姫と呼ばれしヒト | ナノ
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 始まりのお話

リィン……――

鈴の音のような涼やかな音に、少女は顔を上げた。


「……どうかなされましたか?」

不思議そうに首をかしげていた少女は、ぱちりと瞬いたあと、次いで向日葵のような表情でにこりと笑った。

「ううん、何でもないの! それよりも、早くいこ♪」

邪気の無い笑みに先導していた妙齢の女性は僅かに表情を緩めて歩みを再開させる。


これから向かうのは、この女中にとって、気難しく畏れを抱く主の下。


ここ草摩宗家の現当主――草摩慊人の室。


「慊人に会うのは久しぶりだなぁ」

常に浮かべた呑気な笑みに、女中は思う。


あの方に会うのを心から楽しみだと思えるのは、貴女くらいですよ。


紗季宮九恵様。



……――と。








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