ずっと御幸が羨ましくて仕方がなかったのだ。
学生時代、本当に。
彼に恋していたのも事実だけれど、どちらかと言えば、憧れの方が大きかったのかもしれないとも、思う。
憧れと恋を、履き違えたんじゃないかと。
けれどまあ、結果的には恋だったのだけれど。
御幸のように、自分の努力と才能で、自分の価値を高められる人になりたいと。
そうなりたいと、思っていた。
だからこそ、このモデルと言う仕事をしていたのだけれど。
結果的にはずっとしようという気にはなれなくて。途中で放り出した。
甘い世界じゃなかったからだ。
それに気付けただけでもよかったとは思っていたけれど。
…結果的にモデルと言う仕事をなくしてしまえば、私には何も残らないということも、日本に帰ってきてわかった。
「で?」
「…私、もう一度しようかなって思ってるの」
桐沢綾華として。もう一度、あの世界に行こうと思ってる。
どうして御幸に言おうと思ったかは、きっと彼なら、
「いいんじゃね?」
そう、言ってくれると思ったからだ。
御幸はいつだって、私の背中を押してくれた。
恋人だからとか友人だからとか、そんなものにとらわれずに、ちゃんと自分の思った意見を隠さずに言ってくれるし。
御幸ならきっと。
賛成してくれるって、思ってたから。
「楽しいんだろ?」
「うん、すごく。やりがいもあるし、きっとこれが私の生きる世界なんだと思う」
「なら綾華にはその仕事、合ってるってことだろ?」
『ならしないでどうするんだよ』と御幸は苦笑いしながら言う。
『聞かずとも、答えは出てんじゃねーか』とも笑って言った。
だから、君が好きだ。
この期に及んでもなお、私は彼に甘えているのかもしれない。
「いいじゃない。私は、御幸に聞きたかったの」
「ふうん?それだけ綾華には俺の意見が必要だってことか」
「…そうと思ってればいいじゃない」
ニヤニヤしながら御幸は嬉しそうに言う。
まあ、留学も私が相談もせずに独断で決めたし、きっと彼にも思うところがあったのだろう。
だから私は、何も言わなかった。
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