「そうツンケンすんなって、綾華」
「御幸が私を茶化すから悪いの」
「はいはい、それでいいから」
プレーはいつだって強気なのに、いつもいつも、私に対しては御幸は折れてくれる。
まあ見方によってはこういうのも強気、ともとれるのかもしれないが、こんな姿の御幸をファンが見たらどう思うのだろうか。
引いちゃうのだろうか。
それとも、もっと人気が出るだろうか。
まあ、双方共に考えられるか。
御幸は本当に人気だ。
かつてここまで人気のある野球選手はいただろうか。
しかも、捕手で。
そう思うと、少し妬けてくる。
こんなにも人気のある人を私は好きで、もしかしたら私なんかよりももっと素敵な女性が、彼の前には現れるかもしれない。
いや、この世界にいたら現れるのも時間の問題だろう。
なのに、私は捨てられないだろうか。
忘れられないだろうか。
そんなことばかり考えてしまうのだ。
「おい、綾華?」
「…ん?」
「何考えてたの」
ボーっとしてたけど、と言う彼。
いやいや、前を向いていてくださいよ、と思いながらも、本当に御幸は周りのことをよく見てるな、と思う。
私だけじゃない。
周りの些細な変化も見落とさない。
本当に、すごいと思う。
その技は、私には到底真似できない。
「こんな一般人にもいろいろと思う所はいっぱいあるんですよ、御幸さん」
「いやいや、綾華も一般人じゃないだろ」
「私なんて一般人も同然よ。少なくとも日本ではね」
『御幸に比べたら、私の知名度なんてあんまりないでしょ?』と、私が言うと、御幸は少し考えるような表情になって。
私が、『御幸?』と呼ぶと、
「…あーやっぱりさ、さっきの撤回してもいい?」
「え?」
なんて言い出す。
さっきの撤回、ってどういう意味だろう。
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