女の子の日
「うーぐぉおおおお…痛い…」
「大丈夫ですか先輩…後は私達に任せて少しゆっくりしててください!」
「お言葉に甘えようかな…ここで休んでるから何かあったら教えてね」
「分かりました!任せてください!」
頑張りますと意気込む後輩を見送り扉が閉めれると同時にベンチに倒れこむ。
毎月恒例の女の子の日が来たのだが如何せん今回はなかなか手強い…。おへその下あたりにある激痛は動けば動くほど酷くなるし頭はぼんやりするし酷く眠い。おまけにイライラするもんだから厄介なのだ。
後輩が気を使ってくれてほんとに助かった…。部活中に一人だけ休むなんて申し訳ないけど今は誰も居ないし少し気分が良くなるまで休ませてもら、
「カーッ!!あっちぃ〜!!」
「今日は蒸すな」
「着替えんとやってられんな!!真波、お前もちゃんと新しいレーパンに着替えるのだぞ!」
「はいはーい」
「はいは一回だ!」
「新開さん、あとで僕のフォーム見てもらえませんか?」
「おう、任せとけ。…お?どうしたんだ名前、そんなとこで寝っ転がって」
「ナァニ一人でサボってんだよ!!仕事サボってオネンネかァ!?」
うわぁああ来たよ最悪のタイミングに最悪なメンバーが!!
そういえば今日は雨だからレギュラーメンバーでローラー回してたね!!終わったんだね!!タイミング悪いなぁちくしょう!!!
「あーごめんごめん、ちょっと睡魔が…」
「ハッ!!後輩働かせて一人サボりたぁいいご身分だぁネ!!」
「働きますよ〜…洗濯でもしようかな」
「あ、じゃあこれ頼むぞ」
「ぶっ!!ちょっ、投げんな!!」
「俺のも頼む!」
「綺麗に洗っとけ」
「俺のもお願いしまーす!」
「……」
新開を始め次々と汗臭いジャージが私に向かって投げつけられる。
……落ち着け、落ち着くんだ私。ここでイライラしちゃいけない…こんなのいつものことじゃないか…。
しかし慣れているはずの汗臭いジャージの匂いが余計に気分を悪くする。
あーダメだ、頭痛い…。
「む?綺麗なタオルがないぞ名前!」
「あー雨続きで乾くの遅いんだよ。干してるやつなら乾いてるから」
「うむ!じゃあ降ろしてくれ!」
「へいへーい……」
のろのろと洗濯棒を使い天井に吊り下げた洗濯物をひき下ろす。
こ、腰が痛い…!!!これくらい自分でやってくんないかなぁぁあああもう!!
いや落ち着け私!!これはマネージャーの仕事じゃないの!!選手を支えてあげるのが私の仕事なんだから生理ごときに負けてる場合じゃない!!!
「ど、どうぞートウドウクン」
「うむ、すまないな。それにしても名前、さっきから少し顔色が悪いようだが…」
「そんなことないヨー」
「顔が引きつっているぞ?」
「んな事ねぇつってんだろ触角抜くぞ」
「ヒィッ!?」
ハッ…いけないいけない…東堂に八つ当たりしちゃった…。
脅えている東堂に冗談だよごめんと謝りベンチに腰掛ける。休憩をとりつつ上手く生き延びよう…。
「名前先輩、制服のボタン取れちゃった」
「あー…付けとくから出しといて」
「名前、パワーバーの新フレーバー買っておいてくれたか?」
「ごめんまだ。てかどれか分からないから次買出し行くとき付き合ってよ」
「分かった、デートだな」
「デートだと!?ならんぞ!!新開とデートするくらいなら俺とデートする方が有意義だぞ名前!!」
「あーウン分かったから大声出さないで…」
「分かってない!!いいか名前!!お前はもう少し警戒心を持つべきだぞ!!仲間と言えど俺たちは男なのだからな!」
「いいなぁデート。ねえ名前先輩、俺ともデートしようよ。先輩と山に登ってお弁当食べれたら俺幸せだな〜」
「ナァニあほみないなこと言ってんだよ。おいブス、休んでんなら今すぐペプシ買ってこい!!」
「あ、僕が買ってきますよ荒北さん」
「お前はいいんだよ泉田ァ」
「聞いているのか名前!!危機感をだなぁ!!」
「名前せんぱぁーーい!!」
「だああああ!!うるせええええ〜〜〜!!!!!!
「ヒィッ!?」
「耳元でピーピーピーピーやかましいわ!!!!こちとら体調最悪で今にも倒れそうだっつーのにやれ洗濯だやれタオルだボタンだデートだペプシだぁ!!!自分でやれ!!!!」
「お、落ち着け名前…!!どうしたお前らしくも無い」
「ハァア!!?うっせー黙れ!!!あーーーもうお腹痛いし頭も痛いし腰痛いしもうやっ、……いったぁ…っ!」
「お、おい!!」
「大丈夫か名前!?」
大声を出してしまったせいで我慢していた痛みが一気に押し寄せた。
思わずその場にへたれ込む私に唖然としていた皆が慌てて駆け寄ってくる。
「ど、どうしたというのだ名前!!しっかりしろぉ!!」
「あ、アブゥ!!!救急車!!救急車呼びましょう!!」
「どうしよぉおお名前先輩が死んじゃうー!!!」
「縁起でもねえこと言ってんじゃねえヨ!!」
「死ぬな名前!!おめさんが死んだら俺たちはどうしたらしいいんだ!!」
「落ち着けお前ら。名前、立てるか?」
「福…むり…動いたらいたい…」
「そうか…」
「でもこののままにしておけないしどうしたら…」
「失礼しま…って、皆さんなにやってるんですか?」
「葦木場ァ…こいつがちょっと体調悪いみたいでネ」
「しかしなぜこんな事になったのだ!風邪か!?熱でもあるのか!?」
「ちがうって…あれだってば…」
「「「「「あれ?」」」」」
キョトンとした顔で首を傾げられる。女の子がアレって言ったら察してくれよ…。
一向に引かない痛みにだんだん冷や汗まで出てきた。
薬飲みたいけど動くことも出来ないしどうしよう…。
「あっ…先輩もしかして…!ちょっと待っててください!!」
「お?なんだよ葦木場…どっか行っちまいやがった」
「戻りました!!」
「早いな!!」
「苗字先輩、大丈夫ですか?保健室で薬と湯たんぽ貰ってきました…白湯も貰ったからこれで飲んでください」
「あ、しきばぁ…」
「俺の姉ちゃんもよく辛そうにしてるから…あ、あと動けるようになったら横になってる方がいいかも…」
「うん、ありがとぉ…ありがとね葦木場…」
「えへへ…」
慣れた手付きでテキパキと世話を焼いてくれる葦木場の優しさが嬉しくて思わず涙目になりながらお礼を言った。
オロオロと私の周りで騒いでいた連中は私が少し顔色が良くなったのを見てホッと胸を撫で下ろした。
「ハァー…急にキレて倒れるからビックリしたぞ…」
「結局アレってなんだったんだ?」
「察して欲しかったんだけどな…女の子の日ってやつだよ。今回は本当に酷くてね…」
「そ、そういう事かヨ!!なんだよ驚かせやがって!!」
「あー、その、悪かったな…そうとは知らず…」
「先輩って生理痛酷いんですねぇ〜」
「ま、真波ィ!!直球過ぎるぞお前!!」
「名前、悪かった。仲間であるお前の体調不良も気付けず仕事をさせてしまった。すまない」
「いやいいんだよ福。私もごめんね…イライラしちゃって…キレてあんな事言っちゃったけど好きでやってる事だから良いんだよ」
「そうか…」
「しかし葦木場の手際の良さには驚いたな」
「俺たちも今後の為に介抱の仕方を覚えんとな!」
「いや、それいいって…気を使ってくれてありがとね」
「ならん!今回ような事があってからでは遅いんだぞ名前!!」
「腹温めるといいのォ〜?」
「そう、みたいです。俺の姉ちゃんは湯たんぽとか使ってて…。あ、あと時々彼氏の手で温めてもらってるって…」
「手で?」
「はい、後ろから抱きしめるように手にお腹を当ててもらって…」
「な、なるほど…よし、次に腹が痛くなったらこの山神がお前を温めてやるぞ名前!!」
「それはいいって…」
「名前、東堂より俺のほうが手が大きくて暖かいぞ?」
「大きさなら俺は負けん!!」
「福チャンかっこいい!!まぁなんだァ、テメーのブヨブヨの腹なんか触りたくねえけど倒れられてもこまるしなナァ」
「アブ!」
「俺も名前先輩のお腹いっぱい擦ってあげるよ!」
「あーだからもう良いってば!!気持ちだけで充分!!ありがとね!!」
「名前に無理させないように周期も把握しておくべきだな!!名前、今何日目だ!」
「セクハラァ!!もういいってばーー!!」
2014.5.28