▼ 第二幕
「今日、チェシャ猫は案内役を果たしにいくわ。この世界に、アリスをつれて。アリスを……はやく……この世界が、壊れて……。歪みを。そう。その前に。お願い……アリス。私達の、わたしのアリス。会いたい。はやく……はやく、会いたいよ。ワタシタチが狂いきってしまう前に、早く……お姉ちゃん……」
虚ろな目で呟く。
ふらりと踏み出した足を、濁った、けれど血色ではない小さな池の前で止めた。
どういう原理か、その中に映し出された、シロウサギ……いや。ユキノという少女と楽しそうに笑っているアリスの姿を見て、正気と虚ろを彷徨った目で微笑んだ。
髪を結ぶ青いリボンをほどき胸に掻き抱く。
「――お姉ちゃん。私はまだ、大丈夫だから。これがあるから、狂いそうになっても、まだ戻れる」
私の宝物。アリスがくれた大切なリボンだから。
「だけど、この世界はチェシャの言うとおりもう時間がないの。辛くとも苦しくとも、どうか」
どうか思い出して、真実を。そしてどうか受け入れて。
これは貴女が前に進むために、必要なこと、だから。
アリスと共に創ったこの世界。
唯一、私達が安らげた場所。
アリスに否定され崩れかけたこの世界を、私はここに留まることで繋ぎ留めた。
イリスと言う名を持つ、アリスの影として。
「私も、準備しないと……」
アリスを迎えにいく準備を。
prev /
next []
3/14