2011/07/18 23:27
▽酔っ払い(SS/ぬら孫・牛頭丸)



※デフォ名:名無
※少し破廉恥かもしれない。



「おい、名無」
「んー?」
今夜も宴会騒ぎな奴良組本家。知らない妖怪もいるし騒がしいしお行儀が悪くて見ていられないけれど、夕飯が兼ねられているそれに参加しなくては腹は膨れない。本家預かりとなっている私達牛鬼組も同じように酒とつまみと、と口に運んでいた。

「なあに?牛頭」
「ちょっとこい。連絡だ」

連絡、なんて言葉を使うってことは組に関してのことか?私はもっていた箸をおいて腰を上げる。まだ辺りは煩いしあっちで席を立ちこっちでもみくちゃになり、としているせいで私達が部屋を出ても特に目立ちはしなかった。出る時に馬頭丸を探すと小妖怪にちょっかいをかけて遊んでいるのが視界に入る。あまりはしゃぐなと一言いっておけばよかったかもしれない。

「牛頭、馬頭はいいの?」
「…アイツはいい」
「ふぅん…」

ふわり、牛頭のマフラーが揺れた。私には伝えて馬頭にはいいってどんな連絡なんだろう。もしかしてもう話してあるのか。そんな様子には見えないけれど若頭の考えるところに特に文句をつけるつもりもないので黙って牛頭丸の後ろを歩く。やたらと長い廊下を通って何回か曲がったあたりで牛頭は足を止め、私の方へと振り返った。一体何を伝えられるのか。少しだけ身構える。

「名無、……手」
「はい?」

手のひらを上にして差し出される彼の行動に私は拍子抜けた。手、ってなんだ手って。私は犬か。
それとも私の手に興味でもあるのか。こんなところで?牛頭丸の突拍子もない行動に私は混乱したのか、眉間に皺を寄せ思わず手のひらを牛頭に向けて出してしまった。

「なんでそうなるんだよ…」

私よりも眉間に皺を寄せて牛頭は私の手を握る。するとまた前を向いて歩きだした。牛頭に引っ張られるせいでさっきよりも牛頭との距離が縮まった。これってもしかして…

「牛頭…、酔ってる?」
「酔ってねーよ」
「ウソ。だって手あったかい」
「いつもこんなもんだろ」

そういって牛頭は握った手にもっと力を込める。少しだけ歩調も速まって私はつい小走りになってしまった。絶対酔ってる。だって連絡なら辺りに他の気配がなくなった時にすぐに伝えればいいし、よく考えればあんな宴の途中に呼び出すことなんてない。牛鬼様がいらした訳でもないのにすぐ伝えるような連絡が来るはずないんだ。
多分、道からして牛頭と馬頭の部屋に向かってるんだろうけど一体何のつもりなんだろう。牛頭が酔っぱらうことなんてめったにないから行動がまったくつかめない。


「ねぇ、牛頭…?」
月の光が明るいおかげで牛頭の顔がよく見える。まだ眉間に皺はよったままだけれど別に不機嫌そうな顔ではなかった。

「なんだよ」
「…連絡って?」
「はぁ…。お前気づいてんだろ」

ホントは連絡なんてないって。そういって牛頭丸は少しだけ私の方に顔を向ける。いや、そんな気はしてたけどまさか本当にないとは。じゃあ、なんで私はあそこから連れ出されたんだ。なんで今牛頭の部屋に向かっているんだ。
がらりと障子が開くと自分の部屋でもないのに見慣れた部屋が目に入る。綺麗に整頓されているのはそういう事に煩い牛頭のせいだろう。端に畳まれた布団も牛頭と馬頭の分、きっちり並んでおいてある。

「ご、牛頭…?…って、うわっ」

私の声には応えず牛頭は畳まれたままの布団の上に私を投げた。いくら布団とはいえ畳まれているからそれなりに固い。そして痛い。いきなり何をするんだ。咄嗟に閉じた目を開けると目の前に牛頭の顔があった。ち、近い近いッ…!

「名無」
「一体なんのつもり…、んっ」

まるで黙っていろとでもいうように牛頭丸は私と唇を合わせる。重ねてすぐ離れたが続いてぺろりと舐められた唇に驚いて口を開くと当たり前のように牛頭の舌が入り込んできた。コイツ…ッ!


「んっ、んんっ…」

髪に手を差し込まれて、かき乱すように手を動かして、何度も頭の角度を変えられて、
牛頭の短い息継ぎを挟んでまたすぐ唇が重なる。私の髪はぐちゃぐちゃだし唾液だってお構いなしに垂れてるし、ていうか牛頭のバカが故意的に自分の唾液流し込んでくるせいで唾液が口の中に溜まる。やられっぱなしも気に食わないからなんとか腕を動かして牛頭の髪紐をほどいてやった。崩れ落ちる髪の毛が唾液で顔に張り付く。

「はぁ、…んっ」

すると牛頭の顔が離れうっとうしそうに自分の髪をかきあげた。私は口内に溜まった唾液を吐きだすわけにもいかず飲み込む。その間にも牛頭の手が私の首を撫でてもう一度髪に手を差し込んできた。逃げようと動いた拍子に自分の服が普段ならあり得ないずれ方をして私の視線が下を向く。くそ、牛頭ってばいつの間に私の腰紐を…!

「…ご、ずッ…。酔って、んっ…る、でしょ」
「酔ってねーよ」

嘘つけ。だってこんなにも口の中が酒臭いっていうのに―――…。

私の頬をなでる牛頭の手のひらはやっぱりまだ温かかった。





ちょっぴり破廉恥な牛頭丸たんなお話。






「……んおッ!?な、なんで名無がこんなところに…はっ!」
まだ日が昇りきらない朝、ふと目を覚ました牛頭丸は目の前にいる自分の側近の顔で脳を一気に覚醒させた。酒に浮かされた行動だったが自分がやったことはしっかりと覚えている。乱雑に引いた布団の上でシーツも乱れっぱなし、掛け布団もまともにかかっていない。名無の向こうに散らかした二人分の服が見える。馬頭丸も帰ってきていなかった。大方あのまま広間で寝ているのだろう。

「あー、やべー…。怒られそうだな…」

怒られたからどう、というわけではないのだけれどいかんせん自分が悪いのは確かだから気が重い。牛頭丸は目前で暢気に寝息を立てる名無を見つめた。妖怪のくせに無防備を極めた名無にため息をつく。伏せられている睫毛が持ち上がる気配はまだない。

「…くそッ。まだ起きんなよ…!」

ガシガシと頭をかき意を決したかのように生唾を飲み込む。半身を起して名無の上に身体を折り曲げた。小さく、小さく呟いた言葉は相手に届くことなく部屋に消えていく。恐らく自分以外の誰にも聞かれていない。掠めるように自分の唇が名無の瞼を撫でると恥ずかしさから熱が顔に集中した。昨夜はもっと激しく唇を合わせたというのに。酔っていても記憶は確かなもので、それもつい数刻前のことだ。蘇る映像はひどく鮮明で更に牛頭丸の熱を上げる。
しかし、酒に酔っていたのは本当だが酒で理性が外れただけだ。誰でもよかったってわけじゃない。再び布団に身体を沈める牛頭丸の髪が名無を撫でる。

「名無」

さっきよりも詰めたその距離を自分の腕でゼロにした。触れ合う肌にまた恥ずかしさがこみ上げてきたけどそれよりもこの余韻に浸っていたかった。牛頭丸は、あと半刻日が昇るまで、と自分に言い聞かせまた目を瞑る。


半刻経つよりも先に馬頭丸が騒ぎたてるのも知らずに。





側近と牛頭たんが恋愛関係にあったのか、これが初めてなのかはご想像に。牛頭たんって酔ったらどうなるんですかね―。よくわかりません。


最初は「だって酒臭い――」ってところで「あーキスされたんやー」ってなるハズだったのに途中でそんなものすっかり忘れてでろでろに描写をいれてしまった。ちょっとかっこつけた小説になるハズだったのにー。

牛頭たん可愛すぎてどうしよう。






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