ニ年に上がるまで私は、青道に交換留学制度があるだなんて知らなかった。
そう言えば、一年の頃にオーストラリアから留学生が十数名来てたなとは思っていたけれど、大して興味もなかったから。
多分、知らない人は卒業するまで知らないんだろう。
私が手続きをしたときにもう一人男の子がいたぐらいで、私たち二人が数年ぶりの交換留学生だと向こうで大層喜ばれたのを覚えている。
「…それよりちょっと聞いてもいいですか」
「どうかしたっすか?綾華さん」
「これってどこに向かってる?」
『綾華さん知らずに乗ったんすか?!』と驚く三人。
だって私は、御幸に連行されてきたから申し訳ないけど知らない。
すると、
「いいんだよ、沢村。コイツには教えなくて」
隣の御幸が沢村くんにそう言う。
ちょっと。
ちょっと、何なの。
勝手に連行しておいて、この扱いって何?
「…っ大人気ない人」
ボソッと私が言えば、
「大人気なくて結構」
と言い返されて。
なんで聞こえてるのと思いながらも、そう言えば、御幸は地獄耳だったんだと思いだす。
忘れてたじゃないか、御幸の馬鹿野郎。
全部を御幸のせいにとりあえずしておく。
でも私は更に言い返す。
「強制連行したくせに。これって警察駆け込めるよね。ねえ、倉持」
「俺に振るな」
「はっはっはっ、そんなに俺とニュースになりたい?」
「そういう意味じゃない!」
ああ、高校に戻ったようだ。
よくケンカしたときにはこんな会話を繰り返してた。
懐かしいな、と、そう思っていた。
次の言葉を聞くまでは。
「まあ、プロ野球選手と報道されれば鼻が高いよな?」
その言葉を聞いた降谷くんが『御幸先輩!』と制止する声が聞こえた。
まさか降谷くんが声を出すとは思っていなかったのであろうそこら辺一体の人たちは、驚いていて。
「…あはは、そっか。そうだよね」
突然笑いだし、一人勝手に納得している私を、二人は奇妙な顔で見る。
懐かしいと思っていた私がバカみたいだ。
何、それ。
御幸もそういう目で私を見てたって言うの?
その言葉を聞いて、私ももう、申し訳なかったという気持ちが砕け散った。
やっぱり私の決断は、
「私と御幸は、“あの頃からずっと”住む次元が違うもんね」
―――間違ってなどいなかったんだと思い知った。
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