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な ん と い う こ と で し ょ う

朝からすごいものを見てしまった気分で朝の仕事一通りを終えたアトラは一人遅めの朝食をとっていた。イオナは洗い物を終えてすぐに洗濯物を取りに行ったから今ごろは楽しそうに外で洗濯物を干しているだろう。"ゆっくりしてて大丈夫"とイオナの言葉に甘えて……というかどうしても別の事を考えてしまいボーッとしがちなアトラの手の動きはとてもゆったりとしている。それもこれも原因はイオナであるのだが

(まさか本当にあの二人が……)

数日前の夜の、雪之丞とヤマギの言葉を思い出していたアトラ。あの時はまさかそんなイオナに限って……と思っていたが、今となっては満更でもなくなってきた。


それは先刻、まだ多くの団員たちが朝食をとっていて食堂が賑わっていた時間の事だった。少し仕事も落ち着いて、人も減り時間に余裕が出来はじめたのでアトラはイオナに後は自分がやるから先に休憩と朝食をとって後で交代しようと言って、イオナが休憩に入った時だった。

残った仕事は洗い物だけだからとエプロンを外し結っていた髪を降ろし、座れるところを探して辺りを見渡すとハッシュが一人で座っているのを見つけるとイオナは表情を変えて、いつもの上着の裾を伸ばし、髪を整え帽子を被り直して軽く頬を叩いて少し緊張した様子でハッシュの元へ向かった。


偶然運良く(悪く?)顔を上げたアトラはその一部始終を見てしまったのだ。そして近くで見ていただけに、軽く頬を叩いたイオナが「よし」と呟いたのも、髪や服を整えるイオナの表情が三日月に声をかける前の自分のそれと似ていたのにも気づいてしまったからすぐにイオナの気持ちには気づいた、がまだどこか信じられないところがあってその後も仕事をしつつアトラはチラチラとイオナの方を気にかけていた


「ハッシュ、ここいいかな」
「………イオナ?」

ハッシュの前まで行くと、イオナは少し緊張した声でハッシュに声をかけた。いつもならそう聞く前に座っているのに。

イオナに声をかけられたハッシュは顔を上げイオナを見つめ少しボーッとした後でようやく質問に応えて首を縦にふった


「…その髪……」
「ちょ、ちょっとした気分転換だよ!髪伸びてきてたからほんとはずっとね、帽子に直すの面倒で切ろうかとも思ってたんだけど折角ハッシュが褒めてくれたしこの際おろしてもいいかなって思って!」

少し照れ臭そうに話すイオナを前に昨日の言葉に“褒めた”なんて自覚のなかったハッシュは「そうとられたのか」と少し納得する一方でホッとしていた

「ど、どうかな……」
「どうって?」
「えっ…そりゃあ変じゃないかとか、似合ってなかったりしないかなーとか、客観的な感想が気になるっていうか……」

本当はハッシュにどう見られているか、どう思われているかそれだけが気になるイオナの乙女心なんて露知らず「またそんな事言って……」なんでそう心配性なのかと的はずれな事を考えながらハッシュはイオナが安心するようにと

「大丈夫だって、似合ってる」

と素直に感想を答えた

「ほ、本当に!?嘘じゃないよねっ」
「だからなんで嘘つく必要があるんだよ…他の奴がどう思うかは知らねーけど」
「で、でもハッシュは似合ってるって思ってくれてるんだよね」
「お、おー」
「いいの、それが聞けただけで十分だよ…!ありがとう!!」

イオナが今までで一番の笑顔を見せるとハッシュは少し顔を赤くして「なんだよそれ」とぶっきらぼうに一言吐いて顔を背けた。あからさまな照れ隠しだがそんなことは気にもならない様子で嬉しそうに彼の目の前でイオナはニコニコしていた。

その後は二人で楽しそうにお喋りして、朝食を食べて、別れていた。別れ際にハッシュに「頑張ってね」と声をかけたイオナとそれに応えたハッシュの表情が今でもアトラは忘れられない

(でもやっぱりまだ信じられないよ……)

"なんで急に"イオナの態度が変わったのも今日から、二人の距離が少し縮んだように見えたのも今朝から……思い当たる節といえば昨日の夜ハッシュにイオナの部屋を聞かれた事くらいだ

(ハンカチ返しに行くだけって言ってたけど

一体あの後二人に何があったっていうの―――!!)


何も知らないアトラの苦悶は続く


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