君の名は 白い肌、すらっとした手足、切れ長の目、整った鼻筋、薄い唇。春だってのにファーコートを身に纏うそのファッションセンス。正直最後は微妙だが、それをカバーする顔面の力──… バイト先であるコンビニに突如として現れたイケメンに釘付けにならないわけがない。私は年頃の娘である。 はあ。レジに向かってくる姿もかっこいい。 「あ、あとコーヒーも」 財布から小銭を取り出す姿も 「ありがとう」 袋に詰めた商品を受け取り去っていく姿も、タメ口が気にならないほど美しい。 クレッシェンドもデクレッシェンドもムラなく全て美しいなんて世の音楽家達もビックリだろう。 ちなみに私の音楽の成績はずっと2だ。 彼の名前は一体。年齢は。職業は。性格は。 店員に礼を言う時点でそれなりにしっかりした社会人だと思う。 どうしよう、優しくエスコートしてくれるタイプだったら。 仕事は出来るけどそれを鼻にかけないから周りの人から信頼されまくっていたら。 仕事のときはきっとスーツだから服装のことは気にされないだろうし。 また来てほしい。できれば常連になってほしい。 次の日全く同じ格好をしている男が、えらく楽しそうに男の上でジャンプをしているところを見てしまった。 加えて、「彼女にしたいけど、君、タイプじゃないから、帰れ」という何からつっこんで良いのかわからない発言。 理想と現実。 幻滅した、最低じゃないか。 しかし冷めたと思われたものが、私の腹の底の方がじわじわと熱くなっていることに気づく。 なんだこれは。 「たまらん」 口から勝手に出てきた言葉。それに反応するかのようにイケメンはこちらを振り向く。彼の目には私のアホ面が映っているんだと思うと少し申し訳なくなる。 しかし、恋はどうやら人を狂わせ冷静な判断力を失わせるらしい。 「好きだ」 脚が勝手に動き出す。 「刺さった」 彼の手を取る。 「君の名は」 それは、映画のタイトルだ。 [mokuji] [しおりを挟む] ×
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