しばらく私たちは空港のど真ん中で無言で見つめ合っていた。
どちら共に声を発する訳でもなく、ただただ、お互いの存在を懐かしむかのように。

けれど、居心地は悪かった。
だって、…御幸の目は、慈愛に満ちたような。
私が受けたらいけないものを向けてくれるから。

あの頃よりもさらにゴツゴツしたなと、服の上からでも感じる。
背格好も随分大人の男性になった。
それはもう、懐かしいだなんて言えないぐらいに。


「おい、御幸!」


倉持の声で私たちはハッと現実に戻る。
けれど、御幸は私の手を離してはくれない。


「マジで綾華か…?」
「…そうだよ。桐沢綾華」
「…っ、今までお前…っ!」


その言葉の続きは言いはしなかったけれど、その表情から倉持も相当心配してくれていたことが分かった。
前日までいたのに、突然何も言わずにいなくなったら、心配するよね。
私はただ、『ごめんね、心配を掛けて』とだけ言った。
倉持は『バッカじゃねーの』なんて言って。

高校時代を思い出す。
あの頃も、常にこんな感じだったなあ。

『おい!綾華、俺のパン食っただろ?!』
『食べてないしぃ!』
『ざけんなよ!あのパン並んだんだぞ?!』
『だっから私知らない!』
『…おめぇ等少し静かにしてくんね?』

教室の一角で、私たち三人はいつも笑ってた。
倉持も高校時代と何らあまり変わっていないことに、すごく安心して。


「…再会したところ悪ぃけど、御幸。先輩達マジでキレるぞ」


どうやらその噂のバスに乗らないといけないそうで、私は救われたと思った。
再会は少し複雑だったけれども、…正直、嬉しくないと言えば違うし。
けれど、とりあえずこれで逃れられると。
そう思ったのに、御幸は私の腕を離そうとはしなかった。


「み、…御幸?」


何で離してくれないの。

私は少し抵抗してみた。
でもそんな抵抗は何にもなくって、逆に御幸はさらにさらに強く掴んできて。
それはもう、――『逃がさない』と言われているかのように。

けれどもさすがに先輩たちのいるところには連れていけないはず。
だから倉持も、『御幸』とさすがに制止していた。


「早く行くぜ」
「…え?」


なのに御幸は一向に離してくれる気配なんてなくって、もう片方の手から無理矢理私のスーツケースを奪い取って、連行される。

…嘘、嘘でしょ?
私、野球チームのバスに連れて行かれるの?!
『ちょっと、倉持助けてよ!』という視線を倉持に向けてみるも、倉持も溜め息を一つ吐いて、頭を掻いていた。
…まあ、この状態の御幸を止めることなんてできないか。

そう感じた私は無抵抗のままに連れて行かれることにした。




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