星はもう寿命
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 血塗れの少年がカパと口を開くと、そこからヒトデがあふれ出した。ぽろぽろといくつも、いくつも、色とりどりの軟体生物がこぼれ出て止まらない。それはとても生臭く、狂暴だった。僕は血塗れで少年の足元に力なく転がっていたので、そのたくさんのヒトデがいちいち顔にあたるのだ。顔にあたったヒトデの何匹かは、僕の顔にペトリと張り付いて頬や鼻をがじがじとやる。それはいたくて、くすぐったくて、いつかの少年の愛撫を思い出させた。
「ウニのほうが良かったかな」
 ヒトデをはがそうにも、持ち上がる腕はもうないので、僕は諦めて好きなようにさせている。ヒトデに覆われていない左目で少年を見ると、呆れたことに彼はまだヒトデを吐き出しているので、僕の言葉に答えることができない。
「ハハ、バカみたい」
 少年が眉をひそめた。
 吐き出されるヒトデに、赤色のものが増える。口をぽっかりと開けたその顔は本当に馬鹿みたいで、僕はおかしくて堪らなくなる。しかし笑っていられたのも短い時間だった。少年と同じに、馬鹿みたいに開いた僕の口に、ヒトデが入り込んだからだ。ヒトデはとてもぬめぬめとしていて、やっぱりそれは、いつか少年からもらったキスに似ていた。緩慢な動作で口を閉じたときには、二匹のヒトデが僕の口内で踊っていた。奥歯にあたる星の先端を噛みしめると、磯の香りが鼻に抜けた。じわん、と沁み出すヒトデの体液は、ちょっとしょっぱくて、恐ろしく苦かった。
 僕に端っこを食べられたヒトデは、奥歯の強襲から逃げようと僕の食道に滑り込んでいった。そっちはダメなのに、とヒトデの愚かな選択を嘆きながら、僕は仕方なしにもう一匹のヒトデを勢い良く吐き出した。青いヒトデだった。彼はなんと、少年の頬まで飛んで張り付いた。
「ふっ、ギャハハ!!」
 その光景の面白さに噴出した僕を見て、少年もあいまいに笑う。そして今度は青いヒトデを吐き出しながら、しゃがみ込んで僕の顔についたものを一つ一つ丁寧に剥がしてくれた。揺れる瞳が僕を映していて、その鏡像はいつもの僕よりも美しかった。少年の目なんて、嘘ばかりだ。
「あ、あひは、げほっ」
「ん? なあに?」
「うそ、ひゃ、な、うえっ」
「バーカ、そんなの、信じる訳ないだろ」
 白いヒトデを吐き出し始めた少年が、その隙間隙間に挟んでくる言葉の意味なんて、僕にはわからないけれど。
「ほんおに、あいひ、げええ、ああひは、ぐえっ。……う、ばか」
 ぼろぼろと、またヒトデがふってくる。これじゃあいくら剥がしたところで同じだから、僕と少年は距離を置くか、剥がすことを諦めるべきなんだ。両方やったっていいくらいなのに。僕の体がこんなに襤褸だからか、少年の瞳や言葉が真実だからなのか、なんにせよ彼はいつまでもヒトデを吐き出しては剥がす。いつまでもいつまでも。
 第一僕は知っているのだ。僕のお腹の中には地球がすっぽり入っていて、そいつがブレイクダンスを踊っていることを。少年の胃には今に穴が開いて、ヒトデなんか吐いてる場合ではなくなっちゃうことを。もちろんこれは嘘だが、少年がヒトデを剥がしたところで、いつかどうしようもないおしまいがくることは確かだ。嘘でも真実でも、どうしようもないことだってある。
 それでも、信じてあげないことが僕にできるせい一杯だったので、僕はまた大声で笑った。











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