2011/07/10 10:51
▽初めての護衛1(SS/ぬら孫・昼若)



※デフォ名:名無



それはそれは暑い朝だった。起きてみると、はしたないことに布団は蹴飛ばし少しでも涼しい場所を求め襖側へと体が移動していた。そのくらい暑い朝だった。
ペタつく寝巻を脱ぎ棄てるように着替えて、顔を洗い朝餉の支度のため台所へ向かう。



「おはようございますぅぅぅー…」
「おはよう。…大丈夫?雪女」

私が支度をはじめてそう経たずに後ろから声がかかる。同じく朝餉の準備の当番の雪女は暑さのせいかくらくらと頭を回し覚束ない足取りで私の隣まできた。冷凍庫から保冷剤と袋に詰まった氷を渡すと雪女は少しだけ顔をほころばせる。

「だ、大丈夫です…。少し氷を貰えばあぁぁ…」
「…今日の昼はもっと暑くなりそうだけど」
「はひっ…」

きゅう、と私が渡した保冷剤をもって雪女は目を回す。こりゃ、今日は一日日陰で安静だ。



「という訳で、若。今日は僭越ながら私が若の護衛についてゆきます」
「うん。つららは大丈夫そう?」
「大量の氷と水を桶に張っておきました。冷凍庫にもまだ氷はありますし屋敷の中でも特に日の当らない場所に連れて行ったのでおそらくは大丈夫だと思います」
「よかった」

そういって若はほほ笑む。その笑顔につられて私の口角が上がった。雪女を心から心配なされているのだろう。大事な仲間の事を心配してくれる若のお気持ちが自分の事のように嬉しかった。


「そういえば名無が僕の護衛に着くのは初めてだね」
「そうですね。私もやっと若のお傍でお力になれます!奴良組の一員として立派に護衛を務めて見せます!」
「はは、ありがとう。あと、外では若、は無しだよ?」
「はっ…、すみません。では、リクオ様。急がなくては電車に遅れてしまいます」
「うーん…様付けもちょっとなぁ…」

少し苦笑いをしているリクオ様の腕を引いて駅までの道を急ぐ。今日は本当に暑い。駅に着くまでに汗が首や背中を伝い落ちる。それは若も青も同じようで額や首に汗が光っていた。

「わ…、じゃなくてえっと、リクオ、くん…?」
「うん、それでいいよ」
「汗をお拭き…」
「しなくていいよ!」
伸ばしたタオルハンカチを持つ私の腕を若はそのまま私に押し返す。でもそのままではきっと気持ち悪いのでは…。

「自分で拭くから!それに電車がくれば涼しくなるし大丈夫だよ」
「そ、そうですか。すみません、出過ぎた真似を…」
「名無はホントに世話を焼くのが好きだね…。名無、電車は初めてでしょ?」
「はい。動いているのを見たことはありますが実際に乗るのは初めてです」
「じゃあ、はぐれないように気をつけて。人がごっちゃがえしてるからさ」
「はい!リクオ、くん、から、離れないように気をつけます」
「まだ、やっぱ慣れないか。呼び方」
「はい…」

うう、早く慣れなくては。しかし、若は私達の総大将となられるお方。その方にこんな尊敬のかけらもない呼び方に慣れてしまうのも気が引ける…!青はもう慣れているのだろうか、と彼に視線を向けるがヤツは暑そうにシャツをばたばたと動かしてどこか遠くを見ていた。貴様はもっと若に気を使え!

「ほら、名無。電車きたよ」
「は、はい!」
私が青を睨みつけてる間に電車が到着し、その場にいた人間達が一斉に動き出す。その波にもまれながら私は若の後ろをついて行った。


「わっ…、ホントに涼しいんですね…」
「ふふ、ほら名無。まだ人が乗るからもっとこっちきて」
「は、はい!」
電車、にはもう沢山の人が乗っていて、でもこんなに人がいるのに暑さを少しも感じさせないほど涼しかった。そして後ろから次々と押し込まれる人に押されて躓く前に若に手を引かれる。あぁ、若の護衛なのに若の手を煩わせてしまうとは…!自分の不甲斐なさに顔をしかめると若はくすくすと笑っていた。もっと精進します…。



「…名無?」
「…?なんでしょう、り、リクオくん」
電車に揺られて少しばかり時間が経った頃、外を眺めていらした若が突然私の名を呼ぶ。いきなりだったので若とお呼びしそうになったがそれを呑みこんだ。その代わりに名前に少し詰まった。

「寒い?」
「えっ、そ、そんな」
「だって…」
つい、と動いた若の視線の先には若の腕とそれに触れる自分の腕。夏服のせいで露出された肌がぴったりとくっついていた。それになんだか全体的に自分の体が若の方へと寄っている。しまった、冷房で身体が冷えたのに気づかず無意識に若の体温を頼りにしていたなんて…!

「わ、わわわ、すみません!若、あ、いや、リクオくんの体温を当てにするなどこんな無礼を…!」
「そんなに慌てないでよ。全然無礼なんかじゃないから。それに僕もちょっと肌寒く感じてたし、」
名無が良かったらもっと近くに来てよ。なんて私の顔の近くで笑う若に自分の胸奥がかき乱された。あわあわと慌てる私に今度は若からぴたりと私の横にくっつく。何故か激しさを増す動悸に眩暈がしそうだった。わ、私は若の護衛…早く常の状態を取り戻さねば…!暢気に欠伸なんかしてる青を睨みつけると青は欠伸を噛み殺す。



「名無は純情だなあ…」
「リ、リクオくん…?何かおっしゃいましたか…?」
「いいや、何にも。次で降りるからね名無」
「はい!承知です!」



(初めての護衛)

つづく。おそらく。きっと。もしかしたら。








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