幼い頃もよくミナ兄の背中を見届けたなあと。
年上の彼に、私も追いつきたくって、同じ事がしたくって、竜也同様、ミナ兄と一緒にいる時にはひっつきもっつきだったのを覚えている。
それに、ミナ兄も子供好きだったと言うか、子供の面倒を見るのが上手かった。
そしてウチの両親もミナ兄をすごく気に入っていた。
だから、私たちもお気に入りで一緒に遊んでもらっていたのだが。
大人になるってことは、本当にそう言った過去をも超越する。
ミナ兄は今も昔も私の前を歩いていて。
私なんかよりも随分先に大人になったんだ。
そのことが子供の頃は本当に嫌だったのを覚えている。
『綾華、ミナ兄と一緒がいい』
『ミナ兄のおよめさんになるんだ』
って言ってた可愛らしい日々も、懐かしい。
そんなことを思い返している間に、どんどん話は進んでいるようで、お母さんが、
「竜也、びっくりするんじゃないかしら?」
と私に話を振る。
「そうかもね」
「何だよ、母さんも知ってたなら、教えてくれたってよかったじゃん」
「まあその理由はあとわかるわ」
お母さんはいつもいつも竜也を交わすのが上手い。
さすが母親と言うだけのことはある。
ご飯を食べ終えて少しして、スマホが鳴った。
ディスプレイを見ると、先程と同じ電話番号で。
「は、い…」
≪何でそんなにカタゴトなんだよ≫
と笑う彼に、私も笑う。
不覚にも、緊張してしまっていたから。
…やっぱり、好きな人との会話は緊張してしまうものだと改めて感じた。
≪もうそろそろ綾華ん家着くから≫
「わかった、準備してるから」
≪おー。じゃあまた後な≫
「…ん」
『また後』
そんな些細な言葉でさえも、嬉しく感じる。
今が本当に幸せで仕方がない。
顔がだらしなく緩んでいるのを見た竜也は不機嫌そうな顔をして、『姉貴キモい』なんて言う。
何でまたこんなクソ生意気な弟に育ってしまったのか、なんて思いながらも、今はそんなことどうだっていい。
だって、幸せなんだもの。
私はルンルン気分で自分の部屋に上がり、少しだけ着替えてメイクし直す。
少しでも好きな人の目に映る自分は、可愛くありたい。
そんな女の子たちの気持ちが分かるような気がした。
私はお気に入りのカバンにスマホとメイクポーチ、財布などの必要最低限の物を詰め込み、下に降りる。
すると、ナイスタイミングと言わんばかりにインターホンが鳴る。
降りて直行で、そのまま玄関に向かうと、
「よ、綾華」
「…っ御幸!」
私は御幸に抱きついた。
玄関先だと言うのに、私から抱きついた。
この行動は、本能。
それで実感した。
―――私は、本気で御幸が好きなんだと。
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