2011/07/17 16:37
▽未熟者(SS/ぬら孫・黒羽丸)


※デフォ名:名無
※夢主白狼天狗





「つっ…」
ぎゅっと自分で縛った包帯に力を込め過ぎたか、ツキンと痛み声を漏らした。しかし利き腕の傷というものは手当てがしにくい。否、利き腕に傷を負わせる自分がまだまだ未熟なのだ。先日、無所属の妖怪がこそこそと悪さをしていたのを若に報告すると私達に任せると仰せつかり、私達――三羽鴉さまと一緒にお灸を添えたのだがその時に怪我を作ってしまった。無所属とはいえ相手も妖怪。注意はしていたのに私もまだまだ半人前で嫌になる。もう何百年と奴良組にお世話になっているというのに未だこの有様だ。

「はぁ…」
薬箱に消毒液や包帯のあまりを片す。重く吐いた息は畳を這った。自分の未熟さに漏らした溜息は数知れず。いつまでたっても三羽鴉さん達にお世話になりっぱなしだ。自然と落ちた視線に映る自分の胸元。手当の為に着物を脱いだのでさらしに巻かれた貧相な胸がそこにあった。ぐっ…この胸ももう育たないのか…。体は百年くらい前に大人になったというのに胸の大きさはもう百何年以上このままだ。
しかし未熟なのは胸だけではない、力だけではない。己の心もまだ弱いから足手まといになってしまうのだ。もっと強い心を持って修行しなければいつまでたっても成長せぬ。

「もっと鍛錬に励まなければ…」
「鍛錬もいいがしっかりと休息もとれよ」
ぽつりと漏れた独り言に言葉が返ってくる。ハッと顔を上げると障子の向こうに人影があった。隠している訳でもない気配に気づかぬとはこれまた未熟者!

「入っても平気か?名無」
「あ、…はい大丈夫です!」
始めの声で相手はわかっていた。三羽鴉さんのご長男、黒羽丸さまだ。私のような下っ端が黒羽丸さまをお待たせする訳にはいかないと咄嗟に返事を返してしまったが、しまった、私上着てない!

「名無、先日の件で…ってお前!」
「わ、うわ、すみません、黒羽丸さま!こ、こんな失礼な姿で、あ、う、上!どこに脱いだっけ」
「は、早く服を着ろ!」
「すみません!えっと、あ、あった」

脱ぎ捨てられた服を拾って頭からすっぽりとかぶる。が、急いで着たせいで腕を思いっきり動かしてしまい、途中で傷の痛みに動きが鈍った。っつー…痛い。あまりの痛さに腕を通さず悶絶していると後ろから黒羽丸さまに声をかけられる。

「大丈夫か…名無?」
「はい…。お見苦しいところを、すみません…」
「先日の傷か」
黒羽丸さまに背を向け痛みにこらえているとすぐ後ろに黒羽丸さまが膝をつけたのがわかる。こんな失礼な姿で黒羽丸さまの近くにいるなんて、申し訳ない。

「く、黒羽丸さま、すみません。こんな姿で」
「…いや、俺も動揺して…すまなかった。傷は大丈夫か」
すっと背中を撫でられる。少しだけひんやりとした指先に背筋がちょっとそわそわした。

「だ、大丈夫です、黒羽丸さま!それより私に用とは…」
「あぁ…。…いや、お前の傷の方が心配だ。着替えに支障が出るほどの傷なんだろう?もっとちゃんと手当をしないと」
「そんな、お気になさらないでください。私は白狼天狗です。下っ端のことなんて三羽鴉の黒羽丸さまがお気になさることではありません」
「そんなもの関係ない。お前だって大事な奴良組の一員なんだ。心配するのは当たり前だろう」

くるりと体を反転させると思ったより近くに黒羽丸さまがいて、咄嗟に体を後ろに引く。な、なんでこんなお傍に…!少しでも動かせば膝がぶつかってしまう。

「く、黒羽丸さま…」
黒羽丸さまは焦る私なんて気づいてないかのようにこちらへ手を伸ばす。腹部にある小さな傷をなぞられ思わず肩が跳ねた。しかし黒羽丸さまの指は私から離れない。

「…名無、こんなに傷を作って…こっちもしっかり手当てしろ」
「で、でもこんな傷どうせまたすぐ増えるので傷薬がもったいないです!」
「だめだ。お前は女なんだからもっと身体を大事に…」
「お、男とか女とか関係ありません!」
確かに私は女だけれど天狗様に仕える白狼天狗。鴉天狗様さまに仰せつけられた日から私は三羽鴉さまの為に体をはって役に立たなければいけない。……実際はあまり役に立ってないけど。
でもこんな下っ端が三羽鴉さまとお仕事ができるのだ。こんな小さな傷に構ってる暇があるのなら修行に専念し少しでも力をつけたい。
そんなことを考えて黒羽丸さまを見ていると黒羽丸さまは訝しげな視線のまま私と目を合わせた。

「黒羽丸さま…?」
「名無、動くな」
「は、はい!」
黒羽丸さまが何を考えているのかは分からなかったが私はすぐに返事をする。まさか敵襲かと思ったけど辺りにそんな気配はない。大人しくぺたんと座っていると黒羽丸さまは私の背中の向こうへと手を伸ばした。う、まだ、服ちゃんと着てない。黒羽丸さま近いです…!

カタンと音がして黒羽丸さまが私の前に座り直す。その手には傷薬が握られていた。って…

「黒羽丸さま!おやめ下さい!黒羽丸さまがそんなこと!」
「いいから大人しくしていろ」
「ぐっ…」
黒羽丸さまに傷の手当てなんてこんなことさせるわけにはいかないのに黒羽丸さまの命には逆らえない。仕方なく黒羽丸さまの指が自分の腹を撫でるのを見ていた。時折、生傷に触れチリっとした痛みに声が漏れる。は、恥ずかしい…。


粗方の傷に薬を塗り終え満足したのか黒羽丸さまは軽く身を引いた。やっと緊張が解け私は溜息を洩らす。

「名無」
「…はい」
「背中もだ」
「大丈夫ですからおやめ下さい!」
再び身を乗り出す黒羽丸さまを全力で押し返す。全力といっても相手が相手だけにあまり乱暴にできないのだけれど。

「名無、大人しくしていろ」
「黒羽丸さま、さすがにこれ以上は勘弁して下さい!」
「そうしたらお前は傷を放っておくだろ」
「では自分でやりますから!」
「背中の傷をどうやって自分でやるんだ」
「ど、どうにかして……ひぁっ!」

私が力をいれておすので黒羽丸さまも力を込めて押し返してくる。しかし傷のある腕と中途半端に着た服のせいで力のバランスが崩れ私は後ろに倒れてしまった。ってあれ…。

「…名無」
「く、黒羽丸さま…」
ど、どうするべきか。目前には黒羽丸さま。私の顔の両脇には黒羽丸さまの腕。なんて不埒な…!

「ぶ、不躾で申し訳ありません!ですからどうか早く起き上ってくださ…」
「名無」
「はい!」
早くこの状況を打開したくとも黒羽丸さまが私の真ん前にいては動くこともできない。それにこんな近くに黒羽丸さまがいると胸がドキドキと高鳴って苦しい。だから早くどいてほしかった。しかし黒羽丸さまが私の言葉を遮り名前を呼べば私は従順に返事をしてしまう。これは三羽鴉さまに仕える私に染みついた反射だ。

「もっと身体を大事にしろ。お前は女なんだから」
「ですから、黒羽丸さま。男や女は関係ありません。私は三羽鴉さまに仕える…」
「いや、お前は俺の大事な女だ」

黒羽丸さまの息が私をくすぐる。今、黒羽丸さまはなんとおっしゃった…?一体どういう意味だ?先程にもまして激しく脈を打つ心臓。顔や耳に熱が集中してあつい。

「名無」
「く、黒羽丸さま…それは…」
「お前、意外と鈍いのか?」
「ち、違います!そうではなくて、私は下っ端の白狼天狗です!身分が違いすぎる上に私はまだ未熟者!こんな妖怪を黒羽丸さまが気にとめていただくなど!」
「…そんなことを考えていたのか」
「そんなことといえるほど軽いものでは…」

黒羽丸さまの手のひらが頬に触れ、思わず言葉を切る。触れられたところが余計に熱を持った。

「お前は、どうなんだ」

まっすぐに向けられる丸い目にとらわれてしまい視線をそらせない。私がどう思っているか、なんて。そんなずるいこと言わないでほしい。第一私は三羽鴉さまに仕える白狼天狗でそんな恋愛感情なんて…

「名無」
「はい」
「答えろ」

うっ…と短い声が漏れた。黒羽丸さまがこんな強要なさることなんて普段ないせいで余計に焦りが生まれる。こんなこと、といえるほど軽いことではないが動揺してしまい、更にそれを隠しきれない自分の未熟さをまた痛感した。

「黒羽丸さま、私は、」
頬に添えられた手に自分の手を重ねる。私と違う男の人の手。

「私は三羽鴉さまに仕える白狼天狗です」
「だから…!」
「三羽鴉のお三方は私にとっての主であり、お慕いしております。もちろん、黒羽丸さまも…」
「俺は…そんなつもりで言ったんじゃない…」
「黒羽丸さま」

熱に浮かされすぎたのか目頭に熱が集中し、ふるふると視界が揺れた。眉間に皺を寄せる黒羽丸さまの顔がぼやける。そんな辛そうなお顔をなさらないでください。私はどうしたらいいかわからないじゃないですか。未だ胸はどきどきとして苦しいし何をすればこの苦しさから解放されるのかもわからない。生きている時間くらいはそれなりにあったから知識もあったつもりなのにこれまでも未熟だったとは。これからは勉学にも励まねばなりません。重力に負けた水が目の端からこぼれて伝い落ちた。

「名無…」

ゆっくりと重なる唇に私は目を伏せた。
未熟者の私はこの感情の名をまだ知らない。








黒羽丸様がカッコよすぎて困る。しかし黒羽丸様の眼の色は何色なんですかね。アニメのOPは赤だった気がするんですけど画像検索すると青とか黒とかある。なんやねん。
3つの翼の黒羽丸様がカッコよすぎてどうしようってなりました。ホントどうしよう。てか三羽鴉様がかっこいい。奴良組が仕切るシマさー
白狼天狗は木の葉天狗っていったりもするらしい。うん、まぁ、犬走から。犬パシリかわいいよね。





でも一番は勇者さん。←






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