時に名は申し上げた筈ですが。私はユッキーラ王国防衛隊、総取締役のローシと申します」
 そう言いユウジへ手を差し出すローシ。しかしユウジはその手を取ろうとしない。
「お前がローシやっちゅーなら、昨日俺らを迎えに来たあの眼鏡の男は誰や?」
「……何を言っているのですか?」
 眉を顰めるローシ。
「ユウジ、昨日のローシさんと、今目の前にいるこのローシさんは“別人”だってこと?」
「……あぁ」
「んなアホな……」
 謙也が呟く。全員の視線がローシへ注がれた。
「そんな疑いをかけられましても、困りましたね。何を根拠に言っているんですか?」
 苦笑いするローシ。
「あくまで白を切り通すつもりなんやな。それなら……」
 そこまで言うと、ユウジは懐に隠し持っていたナイフをシュッとローシへ向かって投げつけた。
「っ?!」
 ローシは寸での所で剣を抜くとナイフを叩き落した。
「ちょ、ユウジ?!お前何し──って白石っ?」
 ユウジの突飛な行動に焦って飛び出そうとした謙也を、白石が止めた。
「なんで止めるん──え?」
 謙也は目の前に広がる景を凝視した。
「ちょ、お前らなんで武器なんか……」
 謙也以外は皆、個々の武器を構え、ローシへ向けて戦闘体勢をとっていたのだ。
「謙也、気ぃつけや。ユウジの言う通りこの男は別人やで」
「えっ、白石何言うてるんや?」
「そいつ、左利きや。昨日の兄ちゃんは右利きやったで」
 金太郎に言われ、謙也もハッとなった。
 昨日、彼らを迎えにきたローシは剣を右手に持っていたが、目の前のこの男は、剣を左手に構えていた急な事に対応出来ず、つい利き手で剣を構えてしまったのだろう。
「こいつが魔族っちゅー奴っスか?」
「えっ何、魔族って他人に化けることも出来るの?」
 歌音が素っ頓狂な声をあげる。
「どうやら、そうみたいばい……」
「……俺は魔族じゃなかよ」
「え?」
 独特の口調で歌音の問いに答えたのは、なんと目の前の男、偽ローシだった。
「セーイが言った通りじゃ。この俺の変装を見破るとは、お前さん達なかなかやるのぅ」
 そう言うと、男は茶色の鬘と眼鏡を外した。
「──あーっ!」
 その変装の下から現れたものは、銀色の髪(尻尾付き)・切れ長の目……整ったその顔は、金太郎以外にはとても見覚えのあるものだった。
「あ、そういえば、私達の世界にいる“あの人”も変な異名持ってたよね」
──“詐欺師”
「ピヨッ」
 見事に騙された一同だが、目の前の詐欺師に怒気まで吸いとられてしまったのか、知っている顔だったこともあり多少安心したのか、怒鳴る事もせずただ深い溜め息をついた。
「で、結局貴方は誰なんですか?」
 歌音の問いにその男はニヤリと笑った。
「なんじゃ、お前さん俺に興味持ったんか?」
「尻尾ちょん切っていい?」
「……怖いのぅ。 俺はユッキーラ王国戦闘部隊総取締役のハルじゃ」
「戦闘部隊の総取締役が、ウチらに何の用ね?」
「セーイからの命令でソレを届けに。ローシは仕事で来れんから、俺が変わりに来ただけじゃ。それと、個人的に用もあったしのぅ」
“ソレ”とハルが指差した物は先程、歌音が開けようとしてユウジに止められた箱である。
「じゃあなんで変装なんかしてたんスか?」
 財前が聞くと、ハルは笑ってこう答えた。
「変装は……ただの趣味じゃ」
「趣味かいっ!」
 こんな時でもツッコミを忘れない謙也だった。急に知らない相手が訪ねてきても警戒されるため、ローシの恰好で訪問したらしい。……逆効果だったが。
「ねぇハル、これ本当の中身は何なの?」
 歌音は再び箱を手にとるとハルに尋ねた。ローシ相手には丁寧語を喋っていた歌音だったが、ハルには普通にタメ口らしい。
「あぁそれは本当に武器じゃよ。セーイがお前さん用に昨晩作らせた。貸しんしゃい」
 ハルはそう言うと、歌音の手から箱を取ると中身を取り出し、何やら組み立て始めた。
「ほら、出来たぜよ」
 そう言いハルが差し出したものは……
「ステッキ……?」
 長さ1メートル弱のステッキだった。
「なんか攻撃力低そうっスね。防御力もあんまなさそうやし」
 財前の言う通り、ステッキ一本で戦闘力が上がるとは思えない。一体、セーイは何のために歌音にステッキなんて贈ったのだろうか?
「それは、ただのステッキじゃないぜよ。真ん中、捻ってみんしゃい」
「真ん中?……えぃっ」
 言われた通りに捻ってみると、ガシャッと音がしてステッキが二つに分かれた。
「まっ真っ二つに折れた?!」
 謙也が目を見開く。
「一応鎖で繋がってますけど、それってヌンチャクっスか?」
 なんとステッキは真ん中を捻るとヌンチャクと変身する仕組みらしい。
「それだけじゃないぜよ。ヌンチャクの片方は吹き矢になっちょる」
「吹き矢?毒でも仕込んであるの?」
「いや、それはモンスター用じゃない。“痴漢撃退用”にセーイが着けさせた麻酔針じゃ」
 セーイから伝言があり“狼に襲われそうになったら速攻でそれを吹くんだよ。わかった?”だそうだ。セーイの言う狼とは、言うまでもなくここにいる男子達の事だろう。
 実は麻酔やなくて毒でも仕込んであるんとちゃうか?と歌音以外の者達は思った。
 そして歌音はというと……
「へぇ、すごい……見た目より軽いんだね」
 感心しながらステッキヌンチャクを眺めていたが
「気に入ったか?」
 ハルに聞かれると
「うん。でもいらない」
 歌音はきっぱり断った。予想外の返答にその場にいた全員がズルッとこける。
「お前、ソレ気に入ったんとちゃうん?」
 謙也が訊いた。
「悪くはないんだけど……」
「何か気になることでもあるん?」
「……あの王子がタダでこんな凄いものくれるとは思わないんだよね。何か裏がありそうで怖い」
 歌音の言葉に確かになと全員が同意する。全く信用されていないセーイ。
「裏はない……と思うぜよ」
 ハルの返答も何処か頼りないのは気のせいだろうか。
「それは参謀……レンがセーイに言ってジャックに作らせたものじゃ。妙なものはついとらんよ」
 ジャックとは、先程ローシに化けたハルも言っていたが、王宮専属の武器職人の名前である。
「何のために?」
 白石が訊く。
「歌音、お前さんの武器ってそのブーツだけじゃろ?」
 こくんと歌音が頷く。
「それだけじゃ危険じゃ、手にも1つ武器を持っていた方がいいとレンが言ってな。お前さんのデータを考慮したうえで一番扱いやすそうな武器をジャックに急遽徹夜で作らせたらしいぜよ」
 ……気の毒なジャック。というか、それ以前にレンはいつ歌音のデータをとったのだろうか。
「なんでそこまでしてくれるの?」
 裏がないのなら尚更、自分にそこまでする必要性がわからない。
「お前さん達は、大事な勇者様と守護者様じゃからのぅ」
「守護者?」
 また新しく聞く単語に、全員の頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。勇者が謙也だという事は昨日の説明でわかっているが、守護者とは初耳だ。
「セーイから聞いとらんか? ツィーネを直接封印するのは召喚士と勇者。そして、その2人を支えサポートしながら共に戦闘するのが守護者じゃ」
「それが俺らやって事何でわかるんスか?」
「理由は2つあるぜよ。まず1つ目……守護者は、召喚士と勇者の2人と強い絆で結ばれている者。そして2つ目……守護者の人数は“8人”と決まっちょるからじゃ」
「確かにアタシ達はケンヤ君と深い愛で結ばれとるし、人数も丁度8人やけど……」
 小春が言った。“深い愛”の部分については、状況が状況なので誰もツッコまない。
「召喚士、勇者……そして8人の守護者。お前さん達はこの世界の救世主、つまり宝じゃ。欠けてもらっては困るナリ」
 だから、歌音に武器を贈ったのだという。
「……お前さんの為にもこの武器、貰ってくれんかのぅ」
「貰っとき、歌音」
 貰っとくべきか迷う歌音に白石が言った。
「……うん、わかった。じゃあ、有難く使わしてもらう」
「あぁ。……あ、これがレンが書いた取扱説明書じゃ」
 そう言ってハルが手渡してきたものは
「何これ。……辞書?」
 辞書と同じくらいの分厚さの本だった。
「……まぁ、暇で暇でしょうがない時にでも読みんしゃい」
 こうして、歌音の第二の武器が決まった──……。
  

 

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