イ・キカイ・テル(主足+花)
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「もしもし、花村? 俺」

「相棒? どうした、こんな夜中に」

「ちょっと急用があってさ。遅くにごめんな。寝てた?」

「いや、課題やってたよ。大学ってマジダリー……っと、急用って?」

「あのさ、俺、一か月くらい前に足立さんを殺しちゃっただろ?」

「ん?」

「で、死体を桜の木の下に埋めただろ?」

「……し、知らねーよ! しかも、は、殺したって、足立さんを? お前、だって、一緒に探したじゃねーかよ! テレビの中をさぁ!」

「なんだ、知らなかったのか。花村は遅れてるなあ」

「冗談なら止せって。縁起でもない」

「おいおい、縁起担いでる場合じゃないだろ」

「……お前、なんか変だぜ? 熱でもあんじゃねーのか」

「変ってまあ、人殺しだしな? 変じゃないわけないだろ。花村ってバカだな」

「ああ、酔ってる? 大学生だからって、まだ未成年だろ! 堂島さんが泣くぜ」

「はは、ばれたか。足立さんが俺んちにきてるんだ。飲まずに平常心なんて保てそうになくてさ。っていうか、飲むと平常心が保てそうだろ? 初めて飲んだよ、ビール。ちょっとゲロみたいな味がする。花村は、好きじゃなさそうだ」

「はあ? 足立さんが? お前の家に? なんだ、生きてるじゃねーかよ酔っ払い! びっくりさせんじゃねーよ!」

「花村、鈍いな」

「……っまえな〜! ……はあ、もう切るぞ? お休み」

「お、おい、落ち着け! 悪かった! そうだ、俺、変なんだ。酔ってるし……。謝るから、すまない。頼む」

「……本当、おかしいぞ」

「そうなんだ。危ないんだ、多分。お願いだ。お礼はするから」

「……分かった。落ち着くまで付き合うよ。ダチだもんな。気の済むまで話してみろよ。大方、環境色々変わったからだろ、お前らしくもねーけどさ」

「ありがとう……。じゃあ、いいか? もう一度言うけど、足立さんが、動いてるんだ。うちに来たんだ」

「足立さんだって人間だからな、動くだろそりゃあ。まあ、わざわざ東京くるっつうのは、ちょっとあれだけど」

「人間ならな。だけど足立さんはもう人間じゃないんだ。死体だ、腐乱死体だ。耐え難いほど臭い。あと、溶けてる」

「……。ちょっと待て。確認したいんだけど、お前、足立さんを殺したってさあ」

「本当だよ。殺した。俺、生田目の時と同じ感じになっちゃって。ほら、足立さんって、ああだろ。どうしても耐えられなくて、武器ならいっぱいあったし、どれかでバキッとやって、どれかでギコギコやって、ぐちゃってなって、桜の木の下に」

「その足立さんが、お前の家にいるっていうのか?」

「そういうことだ」

「お前は今どこにいるんだ?」

「ん? 家だよ家。大学入って借りたアパート。西武線沿い。結構いい。お前も一回くらい呼べばよかったな」

「そうじゃなくてさ、それじゃあ、足立さんと一緒にいることになっちゃうじゃねーか」

「いや、実際、隣にいるよ、足立さん」

「お前の殺した足立さんが?」

「そう! だんだん鼻も慣れてきたけど、やっぱ臭いが、ああ、すみません。あっ、そんなに怒らなくっても……はい?」

「相棒?」

「悪い、ちょっと足立さんに代わる」

「え? え?」

「……もしもぉし! 花村、くん? 足立で〜す!」

「あ、ハイ、花村です」

「ね、普通さぁ、仮にも人生のセンパイ、叔父さんの知り合いに、臭いって言う?」

「いや、オレはそういうことは、言わないと思いますけど」

「でしょお! だってよ**君!」

「あ、あの」

「うん? 何?」

「もしかしなくても、二人してオレをからかってます? 足立さん元気だし、っていうか、生きてるし……」

「あー、だよね、生きてるっぽいよね? 僕コールセンターでなら働けるかなあ? まぁ職場環境酷そうだけどね〜。はは。でも嘘じゃない。死んでるよ、ちゃあんとね。殺されちゃったから」

「死体はしゃべらないですよ」

「そうだね〜。そうだけど、まあほら、ゾンビとか?」

「んなバカなことが……! いや、仮に足立さんがゾンビだとして、どうして相棒のとこに来て、何にもしないでオレと電話する必要があるんですか?」

「それなんだよね! **君が僕のこと『夢だろう』って信じてくれなくってさぁ! 臭いって言うくせにねえ!」

「いやいや、オレが言いたいのはそうじゃなくて」

「ううん、聞きな。君に電話したのはこのためだし。ねえ、僕の声、**君の声に聴こえる?」

「まさか! オレだってあいつの声かそうじゃないかくらい、分かりますって。足立さんの、少なくとも相棒とは別の奴の声に聞こえます」

「でしょお? **君ってばさ、『足立さんが俺の幻覚かそうでないかは、第三者の介入なくして証明することはできない』って、僕のこと認めようとしなくって。本当は分かってるくせにね」

「つまり、相棒はオレにそれを証明させるために?」

「そういうこと! でも、もう十分! **君に代わるね、言ってあげてよ」

「ちょ、ちょっと」

「……もしもし?」

「もしもし」

「なあ、花村は、お前、足立さんと、話したか?」

「う、うん……。少なくとも、お前じゃない、誰かと」

「……そうか」

「どうしたんだよ、なんなんだ?」

「いや、噛みしめてるんだ、因果応報ってやつ。ところで噛みしめるっていうと、凍り豆腐を思い出すな。アレ、結構好きなんだ。もう一回食べたかったなあ。こういう時、ステーキとか寿司とか言えないのが庶民くさいよな、まああんまり肉肉言うと里中みたいか。ふふ。あいついっつもそればっかで、けど」

「おい! わけわかんねーって! 因果応報ってなんだよ?」

「おい、言わせるなよ花村。ゾンビで、殺した恋人で、夜で、深夜だ。もう分かってるだろ?」

「分かんねーよ! ふざけんな!」

「もしも〜し!」

「え? は、足立さん?」

「僕に説明しろってさ、可哀想に、泣いちゃって、あ、これオフレコ〜。はは」

「えっと、」

「ま、定番で恥ずかしいんだけど、僕って結構執念深い! っていうか、やられっぱなしじゃ納得いかなくってさ。あは。だから生き返って、でも溶けてるから、動けなくなる前に**君をぶっ殺しちゃおうかな〜って。まあ、因果応報、に反する気もするんだけど。ラッキー! みたいな」

「足立さん?」

「君に電話したのは、ちょっと反省してほしかったから。しっかり自覚もってね。……それじゃあ、長々とごめんね! **君にに代わりまーす!」

「足立さ……」

「……ってこと。分かったか? お礼、やっぱ無理かもしれない。本当に、ごめんな」

「それどころじゃねーだろ!」

「俺は義理深い男だったってことだ。足立さんは殺すけどな」

「……凝ったドッキリ、だよな?」

「そうだよ、そう思っててくれ。……大成功だ!」

「相棒」

「色々言って悪かったな」

「おい、なあ、」

「遅くにすまなかった。あと、今までのこと、ありがとう。楽しく暮らせよ! 人は殺すな!」

「待て、相棒」

「……じゃあ、おやすみ」


その翌日、オレはジュネスで買い物をする相棒を見た。その後も相棒は何度かジュネスに電池を買いに来たが、そのうち見かけなくなった。
オレはついに、一度も話しかけることが出来なかった。











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