冬のぬくもり


 かまくらが嫌いな子供はいないだろう。そんな安易な土方の思いつきではあったが、しょぼくれた幼子の機嫌を直すには充分だった。

 その日は近藤が寄合で不在のため稽古は休み。ミツバは風邪をひき、身体が弱いことや総悟にうつしてしまうことを懸念して床で静養していた。まだ十に満たない総悟がひとりになってしまうということで、土方に白羽の矢が立った。過去にも何度か子守りを頼まれたことはあったが、することと言えば一緒に飯を食べ、勝手に遊び回る総悟の様子を見守る程度であった。
 土方と総悟は顔を合わせれば喧嘩ばかりで、お世辞にも仲が良いと言える関係ではなかった。土方だって九つも下の子供とやり合いたくはないのだが、総悟の方が何かと突っかかってくる上に人を怒らせる才能に長けているようで、挑発にころっと乗せられ取っ組み合いばかりしている。
 どうせ今日も邪魔だの子供扱いするなだの喧嘩を売られるのだろうとげんなりしながら沖田家に来てみれば、寂しそうな、詰まらなそうな、そんな顔をして畳の上で仔猫のように丸まり、明らかに元気の無さそうな総悟がいた。
 外には冬の冷たい風がびゅうびゅうと吹きすさび、かたかたと障子を揺らす隙間風が、幼い身体だけでなく心まで蝕んでいるようだった。いつもであれば総悟がどんな様子であろうと極力放っておく土方だが、自身の幼少期が脳裏に浮かび、今目の前にいる子供の心細さをどうにかしてやりたいと思わずにはいられなかった。

「沖田センパイ、一緒にかまくら作りませんか」
 なるべく総悟の機嫌を損ねないよう、優しく声を掛けると、総悟がむくりと体を起こす。
「かまくら……」
「ああ、雪がいい感じに積もってたッス」
「……つくる」
 一面の銀世界に心が踊らない子供などそういない。表情の変化が乏しい総悟であっても、まあるくて大きな瞳からは高揚が見て取れた。

 昨日から今朝にかけて降り積もったばかりの新雪はふわふわで、土方が手伝ったのもありあっという間に雪の山を作り上げた。中に入るための穴を掘るころには総悟もいつもの元気を取り戻したようで、仔犬のようにはしゃいでは雪まみれになっている。
 踏鋤でサクサクと掘り進め、小一時間ほどでふたりが入れる大きさのかまくらが完成した。中に入ると風が遮断され、ふたりの体温が閉じ込められてほんのり暖かかった。
「ここに棚を掘ってロウソク立てようぜ土方!」
「近藤さんが帰ってきたら、もらっていいロウソクがないか聞いてみるか」
「うん!」
 かまくら作りが楽しいようで、土方には滅多に見せない素直な子供が顔を覗かせている。腰を下ろすために用意した麻袋は一枚しか無かったため、麻袋の上に胡座をかいた土方の脚の間に総悟が座り、前に放り出された両脚がパタパタと動いて全身で喜びを伝えてくる。その無邪気さに、土方まで童心にかえった心地がした。
「ねえねえ土方、かまくらもっと大きくできる?」
 自分の頭上にある土方の顔を見上げて、こぼれ落ちそうな両目をぱちぱちと瞬かせながら総悟が問う。
「雪はまだまだあるから大きくできるぞ」
「じゃあさじゃあさ、もっと大きくして、姉上と近藤さんも一緒に中に入りてぇ!」
「よし、ふたりがビックリするくらい大きくするか」
 どうやら土方もかまくらの住人に数えられているらしい。何のことはないが、土方が稽古の前に沖田家まで総悟のことを迎えに行くだけで「来るな」と反抗される普段を思えば、それは大きな進歩だった。子供らしからず他人をなかなか寄せつけようとしない総悟から、ほんの少し心を許されたような気がして、土方は何となくむず痒さを感じた。

 土方の腕の中では総悟が目を輝かせながら「入口にのれんをつけよう」「四つのいすを作ろう」と構想を語っている。
 そろそろ昼飯の時間ではあるのだが、土方はもう少し子供の体温を胸に抱いていたくて総悟のお喋りに耳を傾けていた。


2022/12/18
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