その電話の後、すぐに電話を切った。また詳しいことは明日時間が取れるということで、夜に一也の家に行くと約束した。一也の家に行くのも久々の話だ。…いつかはきっと、こういう日が来るとは思っていた。あんなに才能溢れる、常に高みを目指してきた人だ。メジャーに挑戦したいと思わないわけがない。


「……メジャーか」


テレビの前の世界かと思っていたけれど、身近にそう言う話題が出てくるなんて。大学進学する前の私は想像もしていなかっただろう。メジャーに挑戦する、か。もう別世界の人みたい。…手の、届かない人になっちゃうんだ。私はそう思うと寂しくなった。



次の日、予定通り残業を少しだけして、私は一也の自宅に向かう。さすが有名プロ野球選手の家だというような、高層マンションに住んでいる。当然一般人の私なんかじゃ、一生働いても到底住めないだろうと言うようなマンションで。就職する際に、『一緒に住むか?』と言ってくれたけれど、この一也のマンションからじゃ、会社が遠かったために断った。後から考えてみれば、そうしておけばよかったななんて思ったのは言うまでもない。


「一也」
「お疲れ、綾華」
「ちょっと遅かった?」
「いや?俺もさっき帰って来たとこだし、丁度いいぜ?」
「そっか、ならよかった」


それが嘘だってわかってる。一也の髪は乾かしたんだろうけど少し濡れてるし、使った練習用ユニフォームももう洗って干してある。けれどそこは敢えて触れなかった。


「…監督とか、どう言われてるの?メジャー挑戦について」
「……まあ、お前ならどうにかなるんじゃね?みたいな、適当な感じだぜ」
「そっか…」


どうしよう、最低だ、私。『良かったね』って言えない。少年のように、キラキラと目を輝かせて笑ってる。将来に期待を持ってる人の輝きは、本当に目が眩むほど、眩しい。眩しくて、仕方ないよ。余計に、言えないじゃない。―――『行かないで』って。


「で、綾華」
「うん?」
「自己中だって、我儘だってわかってる」
「…どうしたの」
「…付いて、きてくれないか?アメリカに」


最悪の予想はしてきていた。別れを告げられるかもしれない、と。けれどその予想とは裏腹に、お誘いで。嬉しかった。素直に、嬉しかった。まさか、『一緒に来てくれ』なんて言われると思ってなかったから。でも、


「すぐに答えを出せないのは分かる。今シーズンは日本にいるし、行くとしても来年になると思う。だから、…考えて、欲しい」
「…ん、わかった」


私が『行かない』と言ったとして。もしも、『行かないで』って言ったら。あなたはどんな決断をするんだろう。一つだけわかることがある。

この恋は、あなたを引き留める材料にはならないってこと。



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