▼ 第九幕
シロウサギのナプキンを見つけた。これからアリスはレストランへ向かうだろう。
普通のウサギを想像しているアリスは、シロウサギがナプキンを着けたり、服に気を使っているといっても疑問しか浮かばない。
たけどその誤解に、きっとすぐに気付くことになる。
だってアリスは既に一度シロウサギを見ているんだから。
「ねぇ……あなたが探しているそのシロウサギって、ワイシャツ着てて、グレーのズボン履いてたりする?」
「するよ」
チェシャを見て、問いかけたアリスに彼はやはり淡々と答える。
「わ、私、その人なら四階で会った……! でも消えちゃって……」
「かけらだからね。もろいんだよ」
そう、あれはただの欠片。アリスはそれを辿って、たどり着かなくてはいけない。
「……どういう意味?」
問いかけに答える声はない。アリスに視線を向けられても私も答えることは出来なかった。
答えは返らないと悟り、アリスはレストランへ向かうことを決めた。
「きゃ……!」
途端、無言でチェシャの手に乗せられたものだから少し驚いてしまった。
ちなみにアリスは肩だ。
声を上げてしまった恥ずかしさから、少しだけチェシャを睨む。
「チェシャ……こういうときは声をかけて」
「そういうものかい?」
「そういうものよ」
別れを惜しむ親方とハリーを背に、チェシャは「じゃあ、行くよ」と気負い無い言葉を吐くと、被服室の窓から飛び降りた。
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