よく考えたら私はすごい人と付き合っていたんだなあと改めて感じた。
竜也なんて、今だに『すげえすげえ』って言っている。
こいつに『私、昔付き合ってたんだよ』と言ったら、どんな反応をするだろうか。
まあ、絶対に言わないけれど。
そう思いながら、ただひたすら他愛もない話して笑っていれば、インターホンが鳴る音がして、お母さんが出て行った。
すると、
「綾華」
「うん?」
「お友達よ」
『ふふふ、懐かしいわね』とすれ違い際にお母さんが言っていた辺り、高校の同級生の誰かだろう。
だが、今日、私が帰国したことは誰にも言っていない。
なのに、誰が私を訪ねてきているのだろう。
疑問もありつつも、『わかった』とだけ返事して、玄関に向かう。
そこにいたのは、
「よぉ」
「…くら、もち…」
先ほど別れた、倉持の姿で。
先ほどとは違うジャージを着ているあたり、泊まるホテルにチェックインしてから、ここに来たのだろう。
…何で、こんなことになっているんだろうか。
「御幸かと思ったか?」
「…さっき会ったうちの誰かだとは思ったけど、まさか」
御幸だと、思わなかったわけではない。
一瞬、期待してしまった部分はあった。
でも。
あんな態度をとっておいて、そんなこと、あるわけないって。
私だって自覚しているし、そんな厚かましくない。
けれど、倉持には何だか、すべてお見通しのような気がして。
隠し切れているのかどうか、分からないけれど。
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