「わりぃな。料理、用意して待っててくれたのに」
机に乗り切らないほどの料理を目の前に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた土方さんが私へと珍しく頭を下げる。
時刻は五月六日の深夜一時を過ぎたところ。昨日は恋人である彼、土方十四郎の誕生日だった。元は非番だったため私の家でゆっくり過ごそうということになりありったけのご馳走を用意して待っていたのだが、運悪く仕事が入ってしまい、それどころかそのまま何やかんやで局長や隊士たちに誕生日を祝われ、挙句の果てに酔った上司や部下を介抱しているうちに一緒に祝う約束をしていた彼女であるはずの私の元へは日付が変わる前には来ることが出来なかったのだ。
「大丈夫ですよ。土方さんが忙しいのはわかってて私が勝手に準備してただけなので」
「いや、でも俺がもっと早く来ていたら、料理だって温かくて今よりもっと美味かったのによ」
「まぁどんな料理でもマヨネーズを掛けるなら同じじゃないですか?」
普段は決してこんな物言いはしないのだが、どうしても今日ばかりは嫌味な言い方になってしまう。そりゃあそうだ、土方さんと一緒に過ごせると思って色々計画を立てていたのに当日に会えないばかりか他の誰かを優先されたのとしたら腹が立っても当然だろう。これくらいの嫌味くらいは許してほしい。
「はぁ・・・悪かった。お前の料理にかけるマヨネーズはまた別モンなんだよ」
「それは褒め言葉として受け取ってもいいんですか?」
「当たり前だろ、これ以上ないくらいの賞賛の言葉だっての」
他人のフォローは上手なくせに自分のことになると途端に下手になる彼の謝罪はとても拙いもので、そういうところが可愛いなと思ってしまうのは結局どうあがいても私が土方さんのことを好きだからだろう。いつの間にか食事を取る二人の間には、沈黙とともに和やかな空気が流れていた。
「土方さん、」
「何だ」
「生まれてきてくれてありがとうございます」
「・・・何を急に改まってんだよ」
「私、土方さんとこうして一緒に誕生日を祝えることが本当に嬉しいんですよ。まぁどっかの馬鹿のせいで当日じゃなくなっちゃいましたけど」
素直に言うのは少し癪だったので軽い嫌味を混ぜながらも彼に言いたかったお祝いの言葉を贈ると、まさか怒っているであろう私からそんなことを言われるとは思っていなかったのか、土方さんは顔を赤く染めて、お箸を持つ手も少し震えているな素振りを見せる。すると、しばらく考え込んだあと何かを思いついたのか、顔をこちらに向けて私に告げた。
「今週の日曜日・・・日曜は絶対非番にするから。だから予定、空けておいてくれ」
「・・・ほんとに?期待してていいんですか?」
先ほど破られたばかりの約束をすぐに信じられるほど安い女ではないけれど、やっぱり好きな人の言葉は信じたいと思って当然だろう。それにさすがの仕事中毒である鬼の副長だって一週間に続けて彼女を裏切るほどダメな彼氏ではないはずだ。その証拠に、土方さんはとても優しい笑顔で私へ微笑んだ。
「あぁ。約束する」
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