月光の子守歌【宮牧】
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宮牧事後注意

それはゆるゆると、舐めるように西を目指していた。
薄い毛布一枚を引っ掛けて窓辺に立つ。
流石にまだ肌寒い。
でもそんなことを気にする余裕は、今の自分には無かった。
自らの光が放てないそれらは、まるで自分のようだと、そして直ぐに自分とはかけ離れているものだなと自嘲した。
私はあんなに輝けない。
光さえ、失ってしまった。
否、もとから無かったのかもしれない。
彼等はみんな私に光を求めてやってくる。
だがそんなのお門違いだ。
私は黒く塗りたくられた仮面を顔に貼り付け、張りぼての笑顔を繕う。
無慈悲にも慈悲を与え、涙を流した。
そうしていれば、みんな気が済むのだ。
所詮ただの男。
そんな私を、彼は愛してくれた。
ふと振り返れば、すぅすぅと寝息をたてている自分とそっくりな弟がいた。
目を瞑って、大人しくしている彼は、なるほど双子なのだなと気づかされた。
近寄って、しゃがみ顔を近づける。
まるで鏡だ。
黒子の位置が正反対に在ることも、彼を鏡へと近づけた。
ふに、と頬をつつく。
起きる気配はない。
一見眠りの浅そうな彼だが、日々の疲れを一気に取ろうとするのか、割と眠りは深い。
ふにふに。
こんなことをしたって起きないのだ。
髪の毛に触れ、優しく撫でる。
まるで半身を労るように。
ちゅ、と触れるだけのキスを落とした。

「司郎」

思わずにやけてしまった自分の顔を両手で押さえた。

「…起きてたんですか」

ぱっと手を離して見てみると、半身は目を覚ましていた。
まだ眠そうに、とろんと目尻がたれている。
とてつもなく愛おしく感じた。

「起こしてしまいましたか?」

しゃわしゃわと優しく頭をなでる。
その手はやがて彼に捕まえられ、彼の口へと運ばれた。
指が唇に触れる。
緊張した。

「あんなことをしたのに、まだ強ばりますか」

彼は笑っているようだった。

「恥ずかしいものは恥ずかしいです。」

手は彼の好きなようにさせた。
ぴとりと彼の頬にあてがわれ、体温が伝わってくる。
今まで窓辺を撫でて冷たくなった指先が、彼によって溶けていくようだった。

「足も冷たいんじゃないですか」

入れ、とばかりに布団を持ち上げられたので、こくんと頷き甘えた。

「おじゃまします」

ぎしりと1人分の体重に耐えるようベッドがないた。
つま先にも彼の手があてられる。

「冷たい」
「はい」

ゆっくりと時間が流れた。

「でも、司郎の温かさが余計に感じられて、いいですね」

ふくく、と司郎は喉で笑った。

「あっためてあげますよ。何度でも」

ゆるりとベッドに押し倒される形で抱きしめられる。
顔を横へ向けると、私とよく似た、でも全然異なるそれが目に入り、自然と口元が緩んだ。

「牧野さん」

ゆらゆらと窓の外を指差す。

「月が綺麗ですね」

ぱちりと目を合わせ、それからゆっくりとキスをした。


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