能天気な太陽


※男主




「折原って部活やってないよな?」

久々に参加した体育の授業後の更衣室。突然大した関わりもないクラスメイトに話しかけられ、思わず嫌悪感を丸出しにしそうになった。

「……ああ、特には」

「やっぱパルクールっつーの?ああいう全身使う方が身体締まるのかな」

誰かに裸をジロジロと見られるのは流石の俺でも堪える。
隠すように赤いTシャツを着た。

「あ、悪い。ガン見しすぎた」

「君変わってるね」

「そぉか?」

「うん」

アホっぽい喋り方も、能天気そうなこいつの思考回路も勘に障る。

「折原さあ、俺の名前わかる?」

「……」

「俺そんな影薄い?みょうじ!みょうじなまえだよ!」

「みょうじくんね。どうも。」

友達になる気なんて全くない。授業にはまた行かなくなるつもりだし。

「そ!みょうじ!」

人懐っこい笑顔を浮かべている。暑苦しい。逃げるように荷物をまとめて更衣室を出ようとすると「待って俺も行く」とみょうじが追いかけてくる。厄介なのに絡まれてしまった。



昼休みになり教室を出ようとすると、またみょうじに捕まった。

適当にあしらっているのにも関わらず、「教室で食べよう」としつこく付き纏われて折れてしまった。

食べ物のにおいが籠もった教室の空気も、自分の時間を侵してくるみょうじも不快だった。

「折原ってちゃんと話してくれんだなー。俺シカトされっかと思ってた。」

傍から見たらかなり雑な扱いをしているのに、幸せな奴。

「君って『なんでわかってくれないの?』とか言って振られたことないの?」

嫌味だ。こいつに効くかはわからないけど。

「んーないかな!」

やっぱり効かなかった。表情も何一つ変わらない。

へらへら笑って、いつでも元気で、そんな姿に周りの奴らも良い奴だ、面白い奴だなんて群がって、愛されてここまで生きてきたんだろう。負の感情に鈍感であることは、生きる上では得なのかもしれない。

いつかこいつが己の鈍感さに苦悩する瞬間が来たら、是非ともその顔を見せてほしい、と考えながら様子を伺っていると、みょうじは「でも、」と目を細めながら口を開いた。

「こうでもしないと、折原は俺と話してくんなかったっしょ?」

その言葉に思考が止まる。なんだ、それ。

「やっぱり変わってるよ」

「折原は意外とわかりやすいなー」




◆◇




「折原って好きな食べ物とかあんの?」

「作った人間の個性が見える料理」

「……創作料理ってやつ?」

「まあそれも含むけど、手料理なら、なんでも。」

「へえー折原はひとんちのご飯をためらわずに食えるってことか?すげぇなぁ」

「何だそれ」ではなく「すげぇ」と言われて、何度目かもわからない変な奴だという感想を抱いた。

「バレンタインのチョコとかは食うけどなんつーの?味付けがその家の味が強ぇからなんとなくなー。」

「家の味」という単語が若干引っかかるが塩加減とかそういうものか。よくわからない表現をする。

「そのわりに買い食いしてんだな!手料理が好きなのって既製品食い飽きちまったせいじゃねーの?」

「……言ったろ。個性が見えるから良いんだよ、手料理は」

「あ!俺の焼いた卵焼き食う?やるよ!」

口を開けろと言わんばかりに卵焼きを突き出される。

話の手前拒絶するのも憚られて、されるがままに口に含んだ。

「うめぇ?うめえっしょ!?」

こいつの家は卵焼きは砂糖派らしい。甘みが口に広がって塩加減もそれを引き立てていた。ほんのり出汁の香りもする。つまりは、想像していたよりも口に合った。

「それはうめえって顔だ!嬉しー!」

「都合よく解釈するな」と言いたかったが咀嚼が終わらず言いそびれた。本当に、調子が狂う。


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