バカは一人じゃ笑えない
-----------------------------



 僕は実のところとても頭が悪い。明らかにADHDの類の悪さで、正確に言うとそれは障害だから「悪い」という言い方は適当ではないのだが、色々なところひっくるめて、本当に頭が悪い。
 例えば、同時に二つのことをするのがとても苦手だ。テレビと料理が一緒くたになると最悪で、八十稲羽に来てから、という短い括りでも、もう二度は小火を起こしている。テレビを見始めてしまうと、頭から料理中であるという事実はすっかりなくなってしまうからだ。
 調理を始めたらそこを離れなければいいと自分でも分かってはいるのだ。けれど、それだと時間がもったいないと感じ、ついなにか別のことを始めてしまう。そうしてしばらくしてから、不穏な黒い煙と鼻にツンと染みる匂いが台所から漂ってくる。こればっかりは何度やっても慣れない。慣れてしまっては困るのだけど。
 また、遅刻が多いのだって頭が悪いせいだ。別に、起きるのがいつも遅いというわけではないのだ。けれど、準備がとにかく遅い。時間があると思うと着替えや家事は途端にゆっくりになって、挙句の果てに要りもしないベッドメイキングなど始めてしまう。
 もちろん一時間後には準備が終わるという想定で起きているのだから、無駄な行動が一時間内に収められないのなら遅刻することなど分かりきっている。その上、いざ出るとなってからあれがない、これがないと部屋中を荒らしてドタバタするのだからもうどうしようもない。
 それ以外にも、単純に目覚まし時計をかけ忘れることも多いし、曜日を間違えて覚えていることや、忘れ物を取りに戻ったり道を間違えたり、僕の遅刻のレパートリーは豊富だ。誰にも自慢できることではないし、どうせみんな言い訳としか思わないので誰にも話せないのが残念といえば残念だった。
 どうして、僕の頭のつくりは一通りではないのだろう。いつだってそれが歯がゆくて悔しくて皆が憎かった。それでも、勉強を人よりたくさんやって、人よりたくさん軽蔑されて叱られながら手に入れたエリートコースだった。それなのにそれなのにそれなのに! ああ!!
 一体、あいつらが僕の努力の、苦労の、何を知っているというのだろう。ちょっと勉強すればすぐに何でも理解できて、約束事はメモを取らなくても覚えることが出来るいい頭を持った奴らに、一体この僕の何が分かるというのだろう。百遍綴っても方程式の一つも覚えられない、忘れないようにと取ったメモをそれごと無くしてしまうこの出来損ないの頭が、どれほどの苦労を重ねてここまで登ってきたのか、どうしてそのいい頭を使って想像してくれないのだろうか。
 結局、奴らもバカに違いない。


「足立さん、どうして来てくれなかったんですか。俺、ずっと待ってたのに」
 こいつだってそうだ。めでたいバカの一員に違いない。
 僕の頭の悪さなんかとっくのとうに知っているはずなのに、悲しげな顔でそう聞いてくる少年に失望しながら笑ってやる。
「まさか、ほんとに来るとでも思ってたのぉ? バカだなあ君も」
 子供が期待したままを言ってやると、彼はいかにも傷ついたといった顔をするが、その裏に透ける愉悦が隠しきれていなかった。
 本当は、その約束事は取り付けた時点で仕事とブッキングしていたというだけの話だ。僕だってこの子供が待ち合わせを何時間でも、雨が降ろうと槍が降ろうと少し地球が壊れようと太陽が割れようと守ることは知っている。だからその約束を叶えられそうにないと分かった時点で、僕はちゃんと伝える気でいた。けれど後回しにするたびに記憶は薄れていって、結局僕は真っ暗闇の中、神社前で立ち尽くす彼を見つける今この時まで、約束を忘れていたのだ。
 だから、僕の言葉は嘘だ。少年が言って欲しいままを言ってやっているだけに過ぎない。
「どうして貴方はいつもそうやって」
「どうしてだろうねぇ。君が嫌いだからかもしれないよ?」
 これもサービスだ。
 どうして僕がこんなサービスを彼に振舞ってやるかというと、彼の姿が恐ろしく悲惨だったからだ。
 運悪く待ち合わせ場所は雨と槍が降り、それが原因なのか地割れが起きて、更にそれの影響でどこかのミサイルでも誤射されたのか、それとも全くの偶然なのか、割れた太陽の破片が落ちてきたらしく、あたり一面が酷い有様になっている。少年はその被害を体いっぱいに受けて、びしょぬれの上に槍は刺さっているし、足はどちらといえないくらい細かく折れ曲がって、至る所が焼け焦げてはみ出してちょっと人間とは思えない有様になっていた。顔と肺、それに聴覚が無事だったのは奇跡的だ。おかげで彼はまだ僕の嘘を聞けるし、答えることが出来る。
 僕がきちんと約束を別の日に移動させていれば、流石にここまで酷いことにはならなかったように思う。確かに太陽が割れてしまったせいで町というか世界はこの世の混乱を極めているようだったし、死者も数え切れない。けれど、彼のような存在がこの災害をここまで直接受けるなんてこと、イレギュラー中のイレギュラーだろう。普通にしていれば、彼は怪我一つ負うことなく、この世界の危機に立ち向かっていた気がする。
「……」
 しかし現実はこうだ。彼は生きているのが不自然なくらい、全身めちゃくちゃに壊れていたし、僕の嘘に唇をかみながら喜んでいる。
 それがどうにも申し訳なくて、僕は冷え切ったこの地球でわざわざ彼を接待してやっているわけだ。
「足立さんは、本当に俺のことが嫌いなんですね」
「うん。すっごい嫌い。今すぐころっと死んで欲しいくらいだよ。すごく苦しそうだし……」
「ああ、駄目ですよ足立さん。粗が目立ってきてますよ。もう一頑張りだ」
 しかし僕の頭は相も変わらず出来がよくないので、つい口を滑らせてしまう。
 きちんと指摘してくれる少年を失望させないように悩みつつ口を開くと、少年は出来のいい教師のように、ただうっすらと微笑む。
「あ、そっか、ごめん。じゃあね、えっと、そのまま地べたで、外れた歯に取れかけた内臓突き刺されて、顔中胃腸に囲まれて、ぐっちゃぐちゃのまま苦しめばいいと思うくらい、大嫌いだよ」
「そう! そんな感じで!」
 少年は僕の言葉を聞くと、途端に涼やかな表情をかなぐり捨ててそう叫んだ。彼のむき出しの心臓がバクバクと脈打っているのが見えて分かりやすい。これなら彼の満足いく言葉をすぐに見分けられそうだ。便利な体になってくれた彼がいじましくて、案外こいつだけはバカじゃないのかも、などと期待しそうになってしまう。
「なんだったらそこに落ちてる膵臓とか、踏みつけてくれてもいいんですよ」
「ええっ!? それは無理だよ気持ち悪いし」
「そうですよね、足立さんは俺の事嫌いなんですもんね。そんなこと出来ませんよね」
「そうだよ、気持ち悪い。君の臓器なんて、僕が構うほどの価値ないし?」
「そうですよね!!」
 赤い心臓が激しく蠢く。僕の言葉にこんなに喜ぶ人間なんて、この少年くらいだ。
でも、例えこの少年一人でも、僕の貧相な頭が人を幸せに出来る……。
そう考えると、鳩尾の辺りがじーんと熱くなって、僕は思わず泣きそうになってしまった。というか、思ってもみないことだったので堪えるには間に合わず、泣き出してしまう。
「う、うう、ありがとうなんて思ってるとかちょっとでも思ったら殺すから」
「足立さん、今日は頑張りましたね。俺の方がお礼を言わなくちゃ。ありがとうございます」
 少年は自分の臓物や肉の残骸に囲まれて、綺麗に笑いながらそう言った。やっぱり約束を守ってやればよかった。少年は流石にそろそろ死ぬだろう。心臓は何故かまだ動いているが、体が体としての機能をまるで残していないのだ。
僕は基本的に少年のことが妬ましくて羨ましくて恨めしくて腹立たしかったのだが、やっぱり死んでしまうというのは悲しい気がした。今となっては憎しみを抱くエピソードが思い出せないためだ。というより、少年に関することが今この場で進行している状況しか思い出せなかった。
僕はこの少年に今日ここで始めて出遭ったのではないかという気さえする。太陽がなくなった影響だろうか。どうも、頭の精度が落ちているようだった。だからこそ、そんな僕の事を馬鹿にせず話をしてくれる少年が、今はいとおしかった。

「ねえ、……あれ。えーと、なんだろう。ごめん、君の名前ってなんだったっけ?」
「足立さん?」
「君も足立さんって言うの? 僕もなんか、そうやって呼ばれたことがあるような気がする。あれ? なんか、よく思い出せないんだ。うーんと、ねえ、足立さんは頭がいい? 僕は悪いんだ。それですごく困ってる。愚図だし、鈍間で、バカにされるんだ。皆よりいつも一歩遅れちゃって」
「……どうも、やりすぎたみたいですね」
「そうなのかな? 何が? ごめんね、僕、きちんと主語と述語が揃ってないと良く分からなくて。国語の文章読解は分かるのに、いざ人と話すとなると全然駄目なんだ。この間も、話を聞かないって注意されて、けど、どうして注意されたんだったか……」
 いとおしい少年は、訝しげな顔をして黙り込んでしまった。恐らく体が痛むのだろう。僕はどうやら一人で喋りすぎたのだと気がついて、倣って黙ることにする。
「……」
「……」
「足立さん。ちょっとお願いがあるんですけど、聞いてくれませんか?」
 暫くして、少年が口を開いてそう言った。ゆっくりと、言い聞かせるような口調は安心もしたが、どこか嫌な記憶を突付く。どうも、不穏だった。
「? うんと、僕に君がお願いってことであってるよね? いいよ」
「ありがとうございます。あのですね、俺は見ての通りこんな体ですよね。それで、自分じゃ動けないじゃないですか。だから、俺を堂島さんの家に運んで欲しいんです」
 不穏な空気はそのまま少年の口から吐き出されて、僕に直接ぶつかった。あまりに酷い申し出に、僕は舌を噛みそうになりながら何度か口をぱくぱくとさせ、少年に問いかえす。
「えっ、じゃあ、僕は君を抱えなきゃいけないの!?」
「はい、お願いできませんか?」
「ええ〜、でも、そんなことしたら死んじゃうんじゃない? 色々、取れそうだし……」
「心臓と頭さえ繋がっていれば、大抵のことはどうにかなるもんですよ」
「そうかなぁ。そうなのかなぁ」
 少年はギラギラした眼差しで僕を見つめて食い下がる。どうしてもその見た目のグロテスクさや不安から、気乗りしなかった。けれど、次の彼の言葉で、僕の拒否権は完全に剥奪された。
「償いだと思って」

 もはや僕は自分の罪など思い出せないのだが、けれど、その言葉は有り得ないほどの重みでもって、僕の頭を傅かせた。



さて、彼の頭を持ち上げた時のことはもう持ち前の頭の悪さでさっさと忘れてしまいたい。
 ぶちぶちと剥がれていく筋繊維や内臓のどこか。あふれ出す見たこともない色の液体。濃い血の香りに混じった糞尿のえぐさ。それらが丸ごとスーツに零れていくのは全然いい思い出になりそうもなかった。
 僕は持ちやすさを考慮して、彼の心臓に繋がる器官以外は殆ど取ってしまうことにした。僕の両手では頭一つに、心臓を乗せたらもういっぱいだろうし、注意力散漫なことを考えると、あまり持ち物を増やしたくなかった。
 少年はそうして、頭一つと心臓、それに繋がる太めの管だけの姿になると、もう一言も喋らなくなってしまった。声を出す仕組みがもぎ取られたのだから仕方ない。それにしても心臓が動いているのは不可解だが、まあ僕が知らないだけで、賢い人はそういうことが出来るのだろう。
 僕は身軽になった少年を持ち上げる。身軽とはいえ、その意外な重みが腕に掛かると、僕は突然緊張した。落としてはいけない。絶対に、何があっても。
血で滑りそうなので随分冷や冷やする。もし落としたら最後、この重みが丸ごと少年にぶち当たる。そうなったら、今度こそ少年は死んでしまうに違いなかった。
 僕はもう一度少年を地面においてスーツを脱ぐと、袖を自分の背中の辺りで括り、お腹の辺りに背広で簡易なおんぶ紐を製作した。これなら万が一手を離しても、即座に落下、ということにはなるまい。ワンクッション、ということだ。
 よし、といいながら少年に再び手を伸ばすと、彼の顔が柔らかく微笑んでいた。僕はなんだか恥ずかしくなってしまって、反面、そんな少年の血塗れの唇にならキスくらいしてやってもいいかななど、余計恥ずかしいことを考えてしまう。
 邪念を振り払うように一度首を振り、僕は少年の後頭部がお腹に当たるように彼の頭を抱えた。逆にすると呼吸が苦しそうだったからだ。今の彼は呼吸が出来ているのか怪しいものだったが。

「行くね」
一声かけると、僕は償いのため、足を踏み出した。
 そしてすぐ止まった。
「あれ? ごめん、どうしよう、僕は君をどこに運べばいいんだっけ?」
 何度も言うが、僕は本当に頭が悪いのだ。
 完全に行き先を忘れてしまった。少年が、どこかに自分を連れて行って欲しいといっていたのは覚えている。けれど、肝心の場所が思い出せない。たった一度しか聞いておらず、メモも取っていないし、他の事が衝撃的過ぎてその部分が全くの空白だった。
 そして最悪なのが、彼にもう声を出す器官が残されていないことだった。もう彼は、僕に目的地を教えてはくれない。そうしたくても出来ないのだ。
「わあ、どうしよう! 本当にだめだ。なんだっけ、頭文字っていうか、ええ? 町の名前だったっけ? 遠野? それとも海とか? あれ? ああ本当に思い出せない!」
 どれほど喚いても、少年は黙り込んだままだった。当たり前なのだが、それが余計に僕を混乱させた。とにかく顔が見たい。そう思い、僕は彼の顔の向きを軽率に、くるりとやった。
 僕は自分の頭の悪さは十重に承知していると、奢っていたのかもしれない。だからこそいつまで経っても対策が出来ず、そのせいで人並みの生活を手に入れることが出来なかったのかもしれない。プライドが高すぎるせいでこの頭の悪さへの嫌悪より、それを理解して受け入れてくれない世界を嫌って、それで済ませてしまっていたのだ。
 僕は、どこまでも愚かで救いようがない。

 血で滑ったわけでも、取り落としたわけでもなかった。
少年の顔がこちらを向いた時。その時にその美しい顔に表れていたその表情。それに僕は心底驚いて、怯えて、嘆いて、怒って、心に穴が開いて、一声叫んだ。
 そうして少年の首は、あっけなく地に落ちて、パアンという破裂音をさせて跡形もなくはじけた。足元を赤いつぶつぶが汚して、靴には彼の綺麗な目がへばり付いた。髪の毛は塊でそこかしこに散らばり、脳漿や頭蓋骨、脳ミソは僕の顔まで飛び散っている。

 腰に巻いたスーツなど、何の役にも立たなかった。それはその仕組みの杜撰さのためではない。その証拠に、彼の真っ赤な心臓だけは、そこに引っかかってぽつんと取り残されていた。
 ではなぜ、頭は落ちたのか。
簡単なことだ。僕が放り投げたからだ。

 彼は、心底軽蔑した目で僕を見ていた。行き先を忘れてしまった僕のことを、酷く哀れみながら、嫌悪していた。あの時の顔が、全ての人類に被って、重なって、僕はそれが怖くてとても嫌いで、彼を投げ捨てたのだ。
 腰からいくらか離れたところまで飛んだ頭は、クッションに引っかかるはずもなく、暫く空中を遊泳した後、ただ落下した。ふんわりと浮かび上がる血に染まった銀髪と、見開かれた同じ色の目は、もう僕の足元で何ともつかない。

「あああああああああ! うぜーんだよ! どうして僕をバカにするんだ! テメーの頭がいいのの、何がそんなに偉いんだよ! 僕のほうがいい高校に入ったんだ! いい大学を出たんだ! 僕のほうが! あああ! 死ねっ! 死んじまえ、どいつもこいつも! 死に損ない野郎が!」

 それでもまだ怒りは止まなかった。彼だけは馬鹿じゃない、僕を受け入れてくれる。そう少しでも思ってしまった自分の情けなさや浅墓さが惨めでならなかった。頭が悪いというのはつまり弱者ということで、そんなものに甘んじて少年に媚を売ったことへの後悔が腹のそこをぐるぐると疼かせて、僕は残った心臓を握りつぶしてやろうと、おんぶ紐の上に乗った心臓を手に取った。
 そしてその時、気がついた。
 まだ、動いていた。しつこすぎる。頭がいいと生存能力も高いのだろうか。淘汰されるべき頭の弱い僕を、そんなところでも詰る気なのか。信じがたいほどの屈辱が全身を襲う。
「畜生! どうしていつも俺を馬鹿にするんだよ!!」
 悔しかった。恐ろしい苛立ちに任せ手に力を込めると、心臓が急に激しく脈を打ち始めた。全身が震え出しそうなほどの衝撃に何とか堪える。僕はそれが死に際の抵抗なのだと、初めはそう思っていた。
 けれど力をどれだけ込めようと、その脈動は止むことなく、一定のリズムを保って僕の全身を揺らす。

ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!

 手に、体に、そのリズムがいきわたる。何度も何度も、繰り返される。その音。その感触。潰そうともがいてももがいても、脳を直接震わせるその鼓動。間違いなかった。これは、言葉だ。

 もしかすると、謝罪か、それとも目的地を未だに伝えようとしているのではないか。そう思い、僕は誰から教えられることもなく、口を開く。心臓の鼓動が、そのまま僕の体を伝って、言葉として出せるということを、僕は何故だか知っていた。

 償いだと思って。
 少年の言葉が、思い出されて苦しくなる。
 僕の罪を、彼はどこまでどうして許してくれるのだろうか。僕は一体何に償って何に許されればいいのだろう。何も分からなくなってしまった。どうして僕は口をあけているのだろう。全てが曖昧で、何もかも何かに飲み込まれてしまいそうな中、握った心臓は一回一回、爆発するような鼓動を打っている。そしてそれは、僕の口から音として、町中に響いた。
 何に、どこで、どうやって償えばいいのだろう。僕はどこからやり直せば、もう謝らなくて、償わなくて済むのだろう。
 心臓の声が僕を全て否定する中で、それでもそうやって考えてしまうのは、やっぱり僕がバカだからだ。
 青年から子供、赤ん坊、それを超えて胎児まで、精子や卵子まで、どこまでも僕は戻っていく。右手に張り付いた心臓の鼓動が、果てしなくその記憶について回り、笑っている。僕を卑下して嘲笑って蹴落として捻って殺すような笑い方で、彼は小さな僕をバカにする。
 けれども、その笑い声はやっぱり美しくて、僕はそれをいとおしく思わずにはいられなかった。



『産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない! 産まれ損ない!』



 たとえ体を巡るその言葉がいくら僕を殺そうとも、僕は彼の笑い声が嬉しくて、羊水の中でカプカプ笑った。










prevnext



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -