第2章 E〜Dottor〜

 

 歌音の第二の武器が決まったのは良かったのだが……
「……なんでまだお前ココに居んねん」
「用件済んだならさっさと帰ってくれます?」
「まぁまぁそんな邪険にしなさんな」
 ユウジと財前に追い払われそうになってもハルは一向に帰る素振りを見せず、椅子に腰掛けて足を組んでくつろいでいる。
「さっき言ったじゃろ?個人的に用もあると」
 皆忘れていたが確かに先程ハルはそう言っていた。
「お前さん達“ドクター”は知っちょるか?」
「ドクター?……あ、昨日の武器屋の店主さんが言ってた」
「あのバーチャルルームを作った科学者の事っスか?」
「武器屋の店主さんによりますと、“ドクター”は様々発明品を作っては世に出しているんやけど、その姿を見た者はほぼ皆無。“ドクター”という名も人が勝手に呼んどるだけで、本名,年齢等は一切不明。全てが謎に包まれた、カゲのあるステキなお・と・こ」
 全て覚えているとは、さすがIQ200と言ってあげたいところなのだが……
「いや“カゲのある”とは言ってへんから」
「それ以前に男とも言ってなかよ」
 ついでにいうと、店主は素敵だとも言っていない。
「あぁーん、なんて素敵なの」
 小春は両手を頬にあて、クネクネと体を動かした。
「……キモ」
財前はそれを見てげんなりしている。
「小春、浮気か?死なすど!」
「ね、歌音さんもそう思いますよね?」
(ユウジを無視しよったー?!)
 小春はユウジをスルーすると歌音に同意を求めた。
「え?あ、うん。そうかもね。で、ドクターがどうしたの?」
 歌音は小春の問いを適当に受け流すと、ハルに聞いた。昨日の夜といい、何気に扱いが酷い気もする。小春はむぷーと頬を膨らませている。
「そのドクターからお前さん達……勇者様と守護者様達に贈り物を預かっちょる。今朝早く、俺のところにドクターから速達で送られて来てな」
「ハルに?セーイにじゃなくて?」
「あぁ」
 そう言って、ハルは持ってきた袋の中から、今度は立方形の箱を取り出した。
「ゲッ……また箱?」
 財前は露骨に嫌そうな顔をした。
「ねぇ、ハルとドクターって一体どんな関係?」
 歌音が聞くと、ハルは箱を開けようとしていた手を顎にやって、考えた。
「ん〜……ようわからんが、強いて言うなら“友達”かのぅ」
「友達?!」
“友達”という言葉に全員がぎょっとした。
 ハルの友達ということは、元の世界に存在する“立海のレギュラー陣の誰か”という可能性が高い。イコール要注意人物、という図式が歌音達の頭の中で出来上がっていた。
「なぁ財前。まだ会ってない奴って誰が居ったっけ?」
「えっと……ワカメとガムと禿の3人っスね」
「あの3人か……」
 皆(去年まで小学生だった金太郎は除く)、それだけで理解できたようだ。
「ねぇ、ハル」
「なんじゃ?」
「ドクターって、ワカメ頭?それともガム……甘い物をいつも食べてる赤毛?それともスキンヘッド?」
 ガムと言いかけたが、この世界にガムがあるかわからなかったので言い換えてハルに訊いた。すると、ハルはこう答えた。
「知らん」
「は?」
 ハルの返答にぽかんと口を開ける一同。
「知らないって……今ドクターと友達って言わなかった?」
「友達は友達じゃが、俺とドクターは“文友”じゃけん。直接会ったことはないからわからんぜよ」
ハルが言った。
「フミトモ?何ねそれ」
「ふみ……文通友達って事かしら?」
「その通りじゃ」
小春の言葉にハルは頷いた。
「なんだ、ハルもドクターに会ったことないのか。会ってみたかったな」
 歌音が残念そうに呟く。
「期待に添えなくてすまんのぅ。あ、でも禿頭やワカメ頭、それから甘い物よう食っちょる赤毛の知り合いはおるぜよ」
(あ、やっぱおるんや……)
 その言葉に、歌音達は苦笑いした。そして、できればこの先彼らとかかわる機会がないことを祈った。これ以上の厄介ごとは御免蒙りたい。
「ま、ドクターには似ても似つかん知能の暴走馬達じゃよ」
 ハルは笑いながら、彼らが聞いたら怒りそうなことを言ってのけた。 そのドクターからの贈り物については、危険物だと困るため念のためハル自ら開けた。
「……なんじゃ、この物体は」
 そして中身を見た瞬間、ハルが開口一番に言ったのは、この台詞だった。一同はそんなハルの様子に首をかしげた。
「何が入ってたん?」
「コレ、じゃ」
 そう言って、ハルは中身をつまみ出して歌音達に見せた。
「“犬”のぬいぐるみ?むぞらしかねぇ」
「俺には“サル”に見えますけど?」
「この世界の動物はよう知らんけど、アレは多分“キツネザル”の一種やない?」
 なんと箱から出てきた物体はぬいぐるみだった。
「何で動物のぬいぐるみ?何の役にも立たへんやん!」
 謙也が思わずつっこんだ。ハルに首の後ろをつかまれて宙吊りになっているぬいぐるみの姿は、何処かハムスターに似ている。
「かっ、可愛い……」
 ちなみに歌音は可愛い物が好きだ。案の定歌音はそのキツネザルのぬいぐるみが気に入ったらしく、ハルから受け取ると抱きしめた。
「何これめっちゃ可愛い!なんかフワフワしてる」
 顔中に満面の笑みを浮かべてぬいぐるみを抱きしめる歌音。
 可愛いものが可愛いものを愛でる姿は癒しでしかない。皆ぬいぐるみにではなく、歌音の方に癒されていた。
 歌音はしばらく笑顔のままそのぬいぐるみを触っていたが
「ん?今これ動いたよう……な気のせい?」
 歌音は腕の中のぬいぐるみが動いたのを感じて、抱く力を緩めると、ぬいぐるみを見た。すると…
『ふぅ〜。やれやれ、やっと外に出られたぜ……』
「ひっ?!」
 歌音は小さく叫び声をあげると持っていたぬいぐるみを放り投げ、反射的に一番近くにいた人物にしがみついた。
「歌音どないしたん、虫でもおったんか?」
 突然悲鳴をあげた歌音を心配して白石が声をかける。
「……しゃ」
「しゃ?」
「喋ったの、動いたの。そのぬいぐるみ」
「は?」
 歌音が言うと他の者達は間抜けな顔をした。
「喋ったって……このぬいぐるみがか?」
 謙也の片手には先ほどのぬいぐるみ。歌音が放り投げた時ちょうどキャッチしたのが彼だったようだ。
『ぬいぐるみじゃねぇ、オレの名はコケ太郎だ!』
「ギャァーッ?!」
 するとぬいぐるみは再び言葉を発し、謙也は先程の歌音と全く同じ反応をすると、手の中のぬいぐるみを放り投げたが……
『どいつもこいつもオレを放り投げやがって…危ねぇだろっ!!』
 ぬいぐるみはシュタっと自分で着地すると、怒鳴った。
「………ぬいぐるみが動きよった……そして喋りよった」
 全員、ハルまでもが固まってぬいぐるみを凝視している。
「おぉーっ何やコレ、ぬいぐるみが話しとるでぇー!」
 金太郎のみ目をキラキラ輝かせている。
『だーかーら、ぬいぐるみじゃねぇ!コケ太郎だ“コケ太郎”!』
「“こけたろー”っちゅー名前なん?ワイ、遠山金太郎いいますねん、よろしゅう」
『ああ、よろしくな』
 ぬいぐるみ改めコケ太郎は頷いた。
「コケ太郎……変わった名前やなぁ。まるで鶏みたいや」
 ボソッと呟く謙也。するとコケ太郎は
『オレに言うな、ドクターに言いやがれっ!だいたいテメェに言われる筋合いねぇぞ、このいろんな意味でヒヨコ頭!』
 謙也を指差して(正確にいうと指ではなく前足だが)言った。
「ヒ、ヒヨコ頭っ?」
『見た目も中身もピッタリだろ』
「見た目は……なんとなくわかるけど、中身もヒヨコ?」
 頭の上にクエスチョンマークを浮かべる歌音。
「“同レベルの知能”っちゅー意味やないっスか?」
 ヒヨコの親は鶏。鶏は3歩歩いたら忘れる……つまり阿呆と言いたいらしい。
「先輩をアホ扱いすんな!」
 謙也は憤慨するが……
「なるほど、そういう意味か」
 歌音にまで納得された事にショックを受け、その場に灰化した。
「……ところで、歌音先輩」
 財前が#NAME2##に話し掛ける。いつものことだが、誰も謙也を慰めるものはいないので、彼はその場に固まったまま放置されている。
「ん?」
「アンタ誘っとるん?」
「……はい?」
 きょとんと財前を見上げる歌音。この子はイキナリ何を言い出すんですか?という目で彼を見ている。
「ほな言い方変えますわ。さっきからめっちゃ胸当たってますけど、そない襲って欲しいんスか?」
「──っ?!」
 財前に言われて歌音はやっと自分の今の状態に気付いた。先程コケ太郎がイキナリ動き出して驚き、一番近くにいた財前の腕にしがみついたままだった。
「ご、ごめんっ……」
 歌音は真っ赤になって慌てて離れようとしたが、財前はニヤリと笑って歌音の腕を掴むと耳元で何か囁いた。
「っ……光の変態っ!」
 すると、歌音は耳までを真っ赤にさせ、銀の後ろに逃げた。一番安全だからだ。
「……財前。歌音に何言うたん?」
 白石が溜め息を吐きながらも確認すると
「別に先輩って背小っこいわりに出るとこはしっかり出とって柔らか──痛っ……」
 台詞の途中で歌音が投げつけた床に落ちていたスリッパが見事に命中し、財前は手で額を押さえた。
「……光の馬鹿」
 顔全体を更に真っ赤にさせ涙目になっている歌音の姿を見て、白石や財前は「可愛えなぁ〜」とニヤついていた。この光景を彼らのファンが目にしたら、幻滅するかもしれない。

「……さて」
 暫く黙って一同の様子を見ていたハルが立ち上がり口を開いた。
「渡す物は渡したし、俺は帰るぜよ。仕事もあるけぇのぅ」
 ハルはそう言うと、手をひらひらと降り背を向けた。
「え、でもこのコ、一体どうすればいいの?」
 歌音がコケ太郎を指差すと「任せる」とだけ言いハルは本当に帰ってしまった。
 仕方なくコケ太郎本人(人ではないので本ロボ?)に話を聞くと、彼はドクターが作った【人工知能ロボット】だとのこと。
 自分の意思を持ち自分の意思で行動するロボットとは、歌音達の元いた世界のAIよりも高性能だ。
 この世界にもまだそのようなロボットは発明されておらず、このコケ太郎はドクターの試作品……つまりこの世界でも初の人工知能ロボットらしい。
 機能性にもとても優れており、ナビ機能やモンスター情報、その他ドクターから送られてくる様々な情報がつまっているそうだ。
「なんでそんなに凄い発明品をドクターは世に出さないで私達にくれたの?」
 歌音が聞くと
『ドクターは自分の発明品を世の中に広めたいとは少しも思ってねぇゾ。それに、ドクターは、始めからオレをオメェらに渡す為に作ったんだ。』
 コケ太郎が答えた。
「俺らの為?」
「……それほど召喚士と勇者、そして守護者はこの世界では大切な存在なんだね」
 元々この世界の住人ではない歌音達にとっては、そのような期待は荷が重すぎる。
 しかし、この世界の事を何もわからなく途方に暮れているのも事実。コケ太郎の存在は歌音達にとって、とても心強いものなのは確かだ。その為、とりあえず有難く頂戴しておくことに決めた。
「ところで、結局ドクターってどんな人なん?」
 白石が肝心のことをコケ太郎に尋ねた。
「そういえば武器屋の店主はん、ドクターは人間か魔族かもわからないって言うてはったわね」
「でも魔族と私達……勇者と守護者って対立の立場、つまり“敵”なんでしょ?」
 この世界の住人ではない歌音達にとっては、魔族が敵だと聞かされてもイマイチピンとこない。しかし、勇者と守護者という立場上、魔族にとって自分達は最も敵だということは誰もがわかっていた。
 ハルと文友とはいえ、もしドクターが魔族なのだとしたらこれは何かの罠なのかもしれない。コケ太郎は考え込む一同を一瞥すると
『その辺りのことは直接ドクターから聞け』
「直接?」
『オレ様を通じて、だけどな』
 コケ太郎の機能の中には、ドクターと直接通信出来るシステムがあるらしい。
「じゃあ、いつでもドクターと通信が出来るってこと?」
『いや、電波塔が立っている大きい街だけだ。あとはドクター側も受信出来る状態じゃないと無理だ』
 小さい村には電波塔がないため通信できないらしい。他に森の中、地下も電波が通じないので無理だそうだ。相手側も同じ状況下でないといけないそうで、言うなれば初期の携帯電話のようなものだ。
『じゃ、通信するぞ』
 そう言うと、コケ太郎の目は青く光り出した。

『──やぁみんな、はじめまして。ハル君はちゃんとコケ太郎を君達に届けてくれたようだね』
 しばらくすると、コケ太郎が喋り出した。いや、正確にいうとドクターの言葉をコケ太郎が代弁している。
「貴方が“ドクター”さん?」
『僕の事はさん付けじゃなく“ドクター”って呼んでくれて構わないよ。それと堅苦しいのは嫌いだから敬語はやめて欲しいな』
 ドクターの言葉ではあるのだが、喋っているのはコケ太郎なのでなんだか違和感がある。
「……コケ太郎と違って随分フレンドリーな人っちゃね」
 ボソリと千歳が呟いた。
 ペットは飼い主に似るとよく言うので、ドクターもコケ太郎のような性格だと思っていたらしい。(コケ太郎はペットではないが…)
「ドクターはなんで俺らにコケ太郎を送ってきたん?」
『少しでも君達の手助けをしたいと思ったからだよ。異世界の住人である君達にとって、この世界は訳がわからないことばかりだろう?』
 白石の問いにドクターは迷うことなく答えた。しかし、歌音達が聞きたいのはそういう答えではない。
「ほな単刀直入に聞きますわ。ドクターは人間なん?それとも魔族なん?」
 財前が訊くと
『それは君達にとって重要なことなのかい?』
 逆に聞き返された。
「だって、魔族にとって私達は敵なんでしょ?」
 歌音は戸惑いながらも答えると
『魔族だとか人間だとか……そんなくだらない争いに僕は興味がない』
「じゃあなんで俺らの手助けなんてするん?」
 ユウジの言うとおり、それでは言ってることとやってることが矛盾している。
『君達なら終わらせてくれると思ったんだよ。このくだらない争いをね…』
「……どーゆー意味ね?」
『憎しみや恨みといった負の感情で戦っても何も変わらない。また新たに憎しみを生むだけだ。それではツィーネを完全に倒すことが出来ないと僕は思っている。ツィーネは魔族が長年募らせてきた人間への恨み、憎しみから生まれた怪物だ。そしてツィーネは人間や魔族の“負の感情”を力の源としている。歴代の召喚士達がツィーネを封印しても数百年後にまた復活してしまうのはそのせいではないかな?』
「ということは、私達が召喚士を無事見付けられたとして、その召喚士がツィーネを封印しても数百年後にはまた復活しちゃうってこと?」
『あぁ。そしてまた新たな召喚士達が復活したツィーネを封印する旅に出る。……永遠にその繰り返しだ』
「つまり、人間と魔族が和解しない限りツィーネは復活し続ける。そう言いたいん?」
 白石が確認すると
『あくまで僕の推測だけどね』
 正確なことはわからないけど、とドクターは付け足した。
「そして、その橋渡しば俺達にやれと?」
『まさか。君達がそこまでやる必要はないよ。それはこの世界の人間がやらなきゃ意味がないからね』
 ドクターは否定した。
「じゃあ、ドクターは私達に一体何を求めてるの?」
 先程から言動が矛盾しているドクター。歌音達はドクターの意図が全く掴めずにいた。
『何も求めてはないよ、何かやってもらおうとも思っていない。君達はそのままでいてくれればいい』
「……」
『欲を言えば君達の存在が、きっとこの世界に新しい風を吹き込んでくれる……何かを変えるきっかけになってくれればいいと思っている。魔族だとか人間だとかこの世界のそういうくだらない思念や概念に囚われていない、異世界から来た君達の存在が』
「……それが俺達の手助けをしてくれる理由なん?」
 白石が聞くとドクターは笑ってこう答えた。
『うん。まあそういうことにしておいて?』
「……は?」
 目が点になる歌音達。ドクターはその反応にアッハッハーと愉快そうに笑った。
 誰かの堪忍袋の尾が切れた音がしたのと同時に、コケ太郎がTVの放送終了後の砂嵐のような音を発し始めた。
「……何この音?」
『おっと、すまない。そろそろ通信が切れる時間のようだ……』
「えぇ、ちょっと待っ──」
 結局ドクターのことは何一つとしてわかっていない。一同は慌ててドクター(正確にいうとコケ太郎)に詰め寄ったが……
『──ごめんね、通信出来る時間には限りがあるんだ。……また次に君達と話せることを楽しみにしてるよ』
 ドクターがそう言い通信を切ろうとするのを白石が止めた。
「ほな、最後に一つだけ教えてや」
『……何だい?』
「結局、アンタは何者なん?」
『……』
 ドクターはその問いには答えなかった。
 代わりにある言葉を残し、ドクターとの通信は切れてしまった。
「……結局何やったん?あのおっさんは」
「ユウくん、ドクターさんがおじ様かどうかはわからないわよ」
 歌音達はコケ太郎を通じて話をしただけなのだ。
「あ、そっか。もしかしたら女の人っていう可能性もあるんだよね」
「年齢も性別も不明……いや、それ以前の問題やな」
「人間なのかそれすら不明っちゅー事っスか」
「謎だらけな奴ばい」
「なんか何もかも上手くはぐらかされちゃったよね」
 歌音達は互いの顔を見合わせると、苦笑いをした。
「なぁ……」
 ふと謙也が真面目な表情で口を開いた。
「ドクターの“あの言葉”、信じてもええんか?」
「…………」
 謙也の問いに、辺りは一瞬静寂に包まれる。
 通信が切れる直前、ドクターは歌音達に言った。

『これだけは覚えておいて
 この先何が起ころうと
 君達がどんな道を進もうと
 何を敵に回そうと

 僕はいつだって君達の味方だ』


「……私は信じてみてもいいと思う」
 しばらくして歌音が口を開いた。
「ドクターが一体何者なのか、本心では何を考えているかわからないし正直言うと怖いとも思う。何か狙いがあって力を貸してくれているのかもしれない。だけど……」
「……今の俺達にとって、ドクターの協力は必要不可欠。そう言いたいんやろ?」
 と、白石が途中で言葉に詰まった歌音に代わり続けた。
「うん。あと、本当になんの根拠もないんだけど、なんかドクターのことは信じてもいいような気がしたの」
 歌音がそういう根拠がないことを言うのは非常に珍しい。だが、何故だが歌音以外も皆同じ気持ちになっていた。
「俺は歌音の意見に賛成やけど……皆は?」
 と白石が訊くと
「ワイも賛成やで!」
「俺も、賛成や」
「疑うよりも信じる……大事な事やとワシも思うで」
 金太郎、謙也、銀の3人が真っ先に答えた。
「……まぁ、ドクターを味方につけといた方が俺達にとっても何かと得やし、とりあえずはええんやないんですか?」
「せやな」
 財前やユウジも歌音に同意した。
「千歳はどうなん?」
「俺も良かよ」
「……小春ちゃん、どうしたの?」
 歌音は先程から黙って何か考え込んでいる小春に問いかけた。
 いつもの彼ならば、真っ先に賛成していそうなものだが
「……小春?」
「あっごめんなさい」
 ユウジが呼びかけると小春はハッとして顔をあげた。
「どないしたん?」
「……あ、勿論アタシも歌音さんの意見に賛成よ」
 小春はそう言うとニッコリと笑った。
「でも、今何か考え込んでたみたいだけど」
 歌音が訊くと
「え?あ……時間、大丈夫なん?」
 小春は一瞬口ごもった後、答えた。
「時間?」
「テーカに行くならそろそろ出発せな……」
 昨夜話し合った結果、お昼に会ったお爺さんが言っていた、調べ物をするには最適な“テーカ”に行ってみようという事になったのだ。
 流石に帰る方法までは見付けられなかったとしても、召喚士を探す手がかりは見付けられるかもしれない。それに、長かれ短れこの世界に滞在する以上は、世界のことを何かと知っておかなければならないと考えたからである。
「せやな。暗くなる前には着きたいしな」
 白石も頷いた。テーカは大きな森の真ん中にある。そしてその森はモンスターの巣窟だそうだ。暗くなってからではかなり危険であろう。
「それじゃ、必要なもの買出ししてきちゃうね」
 歌音がそう言い腰を上げると
「ワイも歌音と行くでー!」
 金太郎が元気よく手をあげた。歌音はそれを見て微笑み
「出来たらもう1人くらい一緒に荷物持ってほしいんだけど……」
 と言うと
「……いや、あの、そんなには必要ないかな」
 当然のように全員が立ち上がったので、歌音は苦笑した。
「──ま、いっか。みんなで買い物してそのまま出発すれば……」
 一同は宿屋を後にした。

「ねねっ謙也、光。ピンク色の包帯があるよ」
「……うわ、よりにもよって蛍光ピンクかい」
「なんかキモいっスね……」
 街にてお買い物中の一同。
「蔵、ちょっと来てー!」
 歌音はその包帯を持ったまま、少し離れたところにいる白石を呼んだ。
「どないしたん?」
「今度からこれ腕に巻いたら?」
「……その色俺に似合うと思うん?」
「キットニアウトオモウヨ?」
「なんで片言やねん。歌音もお揃いでつけるっちゅーなら考えたるで?」
「……ごめん、私が悪かった」
「わかればよろしい」
 楽しく買い物をしている歌音達の傍らでは──……

「……なぁ小春」
「なぁに?ユウくん」
「さっき、ホンマは何考えとったん?」
 小春とユウジの2人が珍しく真面目な話をしていた。
「……やっぱりユウくんにはバレてもうた?」
「当たり前やろ。何の為の一心同体少女隊修業やねん」
 何の為ってテニスで勝つ為ではないのか?と思うが、ここはツッコミを入れるところではないのでスルーしておくとしよう。
「ドクターの事でちょっと気になることがあったんやけど」
「気になること?」
「……なんでドクターはうちらが異世界から来たって知っとったんかなぁって」
 あっとユウジが声をあげる。
「でも、それはもうええんよ」
「ええって……」
「歌音さんもその事気付いてますから……」
「は?」
「気付いててそれでも信じる……そーゆーのもええんやない?」
「……小春がええならええけど」
「ほら、ユウくん。皆待っとるし、早よ行くで」
 小春はそう言うと、歌音達のいる方へパタパタと女の子走りで走っていった。
「お、おぅ……って待てやコラ、置いてくなや!」

「あ、今度は蛍光ピンクの眼鏡がある……」 
「……この店蛍光ピンク好きやな」
「あら、このピンクの眼鏡可愛いわねぇ〜。購入決定っと」
「え゛っまさかそれ着けるん?」

 こうして、一同の長い旅が始まった──。



 Fine partita?
 o
⇒Continua?

──第2章 完──
   
   


[ 9/17 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -