サーカスと太陽
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 街にサーカスが来る。

 俺は叔父からもらったチケット二枚を持て余していた。何故だか学校には誰もいなかったからだ。みんなすでにチケットを手に入れて、サーカスを見に行ってしまったのかもしれない。開場時間が迫っていた。夕焼けに染まった廊下が俺を急き立て、思わず駆け足になる。パタパタと階段を下りる俺の足音だけが学校中に響き渡った。
 人気のない学校を走りながら、どうして叔父は菜々子や自分と行こうと誘わなかったのだろうかと、今さら疑問に思う。違和感を打ち消そうと、立ち止まって財布にしまったチケットを引っ張り出した。自分の指がいつもよりも白く細く覚束ないのに対して、サーカスのチケットは毒々しい色でその存在を主張した。紫やピンク、緑に黄色。原色だらけの背景の中、うたい文句が赤と黒で書かれていて、ひときわ目を引いた。
『魔術師、悪食、ケロイド娘、がらんどうに天眼通、絡繰り、継ぎ接ぎ、芋虫男』

それを見て俺は、どうも見世物小屋やフリークサーカスの類のようだと悟る。確かにこれではあの親子は見たがるまい。むしろ叔父など、取締りにでも行きそうなものである。
 そうだ、とまた新たに疑問が生まれる。叔父はどうしてこんなサーカスを取り締まらないのだろう。それどころかどうして俺にチケットをくれたのだろう。非人間的なイメージばかりある見世物小屋がどうして現代に存在しているのだろう。
 不思議だな、全くもって不思議なことばかりある。首をひねりながら、とりあえず学校を出た。

 チケットを読むにサーカスの会場は商店街で、あそこにそんなスペースありはしないだろうにと、ますます不可解だ。それに、学校を出てもなお人の姿が見当たらない。太陽も雲も動かない。鮫川沿いの道までそんな状態が続き、なんだか気味が悪いですね。そうこぼすと、俺の隣にはいつの間にか足立さんが立っていて、「そうかな」なんて答えた。
 なんだか気味が悪いですよ。俺がそう繰り返すと、足立さんはもうその意見に興味をなくしたようで、「遅れちゃうから早く!」とはしゃいだ声を返して見せた。
 彼はいつもの気だるそうな、投げやりな、無感動で無関心な態度でなく、子供のようにそこに存在していた。始まっちゃうよ、間に合わないよ。急かす声が楽しげで優しげで、俺はなんだか、もう何でもよくなってしまった。
 何でもよくなってしまった俺は、ガソリンスタンドのあたりから丸ごと商店街がなくなってしまっていることも、そこ一帯を巨大なテントが覆っていることもあまり気にならなかった。
「間に合ったね」
沈まない太陽を指さしながら、足立さんは笑った。
「そうですね、俺たちまだ大丈夫ですよ」

 人のいない町で、その言葉は無性に空虚に零れ落ちるのだった。


※  ※  ※


 黄色と赤の縞模様が書かれた巨大なテントは、黒い黒い入り口を静かに開いて俺たちを待っている。ガソリンスタンドの看板がその横に打ち捨てられており、ガソリンスタンドが壊されてこのテントがなったのだと分かった。全貌は見えないが、この様子だと神社はおろか、小西酒店までこのテントで覆われてしまっているように思われた。一体どうしたことだろう。
 気にはなるが、やはり足立さんが入り口を指さし俺を急かすのでそれが全てになってしまう。
 はい、今行きますと一歩その中に入ると、すぐに上り階段があった。サーカスの、テントの中のものとは思えない立派な木製の階段だった。艶々とニスでコーティングされた手すりや、金糸で縁取られた赤じゅうたんがその先の暗闇に飲み込まれている。もしかするとすでにショーは始まっていて、俺はもう化かされているのかもしれない。バカバカしいと笑ってしまいたかったが、できなかった。
 そもそも今日の登校時、商店街が普段通りだったかこのような異常な状態だったか、はっきりと思いだせなかったからだ。違ったような気も、こんな風だった気もしている。街の人々も、朝からいなかったのか朝まではいたのか思い出せない。しかしもし今朝からずっと異常だったというのなら、俺は今日一日学校で何をしていたのだろう? 誰もいない教室で、少なくとも夕方まで何にも知らずに何をしていたというのだろう。それに、人々が一斉に消えたとして気付かないのはあまりに不自然だ。
 一体いつからこのような状況に俺がいるのか、そして俺の記憶はいつからはっきりしていて、いつからこのように腐り落ちてしまっているのか、何も、まるで分らなかった。考えだすと恐ろしく、恐怖心からか足の下の階段の感触さえおぼつかない。しかし、いつの間にか俺の手をつないで前へ前へと誘導する足立さんの手だけは、妙に熱く、現実的だった。怖くなってその手をぎゅっと握ると、足立さんが笑う。
「君って案外小心だよねえ、目なんか閉じちゃってさ。席、ついたよ」
「え?」
 目を閉じた覚えなどなかった。全て見ていたつもりだ。しかし、事実俺の目は開いた。開いたということはつまり、閉じていたのだ。視界に飛び込んできたのは階段などではなく、ガランとした舞台と幾席も並んだ観覧席だった。ドームのちょうど半円が舞台などの設備、残りの半分が座席となっていて、座席の方は前列から後列まで段差が作られているので、どこの位置からも舞台が見えるようになっている。
 足立さんが指し示す席ははちょうど舞台の真正面で、列としては少し前寄りに位置していた。かなりいい席のようだ。しかし、そのいい席もあまりうれしいとは思えない。そのホールには他に人間がいなかったからだ。これではどこでも座り放題だ。
 「やー、ほんと間に合ってよかったよ! もう始まるでしょ? 開演×時だもんねえ? あ、ほらもう誰か出てきた! まさにギリギリセーフってやつだねえ」
 最後のほうは声を潜めながら、やっぱり足立さんは無邪気だった。俺の左側にある席にさっと座って、もう舞台のほうへ身を乗り出している。舞台にはいつの間にか人影があって、俺もあわてて足立さんの右隣りに腰を下ろした。

 「さあさ皆様お静かにお静かに! 今宵お見せいたします世にも珍しい諸事の数々、見落とせば二度とは見られぬ奇々怪々。後悔先に立たずと申します。どうぞお静かにご覧くださいませ」

 舞台の上手で声を張り上げ、司会を務めているその女に見覚えがあった。議員秘書の妻の演歌歌手だ。流石声量が桁違いのようで、その声は大きなテントの中に朗々と響き渡った。ただ、依然観客は俺と足立さんの二人きりだったので、口上には若干の違和感があった。融通は利かないらしい。
 「それでは初めにご覧いただくは、西洋魔術にございます。彼はドンナものでも消し去る奇術師でしたが、それが災いして今では己まで行方不明……。迷い足掻いて辿り着いたはこの舞台。それもそのはず。自らを見失った彼には、自分を見つめる他人の視線が何よりもまず必要なのでございます。皆様どうぞ、目を凝らして、よくよくご覧くださいませ」
 下手からしずしずと一人の少女と、長いマントを身に着けた仮面の男が現れた。男はマントを翻し、首を左右に振りながら舞台中央まで進むと、行儀よくお辞儀をした。細身の男で、俺は彼に酷い既視感を覚える。よく見るとマントの下に着ていたのが俺と同じ制服だったからかもしれない。外にはねた明るい茶色の髪のせいかもしれない。酷く、『彼』に似ていた。そして隣の少女も『彼女』に酷似している。
 俺が頭を悩ませている間に、薄茶色の髪の少女は男(あるいは少年)の前に様々なものを置いていく。箱や傘、ボーリングのピンやギター。彼女の長い髪は表情を隠していて、男はそんな少女を黙って見つめていた。
 いくつかのものが並び終えると、男はどこから出したのか、胡散臭い杖を大げさに掲げてみせた。
 「アレを消すってことかな」
 食い入るように舞台を見つめる足立さんがぼそりとそう言ったと同時に、男はまたも大業に杖を振り、声を上げた。するとどうだろう。足立さんの予想通り、彼の目の前にある雑多なものがすっかり姿を消してしまう。てっきり一つ一つ消していくのかと思っていたので、その鮮やかさに俺は驚かずにはいられなかった。しかし一番驚いていたのは当の本人、奇術師だった。
 「先輩!? ああ、畜生間違えた! 間違えた! 違うんだお願いだやり直させてくれ!」
 男はしゃがみ込むと、奇怪な身振り手振りで何かを探し始めた。俺はその時初めて、助手の女の子が舞台上から忽然と姿を消してしまっていることに気が付く。今やガランとした舞台には演歌歌手と、男だけが立っていた。俺も足立さんもキョロキョロとそのあたりを見回すが、やはり少女はどこにもいなかった。
 奇術師は気でも違ったかのようにあたりをひっかきまわし、先輩! 先輩! と叫んでいる。何もないはずの空間からはガチャンガチャンと騒がしい音がし、それがまた奇妙だ。ジャアン、とギターの鳴る音さえ聞こえる。
 「誰だ! 先輩を誰が、誰が消しちまったんだよ! おい! 誰だ! 誰だ……」
 男は舞台から飛び降りると、最前列の座席を駆け回り、最後はドームの端ですっと消えた。しかしドタドタという足音だけがまだそこらじゅうに響き渡っていて、どうやら彼はものを透明にする魔術を使うようだと今更合点がいったのだった。

 「犯人探しに協力してくださるお客様、閉場後に募集でもかけてみましょうか。ああ悲しきは彼の無実、そして盲目……。彼は助手を探しに、行ってしまいました。それではお次にお見せいたしますは、類稀なる悪食少女。中でも血肉が好物でございます。どうぞ、目などつけられませぬよう」
 司会がそう声高に宣言すると、次第に足音は遠のいて行った。入れ替わるように下座から出てきたのは、馬を連れた短髪の少女。上は緑色のジャージを着、下は俺の高校のスカートをはいていて、またも俺に強い既視感を与えた。しかし、奇術師と同じように鼻から上は仮面で隠れてしまっていて、その顔の全貌は見えない。見えないから、俺には彼女が誰だか分らなかった。
 馬は鼻息荒く蹄を床に擦り付けているが、少女はそれを気にする様子も見せず、まず俺たちのほうに口をいっぱいに開いて見せた。特に異常な様子もなく、口内の肉色と白い歯が舞台の黄色っぽいライトに照らされているばかりだ。少女はそうやって「種も仕掛けもありません」と口の中を確認させた後、カチッと音を立てて口を閉め、にっと笑う。そうして自分の右手にいる馬のほうへ向きなおると、もう一度口を大きく開けた。悪食少女。その語感の通りに彼女は動く。
 少女の口が閉まると同時に、馬のけたたましい鳴き声とぶちぶちっという音が会場を覆った。少女が馬の首筋を食い破ったのだった。暴れる馬をものともせずに、彼女は馬を食らい続ける。血塗れになりながら、何度も何度も噛みつき、引き千切り、咀嚼し、嚥下する。それは機械的であり、本能的だった。躍動する彼女と馬は美しく、絶対的な弱者と強者が争っているようでもあり、一つになろうともがいているようでもあった。
 ちらりと左を見ると、あまりに強く鼻孔を刺激する死の匂いに参ったのか、足立さんは俯いて左手で口元を抑えていた。
 馬が徐々に衰弱し、やがて何の声も上げなくなってもその行為は続けられた。肉のひしめく音だけがテントの中に延々と、延々と響く。俺の横で足立さんが呻き声を上げる頃には、馬は骨ばかりになっていた。
 少女は馬の肋骨あたりの骨を一本持っていて、そこに残った馬の肉を歯で綺麗にそぎ取ると、ステージの端に放り投げる。彼女は血でぐっしょりと濡れ、しかし微笑んだ。その柔らかにカーブした口をもう一度開くと、スッと俺を指さして「カチカチカチ」と歯を鳴らした。食べさせてくれ、という意思表示に違いなかった。馬をあのように破壊せしめた口内はしかし、先ほどと変わらず美しいままだ。そのことが一層恐ろしく感じられ、俺は足立さんの右手を強く握った。いつもならばふり払われるその手も今は力なく、俺を受け入れてくれる。それに少し勇気づけられた俺は、少女に向かって無言で首を振った。
 少女は少し残念そうに首を傾げるが、すぐにまた笑顔を立て直し手を三回たたく。すると今度は下座から、髪の長い、まだ十歳ほどの女の子が舞台に躍り出た。少女に駆け寄る女の子の黒髪がなびく。俺は彼女の涼しげな眼元が、あの子にとてもよく似ていることに気が付いた。
 (でも、別人だ。年齢も顔の本質的なつくりも、まるで違っている)
 しかし少女がその女の子後ろに回り込み、小さな肩を抱いて口を大きく開けた時、俺にはこの後の光景がはっきりとわかり、そしてそれを見たくないと強く感じた。誰のためなのか、言い訳をしたまま俺はそっと目を閉じる。
 数秒後、肉や頭蓋の潰れる音が聞こえた。


※  ※  ※


 その後も、グロテスクで奇怪な見世物が続いた。鳥人間(全身に火傷をしていて、ケロイドの腕が鳥の翼のようになっている少女)が虫を食べたり、継ぎ接ぎ男(彼の腕や足は人間のものではなかった。たとえばそれは虎やウサギや愛らしい人形)が絡繰り人間(ロボットだと思いたい)と体の交換会をしたり、悪夢のように現実味を欠いた見世物だ。残酷なことが起こらない分、がらんどう(中に何も入っていないのに動く人形)や天眼通(透視能力と銘打っていたが、マジックのようだった)はまだましだった。
 司会が今終わった継ぎ接ぎと絡繰りのまとめをしている。俺は先ほどのおぞましい切断音や接続音を思い出し、足立さんの右手を強く握り直した。俺に握られっぱなしの足立さんの手はしっとりと汗ばんでいる。明らかに俺の冷や汗のせいだった。さぞや不快だろうと思い当ってあわてて手を離し、申し訳なさから思い切り顔をそむけた。
「あああごめんなさい! あの俺今まで気が付かなくて」
 べちょ、と力ない音。違和感。今そむけた顔を、今度は向ける。

 「あ、だち、」

 さんは、そこにいなかった。そこにあったのは彼の右腕だけだ。肩のあたりで千切れた右腕が、そこに座っていた。血の気のない腕が俺をにらんでいる!

 「さあー皆様、長らくお楽しみいただきましたこのショーも次で最後の見世物となります。お次にご覧に入れますは、手足なくした芋虫男! 這いずるばかりで何の芸もございませんが、どうぞ存分に憐れんで、お楽しみくださいませ。それでは本日はありがとうございました。またいつか、この世のどこかでお会いできる日に……」

 司会が自分の役目を終え上座に消えると同時に、下座から乱暴に小さな影が転がり出た。蹴飛ばされたようにゴロンゴロンと回転して、丁度ステージの真ん中で止まる。その影は、足立さんだった。服は着ておらず、何より、手足がなかった。
 彼は全身を捩るように動かしてどこかへ逃げ出そうとするのだが、動きがのろすぎてどうにもならない。顔を歪めて荒い息をつく。
 「足立さん!」
 見ていられなくなった俺は座席を階段のように駆け下りて、舞台へ駆ける。そうして最前列からステージへと移動しようとしたその時、腕を引かれた。
「お客さん、そういうのは困りますって」
さっきまではいなかった白髪の人物が、俺の右腕を掴んでいる。
「離してください、この人は俺と一緒にこのサーカスを見に来ただけの観客です。返してください! 手も、足も!」
「そんなこと言われたって、ねえ」
「ふざけるな!」
ぐいと右腕を引くと、白髪は存外簡単に俺の手を解放した。薄ら笑いの赤い目が愉悦で潤んでいる。
「じゃあハイ、チケット」
白く長い指をこちらにひらひらと降りながら、言葉を継ぐ。
「ここはね、入るのは自由さ。お金もチケットもそこでは取らない。でも出るときにね、チケットをもらってるんだ。ホラ、だしなよ」
 俺はもうどんな言葉で対応すれば応酬になるのかわからなかったので、財布から乱暴にチケットを出すと、そいつに突き出した。
「足立さん、帰りましょう。帰りたい、もう俺帰りたいです。あるいは、もっと早くから帰りたかった」
泣きそうになりながら足立さんのほうへ手を伸ばすと、彼も泣き出しそうな顔で俺を見つめた。
「**君」
もう彼にはこちらに駆け寄る足も、伸ばす手もない。それが堪らなく悔しくて俺は歯ぎしりをした。足立さんを抱き上げようと屈んだその時だった。
「ハイちょっとまって。あのね、足りないよこれ、一人分」
白髪に再び手を掴まれる。
「だって二枚」
「ないけど?」
白髪はひらりひらりと、一枚だけのチケットを振っている。そんなはずはない、と思い再び財布の中を見るが、チケットは確かにその一枚きりだった。
「あんたがどこかに隠したんだろう!」
「そんなことはしないよ。君が隠してるんだ、こんな芋虫男、本当はつれて帰りたくないからってさ」
 意地悪だね。白髪まで泣き出しそうな目をして(それは優越感からだったが)そう言う。あまりの言い草に我を忘れ、白髪に殴りかかろうと一歩踏み出したその時だった。ガシャンと音がした。俺の足元の座席が、地面が割れた音だと気づいたのは、白髪と足立さんに見下ろされて落ちていく途中のことで、もはや何も間に合わない。

 「じゃあまたいつの日か! はいこれ、お土産」

 白髪が何かをバラバラと穴の中に投げ入れる。徐々に小さくなっていく白髪と足立さんに必死に手を伸ばすが、やっとの思いで手にできたのは、白髪が投げ入れた足立さんの四肢だった。


※  ※  ※



 自室のベッドで目を覚ます。階下からは日常の物音がしている。菜々子の声、叔父の声、足音、食器の重なる音……。二人の鳴らす日常の音に、こんなにも安らぎを得るとは思わなかった。サーカスのことも芋虫になった足立さんのことも、この町で起きてしまう殺人事件や霧のことも全部、悪夢だったような気さえした。
 そう、すべておかしな夢だった、そう思えたならどんなに良かっただろう。事実、思いかけたし期待した。しかしその可能性は俺の体の異常で否定される。
 手足が一対ずつ増えていた。両腕はそれぞれわき腹から、足は本来の足の間に。いつの間にか制服もそれに見合うように仕立ててあった。もちろんこれは、足立さんの手足だ。夢などではない。
 慣れない体で懸命に立ち上がり、カーテンを引くと、夕日が広がっていた。あのテントに入る前と同じ空がそのまま、しまい忘れたみたいに。
 「ああ、そっか」
 ふと思いついて足立さんの右手で制服のポケットをまさぐって、ぐしゃぐしゃになったサーカスのチケットを引っ張り出す。一度確認したときに、財布に戻さずにポケットの中へ入れていたのだった。
 少し遅くなったけど、見つかってよかった。安堵のため息をつきながら、俺は4本の腕を器用に使ってそのチケットで紙飛行機を作る。そうして、窓を開けて動かない空に投げつけた。紙飛行機は夕日にこつんとあたって見えなくなったが、きちんと足立さんの元へ届いただろう。夕日が墜落して月が出て、今度は太陽が昇って朝になったので、俺はそう確信した。これで万事OKだ!
 足立さんが無事に戻ってきたら、二人で巡回サーカス団を作ろう。









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