季節も寒くなり、雪も散らつきだし二月らしくなった頃。今日、真選組屯所内では宴会が行われていた。


いつものごとく局長が脱ぎ出し、副長も顔が赤くなり、沖田隊長が副長を介錯しようとしたり・・・やがてほとんどの隊員全員が酔っ払い、宴会も終盤に差し掛かったところでようやく局長が思い出したかの様に「そういやザキは・・・」と、本当は今日の主役であるはずの地味な彼の名前を口にした。


「おーい、なまえ!ザキ知らんかァァァァ?」


そんな大声で言わなくても聞こえてるっつーの・・・っていうか今の今まで部下のこと忘れてたんかいと内心では文句を垂れつつも、それを口に出来るほど私の立場は偉くは無いし今は機嫌が悪く元気もない。


「任務らしいですよ。詳しいことは副長にでも聞いて下さい。・・・それじゃ、夜の見回り行ってきま〜す」


それ以上その場に居ても雰囲気を悪くしてしまうだろうと思い、それらしいことを言って私はその場を去った。



見回りと称して気分転換に街に出てみたものの、どこもかしこも幸せそうな恋人たちばかりで、黒い隊服を着た一人ぼっちの女なんてどこの誰が見ても浮いていた。そういえばもう少しでバレンタインだ。

退と付き合い始めて早一年。思い返してみてもイベントごとがあるいわゆる特別な日に一緒に居ることなんてほとんどない。バレンタインやホワイトデー、お祭りにクリスマス。私の誕生日や記念日なんてもってのほか。挙げ句の果てには今日・・・退の誕生日まで。
真選組の中でも特殊な監察という職務上、退は特別な日なんて関係もなくずっと任務で、私はその度に笑って彼を見送ってきた。もちろん監察である彼のことを思えば、一緒にイベントごとを過ごしたいなんていうそんな自分勝手なわがままなことを言ってはいけないことはわかっている。私が変に引き留めたせいで退の任務が失敗してしまったら笑い事じゃない。まぁ腹が立ったから任務を入れた張本人の副長へ嫌がらせをするために沖田隊長と手を組んだりもしたけれど。

けれど付き合って初めての彼の誕生日くらいせめて一緒に祝いたくて、今日の宴会の準備だって進んで引き受けたのに。



はあ、と溜息をつきながら見回りと言う名の気晴らしが終えて屯所に戻ると、さすがに深夜1時頃ということもあり局長たちの宴会も終わっていて、さっきまでの煩さが嘘かのように屯所は静まり返っていた。


「なまえ?」


聞き慣れたその声に急いで振り向くと、そこには待ち望んでいた愛しい退の姿があった。今回も無事に帰ってきてくれてよかったと思いながらも数週間ぶりに会った退は少し痩せているような気がして心配になってしまう。けれど笑って帰ってきてくれた退を見れば、さっきまで沈んでいた気持ちが嘘の様に明るくなった。

退に会えたことが嬉しくて彼が居なかった間の出来事や主に副長や沖田隊長の愚痴を夢中で話している間にも、退は勝手知ったる場所に戻ってきたことで安心したのか少し眠くなってきた様子で黙って下を向いた。


「・・・疲れちゃったよね?ごめん、もう寝よっか」


また明日ね。と退に手を振った瞬間、私の右手はそのまま彼に引っ張られていた。


「ごめんね、今日一緒に祝ってやれなくて」


申し訳なさそうに表情を曇らせる退が何を言いたいかなんてすぐにわかった。きっと自分の誕生日を一緒に祝えなかったことに罪悪感を感じているのだろう。仕事なんだから仕方ないのに優しいなぁ、退は。


「そりゃあ、一緒に祝いたかったけど・・・、それよりも退が無事に帰ってきてくれたことが私は何よりも嬉しいよ」


私がそう返すと、退は驚いたように目を丸くさせてあはは、と声をあげて笑ったあとにそのまま私のことを抱き寄せた。久しぶりの好きな人の温もりが心地いい。


「なまえの誕生日は絶対一緒に過ごすからね」


「馬鹿、とりあえず来週のバレンタインだよ」


散々な一日だと思ったけれど、誕生日を好きな人と過ごせなくてもこうして退と過ごせるこの時間があるのなら、これから何十年先も彼を待ち続けようと私は思いました。(作文ンンンンンンン!?)


090206/210206
Happy Birthday!!

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