第2章 A〜Spada del CoraggiosoT〜

   


 老紳士が教えてくれた武器屋はすぐ近くにあった。
「おぉ〜っ!!みんな見てみぃ、モデルガンが仰山置いたるで〜」
「金ちゃん、それ本物ばい……」
「これ全部日本に持ち帰って闇で売り捌けばかなりいいお金になるね……」
 歌音が武器を見ながら真顔で呟く。
「……銃刀法違反で捕まるばい」
 引きつった顔で千歳に指摘されると、歌音は「勿論冗談だよ」と答えたが、冗談なら真顔で言うなと謙也に怒られた。歌音の冗談は大抵いつもわかりづらいらしい。
「どれがええかな〜」
「お前武器持たんでええやん、炎出せるんやし」
 謙也が言うと、白石は呆れた顔をした。
「何言うてんねん、炎が効くモンスターばかりとも限らへんし、武器も使えるに越したことあらへんやろ?……やっぱ武器は飛び道具のがええかな?遠隔攻撃出来るし」
「銃とか弓が妥当ってこと?」
 歌音達が悩んでいると
「そうとは限りませんよ、お客さん」
 話を聞いていた武器屋の店主が口を挟んだ。
「異世界から来た愉快な団体さんとは、あなた方の事ですね」
「ゆ、愉快な団体さん?」
 どうやら先程の親切な老紳士が事前に話をしておいてくれたらしい。本当に異世界から来たと信じているかはわからないが、店主にこちらを馬鹿にしているような雰囲気は感じ取れなかった。
「ベーラに行くから武器を選んでやってくれと頼まれましてね」
 店主によるとモンスターによっては銃よりも剣等の刃物の方が効くタイプもいるし、何より飛び道具にしたところで“敵に当たらなきゃ意味が無い”ので個人個人自分に合った武器を選ぶべきとのこと。
「隣のバーチャル室で色々な武器を試す事が出来ますのでよろしければどうぞ」
 という店主の言葉にバーチャル室へと移動すると
「うわぁ……」
 一同はその機械の性能の良さに感嘆の声をあげた。
「“ドクター”の発明品の一つです」
 店主が教えてくれた。
「ドクターってどういう人なんですか?」
 と歌音が尋ねると店主は知らないと答えた。
 ドクターとは天才科学者らしく様々な発明品を作って世に出しているのだが、その姿を見た物はほぼ皆無であり、全てが謎に包まれているらしい。“ドクター”という名も人々が呼んでいるだけで本名なども一切不明だという。
「そうなんですね。会う事が出来れば元の世界に帰る装置とか作ってくれるかと思ったんですが……」
 歌音の言葉に店主は残念そうに首を横に振った。
「それは多分無理でしょう。ドクターが何処に住んでいるか誰も知りません。噂によると世界を転々としているようですが」
 そして
「それにドクターは人間なのか魔族なのかわかりませんし……」
 と独り言のように小さく呟いた。
「魔族とは?」
 と歌音が聞いても店主は「貴方達には関係ないですよ」と回答を控えた。
「さ、そんなことより早く武器を選んでしまいましょう」
 と言って話をそらしたがる店主の様子に、歌音達は不思議そうに顔を見合わせたが、相手に話す気が無いのでは聞いても無駄であるし、正直なところ自分達のことだけで精一杯で他の事にまで気を回している余裕がなかったので、素直に武器を選び始めたのだった。
 そしてシミュレーションの結果、
 白石は滅多に操れる人がいないと言われる切れ味の鋭い戦闘用ワイヤー。
 千歳は銃よりも命中率が良かったし殺傷能力も抜群の大型の弓。
 金太郎は下手に武器を使うよりも拳で戦う方が強かったのでナックル&戦闘用グローブ。
 財前は銃の命中率がずば抜けていたので早撃ちが出来る拳銃。主に利用するのは利き手である左手だが、右手でも命中率が良かったため、いざという時に利用出来るよう二丁拳銃として持つことにした。
 ユウジは本人も驚いていたが手裏剣やナイフ投げの腕がすこぶる良かった。大手裏剣をメインとし、その他短剣やナイフを数本服の下に隠し持つことに。
 小春は一番使いやすかったのはボウガンだが、それでは殺傷能力が低いのでその他に手榴弾などの小道具も扱うことにした。
 銀は持ち前の怪力を活かせるものをという事で大型の槍。
 それぞれ自分にあった武器や戦闘方法をみつける中、謙也と歌音は未だにこれといった武器が見付からなかった。
 歌音は女子でしかも小柄なので力がなく重い武器などは扱えない。
 謙也の方は一通りの物を使ってみてほとんどの武器はそれなりに使いこなせているのだが、イマイチしっくりくる武器が見付からない。ちなみに2人とも銃や弓などの飛び道具の命中率は極めて低かった。
 2人はしばらくああでもないこうでもないと悪戦苦闘していたが、
「とりあえず一度ここから出ましょうか」
 と言う店主や焦らんでええからと言う他の仲間の言葉に渋々バーチャル室を後にした。
 再び武器が置いてある部屋に戻り、自分に扱える武器はないのかと落ち込んでいる歌音に皆が声をかけた。
「歌音は無理に戦わんでええんやで」
「白石の言う通りばい」
「せや、俺らがおるから安心しぃ」
「ケンヤ、お前そーゆー事は武器決めてから言えや…」
「ゔっ」
 ユウジに痛いところを突かれた謙也はいじけて地面にのの字を書き始める。
「先輩くらい俺一人でも守れますわ」
「……でも」
「歌音は気にしすぎや」
「銀さんの言う通りでっせ!それに男の子が女の子を守るのは当たり前の事よ」
「心配せんでもワイが全部倒したるでぇ!!」
「ありがと」
 みんな歌音に戦わせる気など毛頭ない。というより端っから歌音を戦力に入れていないのである。
 本人は足手まといになりたくないという気持ちが強い、かといって扱える武器もないのにそんな我侭も言えないと心の中で葛藤していた。
「……あ」
 そんな歌音の視界にショーウィンドウに飾られた小さめの1足のブーツが入った。 「このブーツは何ですか?」と聞くと店主が説明してくれた。
「これですか?女性用の戦闘用ブーツで破壊力も抜群なんですが、サイズが小さいので履ける人が少ないのと例え履けたとしてもそういう人達は今度は脚力がなくて使いこなせる人がいないんです。諸事情により捨てることは出来ないためこうして飾ってるんですが」
 そもそも女性の戦闘員は滅多にいないらしい。店主は説明しながらじっと歌音を見て
「貴方なら小柄ですし履けそうですね」
 履いてみますか?と聞いた。そして歌音がそのブーツを履いてみると
「あ、ピッタリ」
 まるでオーダーメイドのようにピッタリのサイズで、歌音はその場で足を振ったりジャンプしたりと使い心地を試してみた。
「どうです?使いこなせそうですか?」
「はい。履き心地もいいですし」
 歌音が答えると店主は驚いたように目を丸くさせ
「本当ですか?では、試しにこれを蹴ってみて下さい」
 と、コンクリートの塊を指差した。
 それは無理やろ…と全員が思ったが
「えいっ!!」
 歌音が回し蹴りするとコンクリートの塊は一瞬でバラバラになり跡形もなく崩れた。本人も含めその場にいた全員が唖然として声も出ずにそのコンクリートの残骸を見つめている。
「いやぁ、まさかあのブーツを使いこなせる方がいるとは」
 店主が感心したように呟いた。
「……あの、これはおいくらですか?」
 ブーツをすっかり気に入った歌音。しかしそのブーツ、見た目はお洒落で可愛いのに破壊力は抜群なのだ。値段も相当するだろうと思いおそるおそる訊ねると
「それは貴女に差し上げます。」
「えっよろしいんですか?」
「飾り物として店に置いておくより可愛いお嬢さんに使ってもらう方がブーツも嬉しいでしょう」
 店主はそう言いニッコリと笑った。元々売り物ではなく、国家御用達の武器職人が気まぐれか何かで作成し“いつか使いこなせる人が来たらあげて”と置いていったものらしい。
「ありがとうございます!」
 歌音の武器も無事決まり、残る後は謙也だけとなった。しかし、皆歌音の武器が決まると自分の武器を眺めたり使い心地を試したりしていて、謙也の事は眼中にない様子。
「……なんやねん」
 謙也は少々拗ね気味だ。
 彼はしばらく近くの武器を手に取って眺めてみたりしていたが、
《──……》
「え?」
 ふと誰かに呼ばれたような気がして顔を上げた。
「謙也、どうかした?」
「今、誰か俺のこと呼ばんかった?」
 全員首を横に振る。
「変やな。誰かに呼ばれた気がしたんやけど……」
 気のせいかと謙也が再び武器を選び始めると
《──……》
「……あ、またや」
 また、謙也の耳にさっきと同じ、自分を呼んでいるような声が響いた。
「一体誰や、この声……」
 辺りを見渡すが
「なぁ小春、今なんか聞こえたか?」
「いえ、聞こえまへんでしたけど……皆さん聞こえた?」
 他にはそんな声など聞いたものは一人もいなかった。
「え?みんな聞こえてへんの?──あっ、ほら今も……」
 謙也以外は誰も声は聞こえていない。
 しかし謙也は本気で言っているし、そんな嘘を吐くような性格ではない。
 皆、謙也がどうかしてしまったのではないかと思い顔を見合わせた。
「謙也、大丈夫?疲れてる?」
 歌音が心配そうに謙也の顔を覗き込む。ここで普段であれば「ぜ、ぜぜ全然大丈夫やでっ」と顔を真っ赤にして慌てて飛びのくのだが今は
「……」
 何の反応も示さない。
「謙也?謙也ってば!本当に大丈夫?」
 歌音が腕をつつくと
「……あ、ごめん歌音。何か言うた?」
 とやっと我にかえったように聞いたのだった。
 明らかに様子がおかしい謙也に、さすがに全員が本気で心配し始める。
 まさかそんなに皆から心配されているとは思ってもいない謙也は、一体誰なん?と先ほどから、自分にしか聞こえない謎の声が妙に気にしていた。
(“俺”を、呼んどるん?)
 声が一体何を言っているのか、はたまた声の主が女なのか男なのかも不明なのに可笑しい話なのだが、謙也はその声が“他の誰でもなく自分を呼んでいる”と直感でわかっていた。
 そして次の瞬間、
「──っ?」
 謙也の体はまるで何かに取り憑かれたかのように全ての自由が利かなくなった。
 しかしそれを伝えようにも声を出すことすら出来ないまま、足は自分の意思とは関係なく勝手に動き出した。
 一方、周りには謙也が自分で歩き出したように見えるので、誰も不思議がったりはしなかったのだが、突然
「“ソレ”に触ってはいけませんっ!!」
 と店主が謙也を見てはっとして叫んだ。
 が、既に時遅く、謙也は店主が触ってはいけないと言った“ソレ”に手を伸ばしていた。
 次の瞬間
「──っ?」
 カッという眩しい閃光が辺りを包み、その場にいる謙也以外の全員が思わず目を瞑った。
 閃光が消え、目を開くと、
 そこには、店主が触ってはならないと言った剣らしき“ソレ”を手に握り、立っている謙也の姿があった。
「……なんと、まさか」
 店主がまるで幽霊でも見たかのように青ざめて目を見開いた。そんな店主を見て千歳が口を開きかけたが、その瞬間
「ケンヤっ?」
 謙也がぷつりと糸の切れた操り人形のようにその場に崩れるように倒れて、皆が慌てて駆け寄った。
「大丈夫、眠ってはるだけです」
 小春の言葉に皆が安心してホッと息をつく中、店主だけはまだ先程の驚いた表情のままその場に突っ立っていた。
 そしてその口から呟きが洩れた。

「……勇者様」


   


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