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衝撃的なニュースにより一部の人間たちがざわつく中、私は家からの急な呼び出しでエネドラに酒を飲むのはまだ先になりそうだと告げる暇もなく出かけなければならなかった。
家に着いて早々、部屋へ来るようにと義父に呼び出された私は荷解きもせぬまま彼の待つ部屋へと向かう。
ノックをして返事が返ってきたあと一声かけてから華美ではないが品のいい装飾を施された重い扉を開く。部屋の中に目をやると、久しぶりの再会と言うには暗い表情をした男と目が合った。
その表情にどうやらいい話ではなさそうだなと察すると促されるまま対面のソファーに腰掛ける。
「おかえり」
「はい、只今帰りました」
「いきなり呼び出してすまないね」
「いえ、丁度落ち着いたところでしたので」
「そうか…先の戦争ではご苦労だった。怪我はしていないか?」
「ありがとうございます。ほとんど戦線にも出ておりませんので、大丈夫ですよ」
「それなら何よりだ。」
「急ぎの要件とお聞きしましたが、何か問題でも?」
「そのことなんだが…」私の問いかけにいっそう表情を暗くして言葉をつまらせた。そう、私の前に座るこの初老の男性こそが私の義父である。
血の繋がりは無いのだが攫われて来たボロ雑巾のような幼い私を引き取り、養子として育ててくれた恩人だ。
そう、攫われてきたというのはその言葉の通りで私は元々この国の人間ではない。
というかそもそもこの星の人間ですらない。
元々は地球、こちらで言うところの玄界という場所から攫われてきたのだがそのすぐ後に私を攫った国がアフトクラトルの侵略を受け、戦争状態になった。
その混乱に乗じて一緒に攫われてきた数名と何とか逃げ出したまでは良かったが何せ平和な世界で生きてきた人間たち、恐怖で逃げ惑っているうちにはぐれてしまい、1人で戦場をさ迷っていた時に当時兵士として戦場に出ていた義父に保護されたのだった。
転んで泥だらけ、擦りむいた膝は血まみれだし顔は恐怖で泣き喚いて土と涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。あの時の岐阜の困った顔は今でもしっかり覚えている。
「その時がきた、という事ですかね」
「ああ…そうなるのだろうね」
「…ここへ来た時から、聞かされていましたから」
「すまない…、なるべく手は尽くすが…うちの中ではお前のトリオン能力が1番高い。出せと言われるだろう…」
義父は優しい人だ。元々トリオンの為に連れてこられた私を保護して、義理の娘にまでしてくれた上道具としてでは無く人として大切にしてくれた。
『この国には神がいるんだ』
『かみさま?』
『そうだよ。国を支える大切な神だ。
でもその神はいつか死んでしまう。
だから、その時に私たちの中から力の強い者を選んで次の神にするんだ。
お前はとても力が強い。だから、もしかしたら
お前が選ばれてしまうかもしれない。』
『わたしが、かみさまになるの?』
『そうだよ、でも、私はそうなって欲しくないなあ…』
義父に引き取られたあと計測によって私のトリオン量が人よりもずっと多いことが分かり、その時に悲しい顔をしながら聞かされた話だった。私の頭を撫でながら謝るその姿に、きっとそれは幸せなことでは無いのだろうと幼い私は気付いていた。
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