2011/06/07 10:25
▽トアル村のとある姉弟4(SS/黄昏)




「リンクーっ!」

藁を運び終わり一息ついたような仕草を見せた弟に声をかける。するとリンクは勢いよく振り返った。

「姉さん!」

私の姿を確認し、リンクはそのまま私の方へ走ってくる。
声をかけた私も私だけれど、まだ仕事中なんだからファドに一言かけるとかしなさい。


「どうしたの?俺がいなくて寂しくなった?」
「そんなわけ無いでしょ。コレ、お弁当忘れてった」

柵越しに向き合いリンクにお弁当の包みを渡す。せっかく作ってあげたのに忘れていって。
まぁ今日は朝、届け物が来てバタバタしてたからしょうがない気もするけど。

リンクは一度大きく驚くとそれからとても嬉しそうにお弁当を受け取る。


「ごめんね、姉さん。ありがとう」
「どういたしまして」

そんな嬉しそうな顔をされると作った方まで嬉しくなってしまう。我が弟ながら可愛い奴め。
すると何を思ったのかリンクは私の手を片手で掴む。


「姉さんも一緒に食べる?」
「え、お弁当はリンク一人分しかないよ」
「でも元が結構量あるし、」
「だってリンクいっぱい食べるじゃない。それに私今お腹空いてなくて」
「あ、もうお昼ご飯食べちゃった?」
「ううん。お昼はまだ。でも今朝もらった苺でジャムを作ったから」
「味見してたらあんまりお腹空いてないんだ」
「…そうです」


朝の届けものは知人からの箱一杯の苺だった。そのまま食べても十分甘くて美味しかったのだけれどとても食べきれないから分けてジャムにしてしまった。
途中味見と甘い香りにつられて何度かスプーンを掬ってしまった為今はあまり食べる気にならない。


「どうりで。姉さん甘い匂いがする」
「ホント?部屋の中にも立ち込めちゃって。もう匂いだけでもお腹いっぱい」


そう笑うとリンクは顔を近づけてきて犬の様に鼻を鳴らす。ちょ、ちょっと、っていうか大分、近い。

「リ、リンク。恥ずかしいからやめて…」


捕まれてない片手でリンクの体を押すがそれに反比例するかのようにリンクの顔が近づく。くんくんと髪にリンクの鼻が触れた。近い、近いってば。

「姉さん、甘い匂い…」
「だからジャムのせいだって──…」

ちゅっ
急に目の前に青が飛び込んできた瞬間にしまった、と思った。しかしそんなのはもう遅く気付いた時には唇は離れていて、更に私が体を引く前にぺろりと唇を舐められる。

「味見。でもやっぱり唇だけじゃわかんないね」
「っリンク!!」

思わず手をあげるがリンクが私の腕を引いたのでバランスが崩れ平手は体当たりに変わった。でもリンクはびくともせず柵越しに私を受け止める。ちくしょう。
ていうか私、逆に捕獲されてる気がする。柵が少し食い込んだ。


「はは、姉さん顔真っ赤。苺みたい。姉さんもジャムにしてあげよっか」

俺がどろどろに溶かしてあげる。
顔の横で吐かれる息が耳をくすぐった。は、破廉恥…!


「この、変態っ!」
「えー心外。俺と姉さんってそういう関係でしょ?」
「ふざけないで。もうさっさと仕事に戻りなさいバカ!」


パンッと小気味のいい音をさせてリンクの胸板を叩くとリンクは笑って私の腕を離す。

「そうだね。そろそろ戻らないと」
「……全く、もう」
「姉さん、行ってらっしゃいのキスは?」
「しないわよ!さっさと行きなさい!」


ぐぐっとリンクを押すとリンクは笑ったまま牧舎の方へ走っていった。片手にもったお弁当箱を揺らさずに走るのはどうやってやっているのかわからなかったけどちゃんと気を使っててくれるのが嬉しかった。
「…ほんっとにしょうがないんだから」



牧舎の前で手を振るリンクに手を振り返して、私は自分の家に足を進める。


「イチゴケーキでも、つくろうかなあ」






人目も気にせずいちゃいちゃ。







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