プレゼント


「クリスマスプレゼントは新型バズーカかぁ。土方さんにしちゃまぁまぁ良いチョイスですね」
 煙草を吸いながら、ほぼ終わりかけの書類の整理をしていると、そんな呑気な声が背後から聞こえてきた。
「馬鹿言ってンじゃねえよ、お前の私物じゃねぇんだから勝手に持ち出すなよ。始末書を書きたくなかったらちゃんと許可を取ってからにするんだな」
 組の懐事情はとても厳しいのだ。総悟の玩具にされてはかなわない。
 銃火器の増強の旨が書かれた報告書を、部屋の主より先に布団に陣取り、寝転がって組んだ脚をプラプラとさせながら眺めている総悟に念を押した。唇をつんと突き出して舌打ちをし、明らかに不服そうだ。
「なんだ、今年もクリスマスは仕事三昧だったから拗ねてんのか?」
 世間が浮き立つ時こそ警戒が必要な仕事である。数日前のクリスマスも働き詰めだったのだが、武装警察が対応する意義を問いたくなるほど酔っ払いの相手ばかりだった。何事もなく平和であったことを喜ぶべきか。
 総悟とは曲がりなりにも恋人同士、の関係だ。こうしてゆっくり顔を合わせるのも数日ぶりとあっては、いつもふてぶてしい総悟も流石に寂しさを感じたのだろうか。たまには可愛いところもあるものだ。
「いえ、クリスマスには特に思い入れとかねぇんでどうでもいいんですけどね。バズーカくらい土方さんのポケマネで買ってくれたっていいのにナーって、思っただけでさァ」
「……やっぱオメー可愛くねぇわ」
「俺に可愛さなんて求めてないくせに」
 そう言って総てを見透かしたような、意地の悪い笑みを浮かべた。

「さてと、実は土方さんにお渡ししたいものがあるんですが」
 寝転がっていた総悟が反動をつけて起き上がると、先程から総悟に寄り添うように置かれていた箱を差し出してきた。
 蓋を開けてみると、そこにはガラス製の灰皿が鎮座していた。透明度が高いのでクリスタルか。施されている細工は控えめで品を感じさせるが、光をたっぷりと吸い込んでキラキラ輝いている。ガラス製品に詳しくなくても、これは良い品だ、と分かるものだった。
「土方さんを撲殺するのにちょうど良いゴツさかなと思いやして。ドラマでよくある、死体の傍らに血のついた灰皿が転がってるシチュ、憧れてたんですよね」
 言っていることは物騒だが、こちらから求めたわけでもないのに早口で説明を始めるあたり、照れ隠しであることは容易に想像できた。
 前言撤回、可愛いとこもあるじゃねぇかと指摘したいところではあるが、この打たれ弱いドS王子の好意を無下にはするまいと踏みとどまった。
「お前、こんないいモンを撲殺に使うのは勿体ねぇぞ……今使ってる灰皿が小さくてな。不便だったからありがてぇ」
「いっつもステンレスの灰皿から吸い殻がこぼれてますもんね」
 総悟が呆れたようにこちらにジト目を向ける。
「それで土方さん、そっちのボロい方の灰皿なんですけど……」
 吸い殻がギュウギュウに詰め込まれ、すっかり灰で薄汚れたステンレスの灰皿を、総悟の細い指が指し示す。
「なんだ?」
「それ俺にくだせぇ」
「あ?お前煙草吸わねぇだろ」
「当たり前でしょう。……こっちの灰皿はアレです、ほら、俺の部屋にでも置いとこうかなって」
 相変わらず表情の変化は乏しいが、使い古された丸い灰皿を土方から受け取ったその手は、意味もなくクリクリと動いて忙しそうだった。
「そうか、そうしてくれると嬉しい」

 にしてもだ。プレゼントを用意するどころでなかったとはいえ、九歳も年下からこんなにイイものを貰っておきながら、自分が総悟にあげたものと言えば汚い灰皿ひとつ。これでは何とも格好がつかないと言うものだ。
 総悟からは以前も「お偉方の前でそんな奇妙なマヨライターを使うのはやめなせぇ」とジッポを貰ったこともあった。
 総悟からの贈り物たちのように、普段使いができて、いつも傍らに置いておけるような、そんなものが何か無いだろうか……。頭をガシガシと掻きながら、しばし考えを巡らせる。
「総悟、明日は俺と揃いの小柄でも買いに行くか」
 総悟は元から丸い目をまん丸にして、ぱちぱちとさせてから、すっといつもの表情に戻る。
「オソロなんて小っ恥ずかしいことよく思いつきやすね。流石ロマンチストな土方さんだ」
 そりゃあお前相手のときだけだよ、とは言わないでおく。
「でもそうですねェ、小柄ならさり気なくて良いですね」
 俺が選んでもいいんですか、なんて満更でもなさそうに言うものだから、早く明日になればいいのにと願わずにはいられなかった。仕事はほとんど終わっていることだし、今日はもう寝てしまおう。
 俺は総悟の待つ布団へと潜り込んだ。


2022/12/25
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