▼ 第八幕
**アリス視点**
「ねぇ、ハリーたちのところに下ろしてくれる?」
シロウサギをどうやって見つけるのか悩んだ結果、私は聞き込みから始めることにした。
誰か見かけているかもしれないし。
「食われるよ」と単調に告げるチェシャに、先程の恐怖もあって思わず口ごもる。
そうしたらイリスが助け船を出してくれた。
「チェシャ。あんまりアリスを怯えさせるなら怒るよ。少しだけ離れて下ろしてあげて。……アリスも、安心して。貴女は絶対、私が守るから」
イリスの言葉に恐怖とかそういったものが消えていく。
初めてみた瞬間からそうだ。
見た感じでは同い年か私より年下なのに、彼女は随分と大人びていて、そして何故か傍にいると凄く安心する存在だった。
イリスの言葉は何よりも信頼できると、本能に近い部分で感じる。
(どうしてだろう……?)
彼女が持つ優しくて不思議と懐かしい雰囲気がそう感じさせてるのかな? と思いつつ、イリスにお礼を言った。
ほんとに良かった。チェシャ猫だけじゃなくて、イリスもいてくれて。
「まったくおまえって奴ァ……」
「怒らないでくださいよう」
チェシャ猫に下ろしてもらってから、前方の二人にそろそろと近付く。
親方はあぐらをかいて、その横でせっせとハリーが彼に刺さった針を抜いて絆創膏を貼っているようだった。
警戒しながら、少しだけやっぱり怖くなって立ち止まりかけたとき、手にぎゅっと温もりが伝わった。
手を握って優しく頬笑むイリスがいた。
「話を聞くんでしょう?」
……ほんとにイリスがいてくれて良かったよ……。
「うん。……あ、あのう……」
「あ、アリス! それに影アリスも!」
声を掛けた途端、ハリーが嬉しそうに振り向いた。
……全然、反省していない。
というか最初、イリスのことを二人が怖いのだと思っていたけれど、そうでもないらしい。
嬉しそうな視線はイリスにも向かっていた。
二人はイリスのことも食べたいと思ってるのかな?
ただの勘だけど、そんな感じじゃない気がする。純粋な好意? なのかな?
「なんですか、どうしたんですかあ」
話しかけながら、やっぱりアリスに対してひくひくと動く鼻を見て、一歩距離をとった。
「ハリー」
静かな声が彼を制する。イリスだ。
「う……、か、影アリス。なんか怖いですよう」
「好きなのは分かったけれど、アリスを怖がらせるのはダメ」
「は、はーい。気をつけますー……」
反省の色のなかったハリーがしょんぼりと俯いて謝る。
その中で、時おりチラチラとイリスの顔色をうかがう姿は、少しだけ可笑しかった。
それはイリスも思ったのか少し怒っていた雰囲気を和らげて呆れたような苦笑を浮かべながらハリーの頭を撫でてやる。
「それならいいわ。さ、アリスの話を聞いてあげて」
「あ、そうでしたあ。なんですかアリス」
イリスに撫でられてパアァァと喜色を浮かべ、一気にご機嫌になったハリーがイリスの言葉でこちらを向く。
……なんとなく羨ましい。
「えっと……ウサギ、見なかった? 白いウサギ」
聞くのとほぼ同時に親方が視線を逸らした。
ハリーは普通に心当たりがないようで首を振るが、親方は挙動不審に否定した。
にらみ合いの末、白い生地。シロウサギが落としていったレストランのナプキンを発見した。
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