「やあ姉上。暇を持て余してるみたいだね。良ければ僕と二人で熱いひと時を過ごさないかい…?このホットココアのことだよ」
「しっぽり青江っ…!ちょうど暖かい飲み物が欲しいと思ってたんだよー。一緒におこたでぬくぬくしながら飲も飲も」
「良いねぇ。二人でじっくりと暖まり合おうか」
暦の上では冬を迎えた11月の末。
例年より少し暖かった気温は今日になってぐんと冷え込み、今年もまたこの本丸にこたつに引き籠る季節を迎えた。
今日は遠征部隊が出払っている事に加えて審神者である弟も部隊を引き連れて演練に行っているらしく、いつも賑やかな本丸はしんと静まり返っている。
刀剣たちが居ないとなんだか余計に寒く感じるなぁと布団を深く掛けなおしているとマグカップを両手に持った青江が来てくれたので一気に身も心も温かくなったように感じた。
「…やっぱり冬はこれに尽きるよねえ…こたつにあったかいココア…そして隣には可愛い刀剣男士…最高かよ…」
「同感だね。冬の寒さは鋼の僕たちの体を凍えさせてしまうものだけれど、そのお陰で君とこうして暖まり合えるのだから嫌いにはなれないな」
「…ヒェン…好き…」
「おや、そう易々と想いを告げるだなんて君もお好きだねぇ…。僕でなければ本気にとられてしまうかもしれないよ」
「バカ、本気に決まってんじゃん…。寒いのが苦手なのに冷たい厨に入って私の為にあったかいココアをいれてきてくれる青江を好きにならないわけがないよ」
「…やれやれ、君には敵わないね」
眉間を寄せて困ったように視線を逸らす姿に胸がギュッと熱くなる。
青江は一見大胆なように思えるけれど、これでいて案外照れ屋だし素直じゃないところがあるから益々可愛いんだよねぇ。
普段私の周りに誰かしらが居る時には自ら近寄ってくることはないれど、今みたいに私が一人の時にはどこからかすっと現れて静かに隣に腰を降ろすのだ。
「…以前から聞いてみたいと思っていたんだけれど、君には赤ん坊の頃の記憶が残っているのかい?」
「赤ん坊って例えばどれくらいの歳の頃?」
「そうだね…例えるなら君がまだ母君の腹の中に居た頃の記憶かな」
「おおっと、流石にその頃記憶はまったく無いね。ごく稀に覚えてるって人も要るみたいだけど大抵は3歳ごろまでの記憶は残らないみたいだよ」
「へぇ、そうなのかい。それは残念だ」
「まあもしかしたら覚えてるって人も居るかもしれないから手始めにうち弟にでも聞いてみるといいんじゃないかな」
「そうだね。主が帰還したら折を見て聞いてみるよ」
「でもなんでそんな事が聞きたかったの?」
「……気になってしまったんだよねぇ…」
「気になった…?」
「母親の腹の中に居る赤ん坊はどんな心地なのだろうと。母の胎内に包まれ守られて、無常の愛を受け続ける気持ちが知りたかったのさ」
「……」
「鋼から生み出された僕には分からない事だけれど、心地が良い場所なんだろうね。もしかしたらこのこたつと同じように暖かくいつまでもここに居たいと思えるような所なのかもしれないな」
「なるほど。それじゃあ今ここはお母さんのお腹の中みたいなものか」
「心地良くて離れ難いものだねぇ」
「青江と一緒だから尚更心地よくて離れられないよ」
「……ねえ、姉上」
君の胎内に包まれたらとても気持ちが良いんだろうね、と消えそうな声で言った青江はそれ以上口を開かずそっと瞼を閉じた。