そのA
「いやはや、本当に助かりました。感謝致します姉上殿」

「これくらいいつでもお任せあれ。私も乱ちゃんの服を選ぶのすっごく楽しかったしね。どれも似合そうだからつい色々買いすぎちゃったわ」

「乱に女の子の洋服が欲しいと強請られた時はどうしたものかと思いましたが姉上殿に協力していただけて本当に良かった。どうやら私がネット通販で選んだものは気に入らないようでしてな…」

「あの熊ちゃんマークのTシャツね。あれも可愛いんだけど乱ちゃん的にはもっとレースとか花柄とかそういう路線が良かったんだろうねー。私にもそういう年頃があったからよく分かるわ…可愛い服買って!って親におねだりしたらアニメキャラがプリントされた服を選ばれた時のあのなんとも言えない気持ち……」


先程まで新品の服が入っていたピンクの紙袋を畳みながら「御両親のお気持ちが手に取るように分かりますなぁ…」と苦笑いをする一期一振の背中からは絶妙な哀愁が漂っている。
我が本丸にはある程度誉が溜まると主である弟からご褒美がもらえるという制度があり、この度めでたく彼の弟である乱ちゃんが誉を沢山取って来たという事で本人の希望により可愛い女の子の服がプレゼントされる事となった。
しかしファッションに疎い我が弟に女子向けの服を選べるわけもなく兄である一期が刀剣男士用のネット通販で見つけた服も絶妙に可愛さに欠けるしろものであったが為に私に白羽の矢が立ったというわけだ。
弟と乱ちゃん本人から連絡を受けた私はすぐさま浮かれ気分で女子中高生向けのショップに駆け込み服を選んできたというわけだけど、なんせあの可愛さだ。どれを選んでも似合うに決まってる。
むしろあの美少年の魅力を引き立てるにはこれくらいじゃ物足りないと店員を巻き込み服だけでなく靴やら帽子やらアクセサリーまでも吟味した末、ショップから出る頃には私の両腕には大量の紙袋がぶら下がる結果となったのである。
ここまで持ち運ぶのはかなり大変だったけど服を見るなり目をキラキラとさせて「早速着てくるね!」と興奮気味に襖の奥へと行ってしまった乱ちゃんを見たら疲れが全部吹っ飛んじゃいましたよ。領収書見た弟が引っくり返った事はこの際気にしないでおこう。


「じゃじゃーん!どう?可愛い?」

「ッギャーー可愛いいい!!!めちゃくちゃ似合ってるよ乱ちゃーん!!」

「ほんとに?ありがとうお姉ちゃん!えへへ、僕この服すっごく気に入っちゃった!」

「ひえ〜〜パステルカラーのレーススカートを履いた妖精が居るよぉ…。眩しすぎて目がやられちゃいそうだわ…。こんなに可愛くて素敵な弟さんをお持ちなんて羨ましいですなぁ一期さん」

「……」

「…え、ちょっとどうしたの一期!?」

「一兄…?」

「しっかりしろ一期〜〜っ!だ、駄目だ…弟の可愛すぎる姿に感動しすぎて気を失ってる…」

「うわーん!死なないでよ一兄〜!」

「何騒いでんだー?って、うおっ!?どうしたんだよ一期!?」

「ナイスタイミング弟〜!早く一期を手入れ部屋に連れて行って!乱ちゃんが可愛すぎるあまり一期が重傷にっ!!」

「いや何が起こってんだよ!?」


一期一振は手入れ部屋に運ばれる最中もうわ言のように「かわ…かわいいっ…」と呟き、その後私が選んできた服達は”兄を殺す服”としてこの本丸で長く語られる事となった。



2019.8.2


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