「……そろそろ戻るな」
「うん。話聞いてくれてありがとね……あっ私もどうせカップ洗いに行くし途中まで一緒に行こ!」
「えっ、別にいいけど……」
「ちょっと待って今上着を……」

そういうとイオナはいつものトップスを上に羽織っていつも通り首元まであるチャックを一番上まで閉めると服の中に入った髪をかきあげ服の外へ出した。ふわりとなびく髪が、動きが一々気になって仕方ないなとハッシュが考えていると空っぽになった二つのカップを重ねて手に持ったイオナが声をかけてきた

「ごめんお待たせしました!行こっか」
「……おう」


「……ちょっと、気になってたんだけど聞いていい?」

部屋を出て廊下を歩き始めるとイオナからそう、きりだしてきた。ハッシュが何の事かもわからないままに頷くとイオナが少し言いにくそうに続けた

「な、なんか私変、かな」
「……は?何でそんな…」
「だ、だって!部屋に来てから何回か……ハッシュ、じって見てたから…気になるんだもん……」
「…あー……」


まさか今更改めて小さなところで浮き彫りになった性差を感じていたとも言えずどう説明したもんかとハッシュが言葉をつまらせていると「ご、ごめん自意識過剰だった……?」と恥ずかしそうに、申し訳なさそうにイオナが聞いてきたのでハッシュは慌てて言葉を返した

「そんなことはっ…!いや、実際見てました……」

「や、やっぱり…へ」「んじゃなくて!なんていうか……髪、降ろしてるのが慣れないっつーか違和感が……」

「違和感ってことはやっぱ変なんじゃ……」
「んっでそうなんだよ!違ぇよなんでんなネガティブな発想になんだよ!!!だからっ!髪、降ろしてると女らしいっつーか…今までそういう目で見てなかったんだよ……」

「!!!……そ、そっか……変じゃない、なら、いいや……」

「?お……おー……?」

「あっ、それじゃ私こっちだから!!ここまでだね。おやすみハッシュ、また明日ねっ体冷やさないようにまっすぐ部屋に戻るんだよ!」

「それくらいわかって…って聞けよ……なんなんだアイツ……」

ハッシュの返事も待たずにパタパタとかけていったイオナにハッシュは疲れたように肩を落とした。さっきの反応ももっと怒るかと思っていたのに……やっぱり女心というものはよくわからない



「はぁ……思わず全力で逃げてきてしまった……」


一方全力疾走してきたイオナは食堂のシンクの前にたってカップを洗っていた。しかし意識を手に持ったカップとそれ洗うスポンジに向けられるような心情ではなかったためカップをこする力はいつもより弱かった


「バレてないかな……ううんあの誤魔化しかたじゃ絶対不思議に思われてる……はぁ……」


“女らしい”


(男の子からあんなの始めて言われた……)

ハッシュにとっては大したことのない、些細な言葉だったのかもしれない。けれどそれはイオナにとっては結構衝撃的な言葉だった。

普段周りにいる男共と言えば兄のネフリーかユージン、シノだがユージンもシノもイオナにとっては兄のような存在だし、二人も同様にイオナを妹のように思っているから“女の子”を相手にしているよりも“年下の子”を相手にしているような言動の方が多い。

オルガや三日月だってそうだ、オルガも“年下の子”を相手にする感じだし三日月は“幼馴染”もしくは“家族”以外の目で見ているとは到底思えない。

年下の子から「女は弱いから〜」みたいな事を言われたことはあるが男の子から“女の子”として見てもらえる、接してもらえるのは始めてだった

(明日どんな顔で声をかければ……

ていうかそもそもそんなに意識するような事でもないのになんで……)


洗いたての白いカップに映る火照った自分の顔を見てイオナはため息をこぼした



翌朝、少しだけ早起きしたイオナはいつも通りの時間に少しだけ重い足取りで向かった

「お、はよう……アトラ」
「おはようイオナ……!えっ!?どうしたのその髪!!」

どもりながら声をかけると振り返ったアトラはイオナを見て目を丸くした。いつもはひとつにまとめ帽子の中にしまっていた髪を、今日は降ろして両端の毛束を使って緩く編んでいる。

アトラの反応を見てイオナは少し照れ臭そうに「き、気分転換!」と答えた

「髪の量増えてきてしまうのも面倒だったし……あっもちろん料理するときはまとめるけど、先にアトラに見てほしくて……へ、変じゃない……?」
「(かっ可愛い……!)

変なんかじゃないよ、すっごく可愛いよ」
「ほ、ほんと?良かった……!」
(あ〜〜可愛いなあ……)


恥ずかしそうに、不安げに変じゃないかと尋ねるイオナも「可愛い」と伝えると一瞬で表情を明るくし、笑顔で喜ぶイオナも可愛いくてアトラは思わず口元を抑えうつむいた。嗚呼親友が今日もこんなにも可愛い。

「よかったあ……あっすぐ仕込みの手伝いするね!」
「でもどうしたの急に?」

嬉しそうにそう言うとすぐに髪をまとめ、シンクの前に立ち手を洗い始めたイオナの隣で作業をしながらアトラは尋ねた「ネフリーさん?」と付け足して聞くと「違うよ」とイオナは首を横に振った


「ちょっとした気分転換だよ」
「ほんと?」
「深い意味は無いって。これでユージンも多少子供扱いしにくくなるといいんだけどね」
「あぁ……(イオナいっつも怒ってたっけ……)」


"そんなに気にしてたんだなあ"とそれ以上深く考えることもなくアトラは作業を続けた


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