第2章 @〜Solo un piccolo giro turistico〜

  


 何事もなく無事に街に着いた一同。
「へぇ、結構デカい街やな」
 謙也が感心したように呟いた。
「人が仰山おるでぇ!」
 辿り着いた街はこの世界の主要都市の一つなのだろうか、人で溢れてとても賑やかだ。外国に旅行にでも来たような錯覚に陥る。一同はとりあえず大通りを道に沿って歩き始めたが、ものの数分もしないうちに歌音が俯きながら歩く速度を落とした。
「歌音、どぎゃんしたと?」
 千歳が心配して尋ねると、歌音は「……覚悟はしていたつもりだけど、街の人の視線が痛い」と恥ずかしそうに答えた。
 先程からすれ違う人々が物珍しそうにチラチラと見てくるのだ。
「この恰好のせいとちゃいます?」
 財前が自分の来ている服を指差した。今着ている服は四天宝寺中の制服。自分達にとっては至って普通の恰好だが、この世界の住人が着ているものとはかけ離れている。
「着替えた方がええな。このままやと目立ってしゃーないわ」
 と白石が提案するが
「でも、ウチらお金持ってまへんで?」
 小春が指摘した通り、問題はそこなのである。着替え云々以前にこの先お金が必要になるのは明白だ。白石がどうすべきか考え込んでいると、横から金太郎が袖を引っ張ってきた。
「なぁなぁ〜白石ぃ」
「なんや、金ちゃん」
「ワイお腹空いた」
「……あぁ、せやな。ん?」
 こんな状況で何を言い出すのかと思わず溜め息を吐いた白石の目に“あるもの”が映った。
「なぁ、金ちゃん。アレに勝ったらなんでも食べさせたるで?」
 指差した先にあったものは『THE 腕相撲大会 優勝者には賞金10000G』と書かれた看板であった。そこには沢山の人々、主に大男達が群がっていた。
「ホンマかっ?」
「優勝したらの話やけどな」
「よっしゃ、ワイやるでぇ!」
 金太郎は目を輝かせている。
「ねぇ光、10000Gってどのくらいの価値あると思う?」
「さぁ、結構人が集まっとるくらいやし結構な金額やないっスか?」
「やってみる価値はありそうだね。でも、参加資格とかあるんじゃない?」
 そもそも参加出来なければが賞金は手に入らない。看板の下に書かれた募集要項を確認したところ、どうやら参加費はかからないようだが、参加券がいるらしい。商店街で500G以上商品を購入するともらえるんだとか。デパートの福引券と似ている。
 しかし、商品を購入しようにもお金がない。というよりそもそも購入出来るお金があれば大会に参加する必要はない。本末転倒である。
 一同が諦めてその場を離れようとしていたところ、「……あ、あのぉ」と後ろから声が聞こえた。振り返ると10代後半くらいの女の子が2人、もじもじしながら立っていた。
「よ、良かったらこの参加券使って下さい。2枚あります」
 女の子達はそういうと、参加券と書かれた赤いカードを“白石へ”差し出した。頬はほんのり赤く染まり、目もうるっとしている。
「え、ええの?」
 白石の顔が若干引き攣った。知らない異性から声を掛けられることが苦手な彼は、今にも逃げ出したいのを必死で我慢している。しかし全てはお金のため、背に腹はかえられない。
「はい、私達は参加しないので」
「えと、おおきに……やなかった、ありがとう」
 ニコッと笑顔付きで券を受け取ると、2人組は顔を見合わせてキャッキャとしながら「頑張って下さいね、応援しています!」と言いながら去っていった。
「……ふぅ」
 2人組の姿が見えなくなると白石がホッと息を吐いた。2人組がグイグイくるタイプではなく普通の良い子達だったため、乗り切れたようだ。
 まぁ、何はともあれこれで腕相撲大会に2人参加出来る。結果オーライ、イケメン様様である。ちなみ2人組は白石を主に見ていたが、財前や謙也、千歳のこともチラチラ見ていた。どうやらイケメンの定義はこの世界も共通のようだ。不思議な服をきたイケメン集団のため、旅芸人とでも思ったのかもしれない。
「っちゅーかなんで日本語なんっ?日本語通じるんかこの国?えっもしかして此処日本なん?」
「ワイ腕相撲なら負けへんで〜!」
「金ちゃんともう一人は誰が参加する?」
「ほな、ワシもやってみよか」
 金太郎と銀は腕まくりをした。
「千歳はいいの?」
「遠慮しとくばい」
「じゃあ、金ちゃんと銀の2人が参加だね。2人とも頑張って!」
「……無視かい」
 謙也が疑問に思い発した言葉は誰も答えられないためことごとく無視され、力自慢の金太郎と銀の2人はお金稼ぎの為にその腕相撲大会に出場することになった。

 そして、いざ腕相撲大会。
「なんだ、この変な服を着たチビっこいのは。腕なんかちょっと力込めたら折れちまいそうだぜ」
 対戦相手の大男が金太郎を見てケラケラと笑い出すが、
「やってみなわからへんで?」
 金太郎はえいっと一声だけで余裕に相手を負かしてしまった。ギャラリーが驚いて騒ぎ出す。
「金ちゃんやっぱ凄いねっ!」
「ああ見えてかなりの馬鹿力やからな」
「金ちゃんに勝てる奴はなかなかいないばい」
 一方銀も
「銀のやつ、あっちゅー間に20人も倒してもたわ。勝負にならへんな」
「さすが師範っスね」
 いうまでもなく楽々と余裕で勝ち進んでいた。
 そして、いよいよ決勝戦。
「……すごい、まさか2人とも残るなんて思わなかった」
 金太郎と銀の2人が最後まで残ったのである。これには流石に皆驚いた。
「どっちが勝つか見物ばい」
「皆はんはどちらが勝つと思います?」
「銀、やな」
「ケンヤがそう言うんなら俺は金ちゃん」
「俺もそうしますわ」
「おいユウジ、財前。お前らそれどーゆー意味や!」
 小春の言葉に賭けを始める一同。どちらが勝っても賞金は彼らの手に入るので気楽に傍観している。
「歌音さんはどう思います?」
「本気でやればどっちが強いかわからないけど、とりあえずこの勝負は多分“銀がわざと金ちゃんに負ける”から賭けにならないんじゃない?」
 結果は歌音が言った通りとなり、一同は無事に賞金を獲得することが出来たのだった。

「ほな、まず服からやな」
 白石がそう言い、近くの服屋に歩き出そうとすると
「えぇ〜、白石さっき勝ったらなんでも食べてええって言うたやん」
 金太郎が不平の声をあげた。
「この恰好のままやと目立つやろ?せやからまずはお着替えや。な、金ちゃん」
「イヤやー!着替えなんて後でもええやん、白石の嘘つきぃ!」
 白石が優しく言ったにも関わらず金太郎は聞き分けが悪くだだをこね出した。すると
「金・太・郎?」
「おわっ?」
 金太郎の目の前に拳大くらいの大きさの火の塊があらわれた。金太郎が悲鳴を上げて飛びのく。
「金ちゃんは自分が丸焼きになりたいん?」
 そう言いながら白石にニッコリと笑いかけられると、金太郎はぶるぶる震えながら首を強く横に振った。毒手から炎へ脅しの方法をシフトチェンジしたらしい。しかし賞金を獲得してきたのは金太郎なのに、ちょっと不憫である。
「……き、着替えるから焼かんといてぇ」
「うん、金ちゃんはエエ子やなぁ」
 そんな光景を傍から見ていた他の者達は
「白石には絶対逆らわんといた方がええな」
「ケンヤだったら丸焼きにされちょるね」
「ま、丸焼き……」
「あれ、本気にしちょる?冗談やったんに」
 と、まぁ本気で怖がっていたのかはともかく、炎を使われるのはやはり困る。白石には逆らうまいと全員
「服屋ならあっちにありましたわ」
「本当?ほら蔵、金ちゃん脅してないで行こ?」
 ……どうやら全員ではなかったようだが、心の奥に誓った。

 ◇ ◇ ◇

「わぁっ、カッコいい服いっぱいあるね!」
「歌音さん歌音さん、これ蔵リンに似合うと思いません?」
「おぉっ、さっすが小春ちゃん!あ、こっちのはなんか千歳っぽくない?」
「いやーん素敵ィ!なな、これケンヤ君にどないでっしゃろ?」
 服屋にて、まるで仲がいい女の子2人が彼氏の服を選んでいるかのようにキャッキャッと騒ぐ小春と歌音。至極楽しそうである。
「はい、蔵リン。次はこれよ〜!」
「千歳はこの帽子ね。金ちゃんはこれとこれ着てね〜」
 そして、着せ替え人形にされている3人。
「着てみたばってん、似合っちょる?」
「めちゃめちゃ似合ってる!ねぇ小春ちゃん」
「ホンマ素敵です〜」
 歌音達に褒められると千歳は珍しくちょっと照れたように笑った。
「なあなぁ、ワイはワイは〜?」
「金ちゃんも凄く似合ってて可愛いよ」
「よっしゃ!じゃあワイこの服に決めるわ」
 和やかな雰囲気である。
「蔵、もう着替えた?」
 歌音が声をかけると
「今着替え終わったで」
 白石が試着室のカーテンを開けて現れた。
「……」
 その姿を見た歌音達は思わず言葉を失くし黙り込む。あまりに似合い過ぎていて言葉が出てこない。遠くから様子を伺っていた店員(♀)までも口をポカーンと開けて白石に見惚れている。
「あ、あれ?やっぱ似合っとらん?」
 反応がないので困ったように首を傾げる白石。本人は意識しているのかしていないのか、そんな仕種まですごくサマになっているのである。イケメンはずるい。
「い、いやむしろ逆です。似合い過ぎです」
「蔵リンまるで王子様みたいですわ〜。ねぇ歌音さん?」
「うん、なんかファンタジーとかに出てきそう。白馬の王子様みたい」
 正直に歌音が言うと白石はフッと微笑み
「じゃあ、お姫さんは歌音やな」
 と言うと歌音の手をとり、その甲にチュッと口づけをする……フリをした。本当に口づける度胸は彼にはない。見かけによらずシャイなのだ。
「──っ?!」
 それでも歌音の顔を真っ赤にさせる威力はあったらしい。
「さ、さぁ次は誰にしよっか小春ちゃん」
 少し気恥しくなった歌音は白石から離れると声を上ずらせながら話を逸らした。そんな歌音の反応を見て白石は嬉しそうにクスっと笑っている。
「ほな、次はケンヤ君いきまっせ〜」
「お、俺?」
 お着替えタイムが再開され今度は謙也が標的となった。次々に色々なものに着替えさせられている。
「よし、完璧でしょ」
 何着か試着したところで、ようやく歌音が満足気に頷いた。
「ケンヤ君めっさカッコエエですわ〜」
「意外ばい」
「謙也のくせにカッコ良すぎやない?」
「俺のくせにってなんやねん!白石」
「人間服装一つでここまで変わるんやなぁって感心しとるんや」
「ビミョーに嫌味っぽく聞こえるんやけど?」
「ん?気のせい気のせい」
 白石に揶揄われ謙也は複雑そうな顔をしていたが、「謙也カッコいいよ」と歌音に言われ顔を赤くさせた。まぁ、服装は変わっても中身は変わりないようである。
 歌音達が謙也を褒めたり弄ったりしていると
「って光ちゃん?!アンタ何勝手に服決めちゃってんの?!」
 レジの方を見た小春がムンクの叫びのポーズをしながら悲鳴をあげた。
「あぁっ本当だ」
 小春の視線の先を追うと、さっさと自分で着る服を選んで会計している財前がいた。
「自分の着る服くらい自分で決めますわ」
 どうやら着せ替え人形にされたくなかった模様。
「……残念だけど仕方ないか。光はセンスいいからそれ似合っているし。あ、でもこれ光に似合うと思って選んだんだけど、どうかな?」
「……じゃあ、これも付けますわ」
 歌音がシルバーアクセサリーを見せると財前は素直に受け取った。着せ替え人形にはされたくなくても、歌音の選んだ物は素直に身に着けるらしい。
 小春と歌音はまだ不服そうにしていたが、彼が素直に言うことを聞くとは思えないため、次のターゲットへ切り替え目をギラリと光らせた。
「ユ〜ウジぃ〜」
「お着替えしま──」
「俺も自分で選ぶで」
 小春の言葉を最後まで聞く前にキッパリと言い放つユウジ。
 しかし2人がそれを許す筈もなく
「ユウジくん何言ってるのかな?」
「せや、相方の言うことは聞くべきでっせ?ユウくん」
 当然ユウジが逆らえる筈もなく、あっという間に2人の餌食となった。
「ユウく〜ん、めっちゃ素敵ですわ。惚れ直しそう」
「小春ぅ〜」
 ラブルスがいちゃいちゃし始める。いつもの光景だ。その横で歌音は一人首をかしげていた。
「あれ、歌音さんどないしました?」
「カッコいいんだけど、なんだかなぁ……あ、わかった」
 歌音は自問自答すると
「おいっ歌音?」
 ユウジのバンダナをひょいっととってしまった。
「コラ、返せや」
「ユウジ、バンダナない方が絶対いいって!折角の綺麗な顔が隠れちゃって勿体無いよ」
 ユウジの顔をじぃ〜っと見ながら「うん、こっちのがカッコいい!」と歌音が真顔で言うと
「なっ──……」
 予想外の言葉に真っ赤になるユウジだったが
「ユウく〜んか〜わい〜い!」
 小春の台詞でハッと我に返ると凄まじい速さで歌音の手からバンダナを奪い返し頭に被り直してしまった。
「あっ!ちょっとユウジ、何被り直してるの?」
 ユウジはそれ以降決してバンダナを取ることはせず、歌音はちぇーっと残念そうに唇を尖らせた。そして他のメンバー達はアイツも結構可愛いとこあるなと、ユウジの意外な一面を知ったのだった。
 小春の服は当然ながらユウジが選んだ。流石デザイナーの息子というべきか、ラブリーな服でありながらもとてもセンスが良く、歌音はユウジに全員の服を決めてもらえば良かったかもと、ちょっと思った。服選びは楽しかったから後悔はしていないけれども。
 
 さて、そして男性陣の着替えが完了すると……
「え、何?みんな」
 歌音はギラギラと目を光らせて自分を見てくる男子達に引きつった笑みを見せた。
「何ってモチロン着替えっスわ」
「今度は歌音の番ばい」
「嫌なんて言わせへんで?歌音」
 みんなを散々着せ替え人形にした歌音は、今度は反対に自分がみんなの着せ替え人形となり、色々な服を着させられるハメになった。ちゃっかり財前まで混じっていた。
 ちなみに銀はと言うと、誰よりも早く服を選び終えた後、騒々しい他のメンバー達を半ば呆れながら見守っていた。そして店員さんに、皆が騒がしくして申し訳ないと謝っていた。

 無事着替えを終えた一同は、金太郎の希望により近くにあった安いレストランのような場所で昼食をとることにした。ちなみに言い忘れていたが調べたところ10000Gは日本円だと20万円くらいの価値があった。また物価もかなり安い。収入源のない一同にとっては大変有難い話である。
「たこ焼きはないんか〜」
「流石にたこ焼きはないと思うよ金ちゃん。ねぇ、この後どうしよっか」
 食べながら今後の事について話し合う。しかし、今一体自分達が何処にいるのかすら何もわからないわけで、途方に暮れていると
「どうしたんじゃ?大分お困りのようじゃが」
 話が聞こえていたらしく隣のテーブルに座っていた老紳士が声をかけてきた。知らない人をむやみに信じてはいけないとわかってはいたが、老紳士はとても人の良さそうな顔をしていたし、藁にも縋りたいほど困っていたので全てを説明した。信じて貰えなかったらその時はその時だ。冗談だと笑って誤魔化してしまえばいい。
 老紳士は始めこそ信じられないといった表情で話を聞いていたが、一同の必死な様子に嘘ではないと信じたようだった。そして、この国のことについて簡単に教えてくれた。
 やはり、ここは日本ではなかった。今いる国の名前はユッキーラ王国、街の名前はカイリというらしい。歌音達が知っている地球にはない国の名前だ。やはり此処は異世界の可能性が高い。
「元の世界に戻れる方法なんて、ご存知じゃないですよね?」
 歌音の問いに、老紳士は首を横に振った。そしてしばらく目を瞑って考え込むと
「テーカに行ってみるといい。あそこは調べ物には最適じゃ。もしかしたら何かヒントを得られるかもしれん」
 と提案してくれた。テーカとは図書館のようなものらしい。
「よろしければ行き方を教えて頂けますか?」
「この街を出て西に進むとすぐ大きな森が見える。その森の真ん中に小さな村がある。村の名前はベーラ、そこにテーカがある。ただし」
 そして老紳士はこう付け加えた。
「その森の中にはモンスターが沢山出没するから行く時は気を付けなさい。お前さん達、見た所丸腰のようじゃから武器屋で装備してから行きなさい。武器屋はここを出て右に真っ直ぐ進めばすぐ見えてくるじゃろ」
「御丁寧に教えて下さりありがとうございました」
 歌音達がペコリと頭を下げると老紳士は笑顔になって
「無事元の世界に帰れるようにワシも祈ってるよ」
 と言うと何処かへ去っていった。
 そして、一同はベーラへ行く準備の為に武器屋に向かうことになったが、
 まさかそこでとんでもない運命に巻き込まれることになろうとは誰一人として想像もしていなかった。

 


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