出会いと別れ 5



「それじゃあ元気でね」
「うん」
「まさかお前が出てく日が来るとはなあ…」
「成長したってことよ、笑って見送ってあげましょう」
「そう。そういうこと。リシュリも大人になったんだよ一人立ちだよ」
「何生意気言ってるんだお前は……」

“お前みたいなのが一人立ちだなんて不安だよ”と溜め息をこぼしながらドルジがぐしゃぐしゃとリシュリの頭を乱暴に撫でるとリシュリから濁った声が溢れ、それを見ていたトーヤが笑う。

あまりにもいつも通りのそのやりとりもこれで最後なのだと思うと一抹の寂しさが感じられた

今日はアラジンが待っていたキャラバンが来る日。そのキャラバンに乗ってアラジンそしてリシュリも村を離れる。今はその見送りの最中だ


ババ様とアラジンと三人で話をしたあの夜からそう何日も経たずしてババ様がリシュリたちの前からいなくなった。リシュリたちの行けない、遠いところに行ってしまったのだ


原因は煌帝国の兵が放った一本の矢。皆で火を囲んでの晩餐の最中便所に行くと行ってその場を外した後時間がたっても戻ってこないババ様を心配した村人たちが探しに行って背中に一本の矢が突き立った状態でうつぶせに倒れているのを見つけたそうだ

慌ててそれを伝えに戻ってきた村人の報告をきいてリシュリもアラジンや他の村人と一緒に走って現場に駆け付けた。駆け付けたその時には射抜かれてから時間がたっていたのか血が多く流れていて男たちが手当てのためにババ様を抱かえあげ、村へ運んでいくのを呆然と見ているしかなかった

あまりの突然のことに頭がついていかずにポタリ、ポタリと抱えあげられたババ様の体から血が落ちるのをただただ見ていた。

さっきまで普通に、いつもみたいに話してたのに、にわかには信じられなくて目の前のものが現実でないように見えてしまう中いつまで経っても治まらない動悸と呼吸をするのが苦しくなっていく感覚が現実なんだと痛いほどに教えてきた


ババ様を狙われたことで村は大きく荒れた。敵討ちを掲げる年長者たちとババ様のいいつけ通り戦争を避けようという若い衆で意見が対立してしまったのだ

リシュリはその言い争いには参加せず早く終わることを祈ってババ様の傍らにいた。正直言うと煌帝国を憎いと思わなかったわけではないはじめのうちは憎悪の感情のままに剣をとって戦おうとも考えた。それでもそれをしなかったのはアラジンが煌帝国の姫を信頼できると言ったから、ババ様が戦争を望んでいないことを知っていたからだった

確かにこの目で見た煌帝国の姫君は気丈な方に見えた。アラジンを助けてくれた時の優しそうな顔、お付きのオッサンとの会話から此方へ敬意をはらっていること、側近の少年の態度から戦うことを望んでいないこと

その事を思い出し今ここで戦うことをえらんでも双方とも犠牲と悲しみが余計に生まれてしまうだけだと自分の気持ちを押さえつけた。それでも、あの言い争いの中に参加してしまうと自分の意思が揺らいでしまいそうでリシュリは参加せずに見守っていた

「早く終わらないかな」

そうリシュリが呟くと一緒にババ様が目を開けるのを待っていたアラジンが悲しそうに「おばあちゃんの大好きな村が大変なことになっちゃったよ……」と不安げにババ様に語りかけた


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