『アメリカに行くこと、考えといて』

一也にそう言われてから一週間。どうしても気持ちに決着がつかない。すぐにすぐ、決断ができない。モヤモヤとした霧が心の中を占める。気持ちはハッキリしているはずなのに、簡単に『YES』とは言えないことだからか、一向に晴れることはない。


「ちょっと、桐沢。これ、ミスしてるわよ」
「あ…すみません」


それが影響してか、仕事も良いようにいってない。『しっかりしろ、桐沢!』と肩を叩かれて、私はそのミスを見る。大きなミスなんかじゃなくって、ケアレスミスと言うやつだ。…情けない。仕事に私情を持ち込むなんて。私は何とも言えない気持ちになり、給湯室に向かった。

『結構これ、美味いのよ』と一也がくれた事がキッカケで飲み始めた柚子蜂蜜。本当に美味しくて、リピートして買っている。自分のマグに柚子蜂蜜を入れて、お湯を注いでかき混ぜる。給湯室に置いてあるテレビには、去年メジャーに行った投手が映っていた。

≪アメリカでの生活は慣れましたか?≫
≪いや、やっぱり文化の違いに悩ませられますが、チームメイトや妻など、周りの献身的な支えもあって、結構慣れてきたと思っています≫

……私は、どうしたらいいのだろう。家に帰ってもずっとこうしてボーっと考えては、最悪な結末しか考えられなくなってしまう。すると、


「!」


急に電話が鳴る。ディスプレイを見てみれば、一也からで。普段仕事中と思しき時間には絶対に電話を掛けてこないというのに。…一体、どうしたんだろう。そう思って出てみれば、


<綾華?>
「うん、どうしたの」
<やっぱり無理だわ>
「え?」
<一年も待てねえ>


唐突なその言葉が指すものは、何なのか、私にはすぐに分かった。今まで悩んでいた、あの話を指していることなど、すぐに理解できた。


「どうしたの、一也」
<今から迎えに行くから。……っつーか、>


『もう着いてんだけどな』と笑いながら言う一也の言葉は、単細胞すぎる私の脳は一向に理解できなくて。
けれど、オフィスが騒がしくなってきた。主に、女の子の黄色い声。…そのことから、何となく、予想が付いた。やることがいちいち大きいのよ。全て私が考えてる、予想している斜め上を行くんだもの。


「…一体、私をどうしたいの?」


このまま、私と一也の関係が会社にバレてしまえば、大きな騒ぎになる。きっと、会社で生き延びていくのはキツいだろう。…すると、一也はサラっと言う。


<決まってんだろ?俺と、世界一幸せで平凡な結婚すんだよ>


きっとドヤ顔をしてこんなことを言っているんだろう。…でもきっと、様になってるんだろうなあと思いながら、私は笑う。もう、笑うしかないし、なるようになれ。先程までのモヤモヤはすっかり晴れて。


「…わかった。明日退職願出す準備するね」


―――明日からの永遠の為の準備を。


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