御幸が何の気なしに放った言葉は、私にとっては物凄い一撃だった。
『プロ野球選手と報道されれば、鼻が高いよな』
その言葉は、その言葉だけは、掛けてほしくなかった。

『御幸くんが、部長で四番で注目されてるから付き合ってんでしょ?』
『顔だけで判断するとか、マジ最悪』
『みんなの御幸くんなのに、本当有り得ないわ』

その言葉は私が今まで掛けられてきた言葉で、降谷くんが制止してくれたのはきっと、あの時、あの場所にいたからだ。
そして私が、―――泣いた姿を知っているから。

でももう、あの頃とは違う。


「そうだね。プロ野球選手と報道されたら、私も自慢出来ちゃうね?」


その言葉を聞いたこの場にいるプロ野球選手の人たちにはきっと、ブーイングが上がるだろう。
実際に、怒ったような表情でこちらを見る人もいた。
けど、周りの人たちが静止して何も上がらなかった。

ああ、もう嫌。

けれど肝心の御幸は、驚いたような表情で。

…もう、あの頃の私とは違うんだよ。
何も知らない、純粋だったあの頃の私じゃない。
受け止めるだけしかできなかった私じゃない。


「ねえ、沢村くん。これ、どこに向かってる?」
「…せっ、青道っす」
「そっか」


少しでも期待した私が馬鹿だった。

もしかしたら、…もしかしたら。
昔のような関係に戻れるんじゃないかって。

馬鹿だった。
馬鹿だったよ。
やっぱりもう、修復は不可能なんだよ。


『綾華、マジで好き』
『うん、私も好き』
『このまま、ずっと付き合い続けて、いつかは結婚しような』
『…うん』


あの頃の、幸せな光景が思い浮かぶ。
あの日々に戻りたい。
そう思ったことも何度もあった。
けれど、その度に思い出すのは、あの言葉で。

私が負けてしまったから、幸せも逃げてしまったんだ。

私がもし負けてなかったら。
もし、あのまま我慢してたら。
あのまま、一緒に卒業してたら。

違った未来があったんだろうか。





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